3話:バリアスについて
俺と対面で、深刻そうにレオは語り始めた。
「この世界は…まず、魔物がいるよね。さっきのオークとか。」
「うん。いたな。」
「そんな魔物を統べる、『魔王』がいるんだよ。それも複数体。」
「へぇ…?」
複数体…?俺の勝手なイメージでは魔王というのは1人なんだが…
まあ、世界それぞれだよな!ここはもとより異世界なんだし!
それから俺はレオの話を黙って聞き続けた。
「その上の魔王の種類があって、『覚醒魔王』がいる。あ、ちなみにそのまんまの意味ね。さらにその上、このバリアスの魔物、魔王類を統べる者『悪魔』がいるの。それと対に、人類を統べる者『天使』もいる。2人は共に敵対関係で、だけど戦争はしてない。けどついこの前、天使が死んじゃって…今は人類の安全が確保出来ない状態なんだよ。この前だって国が3つぐらい潰された。」
つまり、バリアスは危険な状態なんだな…俺はレオの話でそう捉えた。
そして俺はレオに思わず聞いてみた。
「打開策とかは…?」
レオはまだ深刻な顔をして答える。
「…ひとつだけ。ある。」
「…それは?」
「『革命者』だよ。悪魔を倒すことでこの世界に革命を起こして、世界を平和にする、ていうやつ。昔はいたんだけどね。今は悪魔に殺されちゃった。」
革命者…
俺のイメージだと勇者的扱いなのかな…?
ん~…「だったら俺が革命者になるよ。」
「………え!?」
レオは少し長めの沈黙を置いて驚いたようだ。
「え、ちょっと待って…えー、まずまずどうして?」
「どうしてって…この世界のこの状態を、少なくとも俺はそのままは見てられない。」
そんな言葉を聞いて、「…ふふっ。」と、レオは少し笑った。
そしてそれに続けて言う。
「優しいんだね、ルアは。けど…」
「けど?」
「今のルアの強さじゃ無理だよ~。」
ガーン!俺はその時強い衝撃を覚えた。
「いや、確かにそうだけど~!そんなはっきりと!?」
「ははは。あっ、そうだ。」
レオは何か思いついたように、椅子から立ち上がった。そして少し離れたところに置いてあった、手鏡を持ってきた。そして俺にそれを渡した。
「はいこれ。自分の姿、まだ知らないでしょ?女としての、ね。」
レオは、なぜか俺が元男だということを知っているかのようだ。
「あれ?話したっけ?そのこと。」
俺は手鏡を持ちながらレオの方を向いてそう言った。
「いや、話し方で何となく、ね。」
「なるほどね……ありがとう。」
俺は恐る恐る伏せていた鏡の面を自分の方に向けた。
すると、そこに写ったのは、女の子の顔。綺麗に形が整っていて、可愛らしい。瑠璃色の瞳で、髪色は驚くことに、青藍色をしていた。そしてその長さは、手を後ろに回して触った感じ、肩甲骨の下辺りまで伸びている。
…長っ!そんな新しい顔を手鏡でまじまじと見ていると、レオが話しかけてきた。
「気に入った?」
「…まあね。」顔がタイプだし、声も可愛いし。何かと気に入った。…まあ、心の中にその気持ちは留めておくけど。
「ねぇルア。」
俺はレオに、手鏡を見たまま答えた。
「ん~?」
「革命者と同時進行で『魔女』になるつもりはない?」
唐突だな。
「…なんで?」
「理由は色々あるけど…やっぱり1番は、革命者に値する強さを手に入れるためだよね。」
…なるほど。確かに、この世界を救うため、強さは必須なのだろう。
「ん~、わかった!魔女になってみたい!」
俺がそう言うと、レオは笑った。
「んふふ。良かった!それじゃあ魔女学校に行こうか。」
「うんうん。いつ?」
「今から。」
「え、今から…?どういうこと?」
「そのまんまだけど?今から私が魔女学校に送るから、そこで魔法について3時間ぐらい学んで来て欲しいだけだよ~?」
「3時間…わかった~けど、そんな時間だけで魔法とか使えるの?」
「3時間あれば十分だと思うけど?」
…?…まあ、やるしかないよな。俺はそう思って椅子から立ち上がった。
そして一息ついてからレオに言った。
「よし!送ってくれ!」
それを聞いて、レオは俺に手を伸ばし、肩に手を置いた。
「じゃあ送るけど…あ…!」
レオは何かに気づいて、驚いた様子だった。
そしてその後、微笑んで俺に言った。
「気をつけてね?」と。
「気をつけて?それってどういう…」
俺がその後の言葉を言い終わる前に、俺はレオに魔法で飛ばされた。
静寂で縦も横も高さも驚く程にある場所、その中心で成人の男が座って目をつぶり、瞑想をしている。そこは何も無い殺風景。俺はそんな所に飛ばされた。
気づけばその景色が目の前に広がっていた。わぁっ…!魔法ってすごいんだな…!と、俺は思った。そしてコネクトに、声には出さず、心の中で尋ねてみる。
『なあコネクト。ここってほんとに…』
俺がそれを言い終わる前に、コネクトは俺の言いたいことを悟り、それに答えた。
『はい。魔女学校の中です。』
『へぇー。随分とでかいんだな…』
『はい。それはそうと、あの人に話しかけてみてはどうですか?』
俺はそう言われて、彼のことを再び見た。
彼はまだ目をつぶっている。
『あの瞑想中の人?』
『はい。かなり強い魔法使いだと思いますよ?』
『…わかった。さんきゅ、コネクト。』
『いいえ。』
俺はコネクトの言葉に従い、彼に近づいていった。そして話しかける。
「あの~…」
「……」
彼は無言で目をつぶり続け、俺を見ようともしない。
「…あの~…」
俺がそう言って彼の肩に手を触れようとした時、彼の体が前方に少し傾いて、その後元の位置に戻った。それをあえて擬音語で表すとするならば、コク…コク…、といったところだろう。
…あれ?寝てない?