言ってみたい年頃
翌日、俺は養鶏鳥のありがたくない鳴き声によって夢の世界からの覚醒を余儀なくされた。すぐ近くには養鶏している家は無いはずなのに早く起きろとばかりにやけに大音量であった。仕方なくふぁ~と欠伸しながら伸びをする。それに連られたのか隣りの布団で寝ていたツヴァイも可愛らしいあくびの輪唱を繰り広げていた。
「ツヴァイ、おはよう」
「ヌル、おはよう―――。でね、昨日話した採血の件だけど今からでも大丈夫?」
そう言えばそんな話もあったなと思いながら親指を立ててドンと来いという意思を示す。そのリアクションに満足したかのような笑みを浮かべた彼女の脇にはどこから現れたのか何時ぞやのモスキート型の採血ユニットが2機。何で2機いるの?という俺の疑問を他所に採血に適する体勢を整え終えた俺を目指して1機が飛行してきた。今回は手の甲ではなく肘の内側の正中皮静脈へと狙いを定めるべく回り込んくると、手慣れた手順で素早く採血開始の段取りを整え終える。
その間、もう1機の方が空中給油機から給油を受ける飛行機のようにドッキングを完了させる。おもむろに採血が始まると血液は1機目の血液貯蔵庫を経由して2機目の血液貯蔵庫へ運ばれていった――――血液は10cc…20cc…と貯蔵庫に注がれていき…180cc程度まで採血されたところでモスキート型の採血ユニットは採血用の針を引き抜く。
いつの間に段取り良く待機していたツヴァイが消毒液を染み込ませたガーゼを採血部に当ててサージカルテープで軽く固定する。
今から30分くらいガーゼをはがさないで…と言い残しどこかに行ってしまった…。5分くらい経つと赤い液体が入った透明な容器を持って彼女は戻ってきた。腰に手を当てながらごくりごくりと喉を鳴らしながら液体を一気に飲み干した後に一言。
「ぷはぁ~~~、やっぱり朝イチに飲む輸血パックじゃない新鮮・搾りたての血液は最高だわ」
幼気な少女の発言に俺の脳細胞はフリーズした。
「もう、トマトジュースに決まってるでしょ」
顔を赤らめながら必死に少女は弁明する。
「元ネタに心当たりがないんだけど?」
俺は辛うじてその一言だけ振り絞った。
「主演ツヴァイ・脚本ツヴァイ・監督ツヴァイ…一人三役のオリジナル作品なの―――っていうか、そう言ってみたい年頃なの」
ぷくりと頬を膨らませながら拗ねる彼女は掛け値なしで可愛かった。我がツヴァイの科学力はァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ―――そう叫びこそしないが、そう言ってみたい年頃になったかもしれない。