7話:襲来者
「大丈夫、大丈夫! 死にそうになったら回復と助けに行くから! それじゃ、頑張ってねー!」と、俺に言った後、レオはほうきで空高く、俺と魔王のはるか頭上に飛んだ。
「あいつ…!」
魔王はレオに目掛けて、手から魔力を固めた弾を放った。多分、当たれば無事ではいられないだろう。
「レオ!」
「大丈夫、大丈夫。…『魔力切断』。」
レオがそう言って、指を鳴らすと、たちまち魔王の放った魔力弾は、ボシュッ、というように消えた。
そして案の定、その魔力弾はレオには届かなかった。
「ははっ、ざんね~ん。」と、レオは笑っていた。
「くそっ…!」
魔王はどこか悔しそうだ。当たり前だよな。年下(多分)の、しかも女の子に倒されたんだからな。俺だってそうなったら悔しいわ。うん、同情するよ、魔王さん。
ぼーっとしていた俺に、レオは上から言った。
「ほらほら~。ルア、戦って~!ファイト~!」と。
ふざけないでほしいな~。
そう思ったが、俺はその思いを胸に秘めたまま、さっさと魔王を倒そうと思った。
…いや、まずまず、倒せるのか?
レオに圧倒されてるこいつを見てたら倒せそうだな~って思ってたけど、俺とレオの実力差がよくわからない。だが、レオの方が上だということはわかる。確実に。
だったら魔王と俺の実力差は?レオを信用してない訳では無いが、さっき死にそうになったら―
とか言ってたし、簡単にボコされる可能性もあるわけだ。
……考えてても仕方ない。今俺に残された手段は、魔王と戦う他に無いのだから。
『コネクト!攻撃魔法はどうやるんだ?』俺は心の中でコネクトにそう尋ねた。
♦♦レオ♦♦
ルア…何考えてるんだろう?さっきからぼーっとしてるけど…
と、レオはルアを見ながら考えていた。
まあ、魔王は私の方を意識してるっぽいからいいか。魔王の能力は至ってシンプルで、体を―
♦♦ルア♦♦
コネクトからの返答はすぐに来た。
『攻撃魔法は、まず普通に風や火など、主なエネルギーをイメージします。そこから、ひたすらに尖らせてください。』
『尖らせる…?』
『はい。魔力ではなく、“魔法のコントロール”です。』
そこで、俺にはある疑問が浮かんだ。
『魔力のコントロールは知ってるけど…魔法のコントロールってなんぞや?』
そんな疑問をぶつけてみたら、コネクトはすぐに答えた。
『ひたすらにイメージをするんです、尖ったエネルギーを。少しやってみましょう。魔王さんは、今レオさんに気を取られてるみたいですから。隙を突きましょう。』
隙を…『…いや、隙を突くのの卑怯じゃないか?小さく練習してから戦ってみるよ。』
『そうですか。』
…よし、やってみよう。まずは…そうだな……風…いや、水にしてみよう。
俺は脳内で水をイメージし、それを魔力量を少なくし、小さく、尚且つ丸くして、手の平からほんの少し浮かせて発現させた。
そして脳内で浮かべたそのら水のイメージを、ひたすらに尖っている水へと変えていく。すると、それと同時に、手の平に発見した水魔法の先端が尖っていった。
それは鋭く、触ってみると痛いほどだった。
…なるほど。こういうことか。よし!いけそうだ…!俺は尖った水魔法を消し、魔王に呼びかけた。
「おい!そこの…えーと……魔王さん!あなたを倒します!」
今まで頭上のレオを見ていた魔王だったが、その言葉には反応し、俺の方をくるりと振り向いた。
「あ?なんだお前…?」
「未来の『革命者』だ。手合わせを頼むよ。まだ転生してから1時間ほどでね。」
「んだと…!…革命者をそう簡単に名乗るな!」
魔王がそう怒ると同時に、彼の体は元の体から数倍に大きくなり、やがては今の俺の体の3倍にも膨れ上がった。その身長に比例するように体の横幅も広くなり、彼が本当の意味で大きく見えた。
「さあてと、やろうか。」
彼は、さっきとは比べ物にならないほどの野太い声を出した。俺は一瞬その姿に後ずさりしたが、拳に力を入れて、自らを鼓舞した。
そして、「かかってこい!」と彼に言った。すると、魔王はその体から生み出されるとは思えないスピードで拳を俺に向かわせた。
その拳は、俺の体2分の1ぐらいの大きさで、受けたら無事ではいられないことを感じた。そして、横に跳び、なんとか避けた。そして俺はその時にイメージした、少し前に見た、レオの魔法、『水流斬』を。
これは水魔法を尖らせ、相手に突き刺すという魔法のはずだ。多分。
俺はそのイメージした状態で手に力を入れ、見事に水流斬を複製した。魔力量は俺の方が多いけど。
俺の手から出た水魔法は魔王の左足太ももの外側に当たった。俺は魔法を維持したまま右に勢いよく動かした。
「うぉぉぉぉぉ!」
すると、魔王の左足は太ももから下にかけてが俺の魔法によって切断され、魔王はバランスを崩して倒れた。
「ぐあっ…」と、そんな声を上げながら。
俺は魔法を遮断し、レオの方を見た。すると、レオがほうきの上から俺にグッドポーズをしていた。
俺はレオに向かって微笑んだ。その瞬間、魔王は体を起こし、そして俺を殴り飛ばした。