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妄想の帝国

妄想の帝国 その60 オーサカは永遠のお祭り気分計画

作者: 天城冴

オーサカ府でひそかに実施された、お祭り気分計画。それは府民全員を食品ほかでお祭り気分にして、行政府への批判をかわそうというものであったが、その結果は驚くべきもので…


年明けを祝うついでに、新春にひっかけて福袋、新春セールなどイベントに浮かれていたニホン国だが、カレンダーの関係上、正月休みは例年になく短く終わってしまった。

 第二週のニホン国固有の祝日連休まで休みを引っ張る企業なども少なくはないが、すでにモードは日常へと戻りつつあった。

「ああ、ついに正月が終わってしまった」

と、嘆くのはニホン国の総理。

「年末年始のイベントがすべて終わり、日常に戻れば、新型肺炎ウイルスの脅威に、各種値上げラッシュ。無料食事提供である炊き出しは大盛況というが、有料食事提供の飲食店関連は軒並み厳しいというし」

ため息をつく総理に

「お嘆きになるのは早いですぞ、総理。支持率回復、いや永遠に我らが上に立つことも可能です」

「ほ、補佐官。な、何をいうんだ。確かにわがジコウ党が与党である期間は長く、マスコミそのほかを抑え、さらに国民のための政策をしろだの、危機状況に給付金を毎月配布しろだのと小うるさい共産ニッポンやレイワン新選組などの野党勢力を分断するため、似非野党メイジの党などを取り込んでいるが」

「確かに、昨今の国民の疲弊は目に余るものがあり、各種洗脳…もといマスコミ、御用学者、芸能人を使った宣伝工作にも限界がきており、自称保守雑誌の売れ行きも悪くなっておりますが、例のメイジの党が牛耳るオーサカ府での試みに期待がもてるかと」

「な、何、試みだと」

「はい。最大発行部数を誇る黄泉瓜新聞と提携、さらに全府民幸福にする計画を」

「こ、幸福?なんだかよさそうな響きだが、いったいどうやって」

「はい。そもそも人間は食欲などの基本的欲求が満たされれば、幸福を感じる物質が脳内に分泌されるということで、特にわがニホン国民は食事に対しての欲求が強く高めです。そこで、これを満たし続けるためにですね、オキシトシンなどの物質がでやすくなるような食事を常に提供し、多少の不満や不安を抑え込もうと」

「多少というが、年金は先細りに、子供をつくるどころか結婚もできず、さらには家まで追い出されそう、そのうえ病気になっても病院にかかれないとか、自身は健康でも家族の介護とかいろいろ不安や不満が」

「ご心配なく、総理。そのような不平や絶望を感じなくなるようにするのです。いかに長時間労働をしようと、食べるだけでそれを忘れられ、高揚感と幸福感を感じるようになる。そして、食べたらもっと欲しくなって、快感を得るためだけに働き、行政の言うがままに税を納めるようになるのです」

「麻薬のように聞こえるのだが」

「麻薬というより、お祭りの気分です。ほら、正月の神社などでの賑わい、あのような場所ででる屋台の食べ物、非日常的なアレ、アレを毎日味わうような感覚で」

「屋台の食べ物か…。昔憧れだったのだが、婆やに“あのような得体のしれぬものを食べてはいけません”といわれて食べさせてもらえず、うっうっ…いや、私のノスタルジーはどうでもいい、そんなことでできるなのか」

「はい。現在、小麦粉など各種原材料の値上げが始まっています。そこへ府お墨付きの幸福物質が入った原料を購入すれば、補助がでるといえば」

「飲食店や食品工場は飛びつく、か。しかし、それだけで庶民どもがおとなしくなるかね」

「ご安心ください。これはほんの一端。黄泉瓜新聞や芸人集団ヨジモト興業をつかった各種宣伝、サブリミナル効果入りもあり、府知事を徹底的に祭り上げます」

「まあ、行政の長が褒められるのはいいのだが…、ニホン国のトップは私なんだが」

「もちろん、総理とのタイアップも予定しております。総理と府知事が番組で楽しくトーク。それを見た府民も気分が高揚。画像や音声なども工夫し、視聴者が虜になるようにします。もちろん、各種スマホのアプリも開発、ゲームなどで気を紛らわすだけでなく、夢中になって不安を忘れる。食事だけでなく空調や水道などにも、幸福感を感じる物質をしこみ、思考力を落とすように工夫し内省や熟慮をせず、ひたすら快感だけを感じるように…」

「そんなにうまくいくかね。それになぜ、オーサカだけなのかね」

「これは実験なのです。あくまでも平和的に、そして野党、市民連合どもに文句を言わせず、諸外国の介入もなく国民自ら隷属状態に満足している状態を作るための。そのため、もともと、理屈が嫌い、思慮深さを敬遠するが、食事など一時の快楽は大歓迎の傾向が強いオーサカで実験を行うのです。成功したならば、徐々に全国に」

「わかった、わかった。つまりはオーサカを食と低級な娯楽に夢中になって、実質は最低限の生活に文句をいわない府民ばかりにする、ということだな」

「はい、そうです」

「お正月やお祭りの幸福気分を永遠に、か。さて、結果が楽しみだな」


三か月後

リーン、リーン

総理執務室に電話がひっきりなしに鳴る。

「お、おい、オーサカ周辺の県知事から緊急支援要請がきたぞ、いったいどうなっているんだ!あの計画は失敗したのか!」

「そ、総理、お、落ちついてください。計画は成功したんです、が」

「が?」

「その、皆が炭水化物は多いが栄養価が低く安価な粉もの食事で満足し、短時間ゲームをするだけで、睡眠時間もなく働いても幸福感を味わえるようになったのは、なったんですが」

「ですが?」

「そのせいで、府民全員、行政職員から医者から各種施設まで不健康になり、その、いきなり倒れるものも…」

「た、倒れるって、大丈夫なのか」

「本人は平気―と笑顔で職場に戻ったが、数時間後に過労で死んでいた、とか。糖尿病で失明しても、平気で帰ろうとして車にはねられたとか。さらに跳ねたほうも周囲も笑いながら対応、救急病院の職員まで“仕方ないですねー”などと言い出すことも」

「な、なぜだーなぜ、そんなことに」

「その…、おそらくは幸福物質が過剰にでたせいで、危機管理能力が大幅におち、身体が危機的状況に陥っても正しく反応しなくなったのではないかと」

「つ、つまり、酔っていい気分になって、道路で寝てしまったり、ホームから落ちるような状態か!」

「それよりひどいです。なにしろ、命を助ける医者まで、そうなってますから。“あー新型肺炎ウイルスの変異株ですねー、でも、皆でかかれば怖くないですよー”といったケースもあったそうで」

「そんな状態になるまで、なんて報告が来なかったんだ!」

「その医者の話はたまたまオーサカを訪問していた他県民から聞いたものでして。府民はすっかり幸せだがいい加減な状態に慣れ、市や府の職員までそんな調子でして」

「だ、だが、いくらなんでも、マスコミやら野党やらが」

「マスコミは、以前からオーサカ府知事たちと手を握っておりましたので、黄泉瓜新聞はもとより在阪のほかの新聞社も批判せず。それどころか、“幸せなら死んでもいーじゃなーい”などと府の方針に同調し、“ふっくらとなさった府知事もカッコいー”などとロクな記事が書けない始末で」

「や、野党どもはどうした」

「オーサカ在住者の議員の多くは計画どおりというか、食事その他のせいで思考力ゼロになりました。その、オーサカでの食事やマスコミ報道に疑問を持った者もいましたが、何分支持者のほうが“むずかしーいことなんてえ、美味しければいいのおお”が多くなり、マトモに仕事ができない状態。逆に太りすぎて病気になったり、過労で寝込んだ支持者の世話に明け暮れております。さらに批判的な府民は軒並み他県に移住。“オーサカにいたら食って、ゲームして仕事するだけの奴らの面倒を見る羽目になる”などど」

「面倒って」

「先ほど申しましたように、身体が危なくても、お好み焼きをたべ続け、仕事とゲームをし続けるものが増えまして。睡眠不足で不注意の怪我、事故が増大。太りすぎで各種生活習慣病になるものが多いものの、医者も注意せず、行政も放置、どんどん病人が増え」

「しょ、職員たちは仕事はやっているんだろう」

「一応、机に向ってはいますが、パフォーマンスは大幅に落ちております。睡眠不足に、過労、各種ビタミンやミネラルの不足により、思考能力、判断力など職務遂行に必要な能力がゼロに等しくなり、メールを送るどころか、文章入力でさえ危うい状態。以前なら一時間でできる仕事が一日かかってもできず、できたとたんに倒れるものも」

「ど、道理で、府知事との共演の打ち合わせについての連絡が来ないわけだ。そんな調子だとすると、オーサカの行政はかなり停滞しているな」

「は、はい。警察、消防、医療、教育、すべてにおいて支障が出ています。大学入試の採点も大幅に滞り、下手すると結果発表が半年、ひょっとしたら1年後に」

「そ、それでは、他県からも苦情が出るわけだ。い、医療もといったな、ひょっとして新型肺炎ウイルス対策も」

「は、はあ、まったく進んでいないどころか、むしろマイナスです。さきほど申し上げたかもしれませんが、医者のほうも幸せなら文句はない、状態で。ウイルスに罹患しても幸福ならいいではないか、人間いずれ死ぬのだし、などとのたまうものも」

「それでは、治療どころか、隔離もしないのか」

「は、はあ。保健所も検査はいい加減、以前の二分の一以下、感染者は野放し状態で」

「ギャー、なんてことだ!それでは感染者が増えて、さらに病人が増えるではないか!府知事は何をしている!」

「府知事も、その、」

「ま、まさか府知事まで、そういう状態なのか!」

「その、行政のトップだけは正気を保つために、食事は別で、スマホなどはみず、早寝早起きをとご忠告申し上げたのですが。正月あけからの各種宴会やら会合やらで、ほかの職員や府民たちと同じものを口にせざるを得ず。その、ご家族も」

「せ、せめて、職員や医療関係者は除外すべきだったのではないか。弁護士とか、ジャーナリストとか、まともな人間は残しておくべきだったのでは」

「申し上げにくいのですが、そういった人間たちがもっとも行政に批判的でして。その、

いわゆるマトモな人間が一番政府にとって厄介なので、そういう人間に特に、この計画の対象となるようにしたというわけで」

「つまり、この計画を遂行した結果、幸福は感じるが、死ぬか病気になり、仕事もマトモにできない人間ばかりになったと」

「はい、文句だけはいいませんが」

「馬鹿者!文句はいわないだろうが、それでは単なる役立たず、それ以下ではないか。自分の体も生活もほかのものが管理しなければならないとは。大幅に金と労力を使う。こ、こんなことなら多少の文句を言われても、理性的で自立した人間ばかりのほうがマシ…」

「つまり、計画は失敗ということですか」

ガクッと肩を落とす総理補佐官。

総理執務室にはオーサカ府民の世話に悲鳴をあげる周辺各種行政からの支援要請の電話が鳴り響いていた。


お祭りというのはたまにだからよいもので、いつもだといろいろ不備がでますね。なんですな、真剣に仕事をした後のビールとかが美味しいというやつですかね。ま、いつも難しいことを考える必要はないかもしれませんが、きっちり考え批判しないと国民も政府も双方とんでもないことになるかもしれませんな。

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