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3話…トイレの中で!?


 絶賛友達ゼロ人記録更新中。


 「そうさ、外は明るい正午の時間に、わざわざこうして学校にしては綺麗なトイレという、この快適密室空間にひとり、人の目から逃れるようにして潜伏しているだけでも、お分かりだろう」


 だからといって、べつに、便所飯を好むわけではない。

 いや、ってゆうか、最初に断っておくが、俺は便所飯などはしていない。

 飯は、昼を告げるチャイムが鳴り、授業が終わった瞬間、屋上に行ってささっと食ってくるんだ。

 で、俺と同じく幾人かの者が、目的は違うが、学校の中の、ある種の逃げ場、隠れ場所ともなっているこのだだっ広いアスファルトの真上にやって来るのを見計らって、この神聖なるプレイスへと駆け込んでくるのさ。

 なぜそんな面倒臭いコトをするかって?

 それはだ。

 つまり、アレだ。

 さも、ここはデートの場の一部なのさと勘違いしたリア充カップル共が、曜日ごとに入れ替わり立ち替わり、そう、まるで人間版日替わり弁当を連想させるかのように、やってくるのだ。


 (いったい何の嫌がらせだよ…)


 と、徹は、毎回来ることはないだろと呆れんばかりに、意識せずとも、溜め息をその都度洩らしてしまうのであった。

 まあ、コンスタントに同じコトが続けば無理もないか。

 それゆえ、人目を忍んで、トイレに駆け込みたくなるのも、気持ちはわからなくはないが。


 (そうそう)

 (わかるだろ?)

 (この俺の切ない気持ちってやつが…)


 どうやら彼は、みんなにわかってもらいたいらしい。

 あまり女子に縁がない男達というものは、こうして、どんどんと世の片隅に追いやられてゆくのだろうか。

 だとしたらこの国は、リア充どもしか堂々と街中を闊歩出来なくなってしまうことになる。


 非リア達はみな引きこもりが主流になり、かのオタクの地で名の知れたアキハパラでさえ、シプヤやイケプクロとかを闊歩する現実満喫君野郎達に占領されてしまいかねないことになる。


 「俺らがこの時代の流行を先取りするしてるんだぜえぇ」

 「俺たちが、きゃわいい女子達を引き連れて、オタクともが昔たむろしていたこの、黒い烏がうごめくように冴えなかったアキハパラの街を薔薇色に変えてやってるんだぜえぇ!」


 無残にも、大多数の個性派属性が失われた、セピア色の世界。

 そのオタクの聖地を代わって占拠したのは、西方のシプヤで群雄割拠していた、見た目いかにも薄っぺらい輩なのであった。


 (フッ…)

 (何をほざく…)

 (少子化が進行してるってゆうのに、馬鹿バカしい…)


 馬鹿も休み休み言ったらどうなんだと呆れんばかりに、絶賛引きこもり中で、ちょっとばかり捻くれた性質(タチ)の、いや、ニヒルな高校生は、リア充共が愉快爽快にドヤ顔をして街中を闊歩している姿を想像すると、流石に阿呆らしくなった。

 もし仮にそんな天変地異が起こったならば、いくら日頃根暗でコミュニケーション能力ゼロ中のゼロで、いや、そんなのこっちから別に取ろうという気なんかさらさらないこの俺でも、チャラ猿モテ豚根絶運動なるモノを起こしてやるさ。


 (そうだ)

 (覚悟しておけよ…)

 (脳天気な馬鹿面(バカヅラ)をして陽の目を拝んでいる、憐れな(オス)の狼どもよ…)


 と、人目につかぬトイレの一室でひとり引き篭っている男子は、そんな、どうでもいいというわけではないが、とかく独り善がりな妄想を抱いていた。


 (しっかし、暇だなぁ…)

 (なんかいいコトはないものだろうか…)

 (いい事…)

 (いいこと…)

 (いいコト…)

 (………)

 (………)

 (………)

 (あるわけ…ないよな…)


 連休明けの5月の、生温い日常に、早くもギブアップしようかいうくらいに、退屈していた徹であったが、


 “ちょんちょん”

 “ちょんちょん”


 と、その時であった。

 左の脇寄りの背中を、小さな指で突っつくかのような感覚が伝わってきたではないか。


 「…えっ??」


 自分しかいない筈の、しかも内鍵をきっちり掛けているトイレの中で、いったい誰が、まさか、真っ昼間から幽霊でも出て来たのだろうかと、轍は、瞬時に不可思議な感覚に包まれたのであった。


 つづく

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