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ファウスト家

 マイルド神父、いや元神父は冒険者ギルドストーンダウン支部長ジャッジ・ストーンヘンジとの面会を求めて冒険者用の受付で必要な書類に必要事項を記入していた。


 受付席にはシルカの姿…ヌルが冒険者として新規登録した時に対応した受付嬢である。マイルドとシルカは初対面なのだが、シルカは普段以上にお淑やかな物腰で対応していた。今でこそ受付嬢姿が板についてきた感じのシルカだったが、子供の頃はお転婆で通っていたものだった。 それが、今は借りてきた猫という表現がピッタリの大人しさを演出していた。


 理由は明快で、目の前のマイルドの雰囲気が物静かでありながら安心感があり、ルックスが彼女の好みのストライクゾーンど真ん中…と、くれば無理もないところだ。マイルドは元神父だと名乗った訳ではないが、聖職者としての経験が無意識の内に滲み出るのか一緒にいると相手に安心感を与えるのだ。男性に包容力を求めるタイプのシルカが意識するのは仕方がない。半ば夢心地でいると、既に記入済になっている書類が目に入ってきた。慌てて書類を手に取りながらマイルドに話しかける。


「マイルド様、ご記入ありがとうございます。規定の手順で処理致しますので、後ろのお席でお待ち下さい」


 シルカは噛まずにいつも通りの応答が出来たことに心の中で小さくガッツポーズを作る…と、同時に書類の最後に書かれている必要事項に目を通した――――。そこには関係部署や職員に対して事前のアポイントがあるかどうかという設問が書いてあり、いいえの方に丸印がついているのを確認すると少し肩を落とす。


 ストーンダウン支部は大規模ではないにせよアポイントなしの飛び込みで支部長に面会するハードルは高く、元々(マイルド)の希望に沿えない可能性が高い。加えて、緊急事態依頼と白昼の辻斬り事件の余波もあり、支部長は予定外の対応に追われていることも認識していた。


 それにも関わらず、奥に通じるドアを経由して支部長へお伺いを立てたところ、すぐにでも面会したいからと案内して欲しいの指示が返ってきたのだから驚くのも無理はなかった。彼女は意気揚々と態度を一変させながらマイルドに声を掛けるのだった。


     ☆


 俺達2人は事件現場からツェンスクエア方面へと向かっていた。辻馬車乗り場前の交差点まで戻ってくると相変わらずの活気を感じた。繁華街が近づくと報酬のことが頭をよぎる。有耶無耶になったままだが、事件が解決されれば少なくとも3万Gは手に入る。実際には報酬の7割が冒険者の手取りで1割が冒険者ギルド・残る2割がストーンダウンといった配分になっている。


3万G×0.7=21000G 労働者(俺・アイン・ツヴァイ)

3万G×0.1=3000G 所属ギルド(ストーンダウン支部)

3万G×0.2=6000G 地域財源(ストーンダウン領)


 今回はこんな感じで分配される予定だ。ギルドや地域は天引きなので取りっぱぐれはない代わりに税率として考えるとリーズナブルな設計だと思う。もちろん、年金制度や国民皆保険制度はないから病気や老後への備えは自己責任が基本ではあるが…。俺はふと、そんな事を考えていた。この時は将来的にギルド運営することになるとは思いもしなかったが――――。


 辻馬車乗り場前の交差点からツェンスクエアの入口までは、何事もなくたどり着いた。今回は、山林部の入口を左手に通過しながら直進する。天然の土手となっている街道を道なりに進むとS字型に曲がった街道が緩やかに下りながら続いている。下りの終点は分かれ道になっている上に、間もなく目的地周辺になることから、俺達は一旦給水タイムをはさむことにした。


 愛用の肩掛けカバンの裏側から小型の水筒を2つ取り出すと片方をツヴァイへと渡す。カバンの裏側がヒップフラスコ型の水筒をスッキリ収納出来る形状に造られていて密かなお気に入りアイテムだ。俺は水筒から水をごくごくと呷ると収納場所へと戻した。ツヴァイからも水筒を回収して収納スペースへと戻した。今後の予定についておさらいしておく。


「ファウスト家に着いたらオーク達が逃げ出した経緯とウラガアールさんやデイズライトさんの情報を収集。終わり次第ギルドに直行してレベルアップの儀式って流れで…」

了解(らじゃ)


 そんなやり取りを終えると郊外へと続く道の方角に向かう。数百m程進むと左手に大きな屋敷が見えてきた。どうやらファウスト家に着いたようだ。


     ☆


 俺達は、カタルークというファウスト家で1番古株の男から色々と聞き出すことに成功した。


・ファウスト家は武具製造を生業とする歴史ある名家であること

・初代の家主がファウストハルバードという悪魔族・鬼族に特攻効果のある伝承クラスの鉾槍(ハルバード)を作った逸話が残されていること

・ウラガアールはデイズライトの代になって雇われたこと

・ウラガアールが私兵団の強化のためオークを使った実践経験を強く提言していたこと

・ウラガアールが悪魔崇拝者である噂があること

・オーク逃亡の第一発見者及び討伐者がウラガアールであること

・ウラガアールが最近入手した刀で試し斬りしたがっていたこと

・ツェンスクエアの遺跡がお屋敷のちょうど西側に位置すること


 それにしてもウラガアール…名は体を表すとは言うものの怪しさ大爆発である。俺達は必要な情報は得られたと判断してレベルアップを図るべくギルドまでの道のりを急ぐのだった。

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