1話…アンニュイな正午
キーンコーンカーンコーン”
「あー、やっと飯だメシ…!」
「和馬、食堂行こうぜ」
「今日何食べるぅ?」
「うんん?」
「まっ、とりまコロッケパンかなっ」
「えっ、今日は焼うどんパンじゃねーの?」
「つーかもうそれ食べ飽きたし」
「きゃゆみ今日のランチ半額だってー」
「早く行こー」
「あー待ってよコトリィー」
季節は5月半ばの、時は正午。
常日頃から、疲れたような表情で街中を歩いている社会人だけでなく、勉学に集中している学生諸君にとっても、もちろん貴重であったゴールデンウィークは、生温かくふんわりとした風が、左から右にさらっと吹いて通り抜けてゆくように、あっという間に過ぎ去り凪いでしまい、日常はといえば、なまぬるくて退屈な、とりわけ、何の面白味もないそれにまた、引き戻されたのであった。
「あー、マジ今日もう帰りてえーなー」
「なぁ、和馬もそう思うだろ?」
「もうすぐ中間なんだからそれが終わるまで我慢しろって」
「ああああ、そうだ」
「そういやそんな地獄の試練が待ち受けてんだっけかああ」
「地獄って…」
「中間が地獄なら期末は何になるんだよ」
そんななか、アンニュイな教師と、張り詰めた午前中の授業から解き放たれた学校の全生徒達は、まるで、狭苦しい鳥籠から一気に飛び出すことが出来たかのごとく、みなおのおのが、この瞬間を待ち望んでいたらしく、自然と、雑談の始まりの声の波動が、花咲くように教室から廊下へと、伝播していったのであった。
昼休みという、さほど長くはなく、短くも貴重で特別な時間。
この時間だけは、教室で、わいわいきゃっきゃと、仲の良い友達どうしで“教弁”、いわゆる教室で弁当を食べたり、またその他、大勢の人達が習慣的に向かう食堂で、惣菜パンやらランチやらを注文して、これまた、ワイワイガヤガヤと駄弁りながら、そこで大いに寛げるのだ。
そう、極端な話、校則とかの規律に触れない限り、誰にも邪魔されずに済むのだ。
共通して言えることは、社会の根幹ともいうべきか、堅苦しいスーツ姿で商談やらランチやらを日頃から共にしている、数多の会社員らと同じく、多くの生徒達も、集団行動をベースとしていることだ。
それは所詮、人も社会的動物であるがゆえに、致し方のないことではある。
友達がいたほうが楽しい、気が楽である。
友達がいないと寂しいし、つまらない。
幼稚園や小学生の頃からもそうだが、思春期以降の中高生なんかは特に、その傾向があるようだ。
「今週は絶対Nステ見逃さないんだぁ」
「あーあたしもー」
「昨日さぁ、久しぶりにまとめサイトに夢中になってあまり眠れてないんだけど」
「あーもしかしておまえもー?」
「次の日曜サフマップにパルソナ売りに行くんだけど一緒に行こうぜ」
「えっ!?」
「別にいいけど」
誰かと、表明上だけでも繋がっていたい。
そんな、誰かしらと連んでいたいという、頼りなくも人間らしい欲求は、この昼休みという、一日からしてみれば束の間の時間帯にも、よく表われていることが、彼ら彼女らの、食堂での会話からもよくわかる。
が、しかし、どんな物事にも、中には例外がいるのも事実である。
「ああああ」
「なんて至福のひと時なんだあ‥」
「この言葉には表すことのできない開放感…!」
「いまこの時間にここにいるのは俺ひとり…!」
「そう、俺だけ…!」
そう、この世の中は、マジョリティーばかりで成り立っていると思ったら、ナンセンスってものである。
白のYシャツをズボンの外に出し、制服のズボンを履いたまま尻を便器に固定し、両手をガッツポーズして、あまり多くはいないであろう、いかにもマイノリティーなオーラを醸し出しているこの男。
どうやら、この高校生、ひとりトイレに閉じこもっているみたいである。
さあ、ここで、自己紹介だけはしてもらおうではないか。
「…えっ?」
「って何それメンドくせえ…」
「ってか誰だよおまえ…」
「まぁ、たまにはいいか…」
俺の名前は轍徹。
県立若乃城学院高校の二年C組。
出席番号は、“わ”だから、もはや言わずもがなというべきか、クラス四十人中ゲビの四十番。
席はお決まりの窓側。
別に、席が象徴しているというわけでもないが、仲のイイ友達なんて特にいないし、恋人、いわゆる彼女なんているわけがない。
(春風だけが、俺の青春、なのさ…♪)
なんて、|気障な台詞は似合わないのは自分でも理解っているくせに、轍は、1人トイレの中で、心地良さげに澄まし込んだのであった。
つづく
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