表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

伝承

 今、俺とツヴァイはシュソン村のマイルド神父の元に向かっていた。恩人であるアインに辻斬りの実行犯の嫌疑が掛けられているのだ。具体的な証拠が上がったわけではないのだが、人族とゴブリン族の対立の歴史は長く…そして深い。一度(ひとたび)容疑者としてのピックアップされてしまうと自由に動き回れる立場ではなくなってしまうのが現状だ。


 もちろん、俺もただ手をこまねいていた訳ではない。可能な限り弁護しようと努力したつもりなのだが、力及ばず今に至っている。アインは助けたいが彼のそばにいるだけで事態が好転するというわけでもないので、人生経験豊富なマイルドに何か妙案はないかお伺いを立てるのが当面目的だ。


 ちなみに、伺いを立てるという言葉には①神仏に祈ってお告げを願う②目上の人などに指示を仰ぐという2つの意味があってどちらのケースにでも該当しそうなマイルド神父はある意味凄いなと思わず感心してしまった。


     ☆


 ストーンダウンの冒険者ギルドからシュソン村までの道のりは平坦で道路が直線だったので、マイルド神父の家まで30分で着いた。俺はこれまでの経緯を簡潔に説明して、何か良いアドバイスがないものかとマイルド神父に相談する。マイルド神父はテーブルに隣合って座った俺とツヴァイにお茶を勧めると思案顔になりながら考え込んだ…。


 待ち時間とは長く感じられるもので、俺にとっては1時間にも2時間にも感じられた時間だったが実際には5分足らずだっと思う。マイルド神父はおもむろに俺達に顔を向けるといくつかのアドバイスを授けてくれた。


「ヌル、ツヴァイとの出会いはタイミング的にも神の思し召しとしか思えません。問題解決まで力を合わせて励みなさい」

「ツヴァイ、どうかヌルの力になってあげて下さい」


 マイルド神父は俺の左手とツヴァイの右手を手に取って互いに握らせながら―――神よ…前途ある若人に試練を乗り越える勇気を与え給えと神父らしく祈りを捧げてくれた。


「マイルド神父、わたしは深い考えもなく人通りのないただ近道なだけの場所を選んで通ってしまいました。辻斬りのあった通りをそのまま進んでいればアインが疑われることも被害者が斬殺させることもなかったかもしれません」


 俺は懺悔するかのようにツヴァイと繋がれている右手に左手を添えながら独白した。すると言葉こそないがツヴァイの右手がすっと優しく添えられる。オークとの戦いで発揮された規格外の戦闘能力見せつけた時よりも今の優しいしぐさの方が何倍も勇気を与えてくれたのだった。


「ヌルは良い相棒を得ましたね」

「はい」


 マイルド神父の言葉に何の躊躇い(ためらい)もなく返事が出た事に自分の事ながら驚かされた。その反応にマイルド神父も微笑みを持って応えてくれる。良い隣人に恵まれたことが実感出来て改めてアインの潔白を証明すると気合いを(みなぎ)らせた。


    ☆


 マイルド神父はアインの潔白を証明するのに1番必要になるものは情報だと俺達に熱弁した。最初にやるべきは多方面に渡る情報の整理。情報が集まることでそれまで見えて来なかったものが見えてくることがあり、証拠や証人を捜す上で役に立つと訴えた。情報の収集自体はツヴァイに一任して、事件の背景に繋がる可能性のある情報を俺とマイルド神父でピックアップしながら検証していく。そんな中、この世界のランクやレベルに関する情報を見た時なにか引っかかる感触があった。


ランク1~2 ビギナー レベル1~10

ランク3~5 レギュラー レベル11~25

ランク6~7 マスター レベル26~35

ランク8~9 フォークロア レベル36~64

ランク10~12 レジェンド レベル65~99

ランク13~ ミラクル レベル100~


 ランクとレベルという概念を一覧にしたのが上の記述なのだが、初心者(ビギナー)達人(マスター)伝説(レジェンド)奇跡(ミラクル)等の単語は馴染み深かったので気にならなかったのだが、正規(レギュラー)伝承(フォークロア)という聞き慣れない単語が2つ…。


 レギュラーに関しては定番と言い換えも良いかもしれない。要するに冒険者・モンスター等を想像した時に標準的な強さや能力を持つ個体を表すクラスだから単語的に物珍しく感じただけだと思う。


 一方のフォークロアは、ある集団の中で古くからある慣習や風俗・信仰・技術・知識を指す言葉で大雑把に要約するとレジェンドの地方(ローカル)版ってイメージで良いはずなのだが、それがさっきまで調べていたストーンダウンの街にある伝承に関連するような気がしてならなかった。


 ストーンダウンは稲作と養鶏・養豚・織物などが盛んな地域で、一部では地酒や甘味などの名物があり、晴れた日にはウェイビルド山の鮮やかな風情が楽しめる…が、観光が流行るほどではない。ストーンダウンの由来については、マイナーだが“鬼怒封印伝説”という伝承クラスの逸話が残っていた。


 この地方に流れる2つの河川ドレスフロー・ヒバリバーの流域は過去に於いて何度も氾濫した歴史があり、その河川の暴れる様子を鬼が怒ったと擬人化して鬼怒と呼んだ――――とされるのが定説で川の氾濫を鎮めようと石造りの祭壇を建造して供物を石の下に納めたのがストーンダウンの起源とされている。


 一方、歴史・風俗学者の一部には鬼怒(アンガーオーガ)は実在する鬼の最上位種で石の祭壇の下に封印されて、今も眠っているとの意見も存在する。これが“鬼怒封印伝説”である。


 今のところ、斬殺事件との接点はない。無理やりこじつけるならアンガーオーガの封印を解除する儀式に何者かが暗躍していてその一環として斬殺事件が起きたなんて仮説も出来なくはないがアインの潔白の証明には程遠い。


 そんな意見をマイルド神父にしたところ―――、斬殺事件とアンガーオーガを直接結びつけるのは難しいかもしれないがオークの事件と斬殺事件事件は発生のタイミングが近いことから関係があっても不思議はないとの結論に達して俺達は明日、朝が来るのを待って事件現場に向かうことを決めた…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ