第18話 楽しい学院生活編 その4 特Aクラス、クエストに挑む
「あー、おまえら、集まってるな」
現在午後1時、すったもんだの自己紹介の後、オレ達は一緒に昼食をとり、時間通りにグラウンドに集合していた。
あの後、なんとか誤解……(でもないけど)を解き、オレとサナはプラトニックという事にしておいた。
……ふと気づいたが、今のオレは女の子。 プラトニックでもたいがいだとは思うが、性に奔放な近年である。納得してもらう事にしよう。
「課外活動の内容を説明するぞ。 街の南側の郊外、レイダス渓谷に、Aクラスのモンスターが出現したと通報があった。 河川漁業ギルドの皆さんが漁が出来なくて困ってるらしい」
「コイツを退治してきてくれ。 評定スコアは500な」
「500!? やった! これで落とした魔導偏微分演算の単位を取り戻せるよ~」
「ハンナ、アナタがちゃんと勉強しないのが悪いのですわ…クエストで取り戻すなど、邪道です」
なるほど、要するにモンスターを倒せばよいという事だ。
Aクラスモンスターとか、余裕だな。
ちなみに、評定スコアとは、クエストをこなすことでもらえる、学内通貨のようなものだ。 購買でアイテムを買ったり、落とした授業の単位を取り戻したりできる。
まあ、オレ達は短期留学生なので、購買で使うくらいしか、使い道はないが。
「あー、そこ。 まだ説明の途中だぞ……魔獣はガルーダタイプ。 4枚の羽根を持ち、高速で飛翔する。 Bクラスの炎系魔法も使ってくるから、くれぐれも気を付ける事」
「あ、暇があったらウチの晩酌用ニジマスをとってきて~。 スコアに+50するから。 じゃ、たのんだよー、ういっぷ」
説明するだけ説明して、イレーネ先生は帰ってしまった。 相変わらず奔放な人だ。
「リリ様リリ様、飛行型モンスターですね。 ちょっと手ごわいですか?」
てててっ、とサナが駆け寄ってくる。 そうだな……
「相手のスピードには気を付けないといけないが、オレが飛べるし、よゆーだろ! ま、アイツらにも花を持たせてやるさ」
アイツらは学生だからな……多少の配慮は必要だろう。 それより……
「サナ、この制服、なかなかカワイイよな」
「そうですよね! リリ様、とってもかわいいです!」
そう! そんな事より、この学院の制服である!
純白をベースカラーにした、スカート丈が短めの、ワンピーススタイルの制服であるが、腰にはベルトを通すようになっており、背中側に大きなリボンをつける。
赤い丸襟には、白いラインが入り、胸元には、「メルゼブルク魔法学院」を示す、2本のメイジスタッフが交差するデザインに、中等部を示す「C」のマークが入ったエンブレムが付く。
足元は白タイツに黒のローファー。 全体的に清楚な雰囲気を出しつつも、動きやすそうなデザインだ。 オレは、タイツは嫌いなので生足だけどね。
オレは、上機嫌なサナと一緒に、記念写真などを撮る……この制服、パクって帰ろうかな……。
「ちょっと、おふたり! いつまで騒いでますの? そろそろ行きますわよ!」
おっと、じゃれあっていたら、クリスに怒られてしまった。 オレ達も出発することにしよう。
*** ***
真っ青に晴れ渡る青空のもと、オレ達特Aクラスは、レイダス渓谷に向けて歩いていた。 柔らかな日差しと、新緑の香りをたっぷり含んだ風が心地よい。
「そういえば昨日午後、学院上空に大きな火球が出現しましたけど、あれは何だったんですの? 先生方のデモンストレーションですか?」
雑談の最中、ふと思い出したようにクリスが聞いてくる。
「ああ、アレ? オレの魔法だよ。 面接で先生に見せたんだ。 SSランク攻撃魔法、”フレア・レーザー”って知ってんだろ?」
「ふ、フレア・レーザー!? 伝説の魔法使い、ジュピトルが一度だけ見せたという、極大呪文じゃないっすか!!」
驚愕するグスタフ。 ……ん~? どっかで聞いた名だな? まあいい、人間族の間ではそんな伝説魔法なんだな……
「リリちゃん凄い! SSランク魔法使えるなんて!!」
「あっ、でも、クリスちゃん家もすごいんだよ! 雷撃系SSランク魔法、”ライトニング・バースト”の使い手がいるんだから!」
ほう……! ”ライトニング・バースト”とは、雷竜シュガールが使いこなしたという、伝説の魔法……コイツんちも、なかなかやるじゃねーか。
「へーえ、アスマン家もなかなかやるじゃねーか! 跡取りのクリスも、さぞかし強い魔法使えるんだろー?」
「むっ……とっ、当然ですわ! このクリスティーネ・アスマン、ヨーゼフ家の魔導士には負けません! なんなら、今回のモンスター討伐で勝負ですわっ!!」
オレが軽く挑発してやると、あっさり乗ってくるクリス。 へへ、ちょろいモンスターなんだ。これくらいのスパイスがないとな!
「もうクリスちゃんたら……」
「リリ様も、しかたないですね……」
サナとハンナが、顔を見合わせて苦笑する。
目的地の渓谷は、もうすぐだ。
*** ***
レイダス渓谷の最奥、大きな滝つぼがある、少し開けた場所で、オレ達は周囲を警戒していた。
辺りに響くのは鳥のさえずりと、川のせせらぎだけ。 クエストの指示書によれば、このあたりによく出没するらしいが……警戒を始めて30分……だんだんメンドくさくなってきた……。
”モンスター寄せ”の笛を使おう……オレは軽く指を咥えると、魔力を込める。
ピイイイィィィッッ!
「!? ちょっとリリさん! 何をしていますの!?」
驚いたクリスが抗議してくるが、スルーする。
「まあ、みてなって……もうすぐ……来たっ!」
クアアアアッッッアアア……!
オレ達の直上から、大きなモンスターの鳴き声がこだまする。 早速引き寄せられて来たようだ。
「うわ! ホントに来た! いまの指笛って”モンスター寄せ”? リリちゃん、すっごーい!」
歓声をあげるハンナ……ちゃんと敵に備えてろよ?
お、”グラン・ガルーダ”か! 4枚の羽根を持つ、上半身ワシ、下半身トカゲのAクラスモンスターだ。
特Aクラスに所属しているレベルの魔導士なら、苦戦はしつつも、何とかなるレベルという、絶妙なバランス調整である。
まあ、オレが本気になれば、2秒でチリにできるが、ちゃんとアイツらに花を持たせないとな……戦友になることで、愛情が芽生えるのだ。
オレは、身体強化魔法を下半身にかけ、背中には光の翼を小さめに出現させ、チートレベルになりすぎないように、能力の調整を行う。
「クリス! ハンナ! オレが奴に隙を作るから、ちゃんと仕留めろよ!」
そう叫ぶと、オレは地面を蹴り、”跳躍”した! ちなみに、サナとグスタフは回復役と盾役なので、この局面では待機だ。
タンッ、タンッ、ダンッ!
2段ジャンプの要領で、崖の岩を飛び移ると、最後の跳躍と同時に、翼を展開、一気に”グラン・ガルーダ”の上を取る!
カアアアアアァ!
驚いた奴は、爆炎魔法を放ってくるが、こんなものがオレに効くはずはない。 右手のひと振りで吹き払う。
「アレは、高度飛行魔法!? すっごい!」
「ふふん、リリ様なら、アレくらい当然です!」
サナとハンナの称賛の声が、小さく聞こえる。
オレは、威力をごく弱めた”フレア・レーザー”の術式を展開すると、魔法を発動させ、奴にぶつける。
クアアアァ……
それでも、それなりのダメージになったのか、ふらふらと落下していく、”グラン・ガルーダ”
よし! ……次は……!
「ハンナ! 押さえ込め!」
「! オッケー、リリちゃん!」
オレの指示を一瞬で理解したのか、魔法を発動させるハンナ。
そばにある川と、地面から、青と茶色の光が発生し、空中で混ざり合うと”グラン・ガルーダ”に絡みつく。
ガアアアア!?
ジタバタともがくが、拘束は外れない。 おお、Aクラスのバインド系魔法か! なかなかやるじゃん!
オーケイ、仕上げは!
「クリス! ここまでお膳立てしてやったんだ! ちゃんと仕留めるんだぜ?」
「……むっ、言われなくても!」
「炸裂せよ……ライトニング・ラッシュ!」
おっ、”ライトニング・バースト”程じゃないが、Aクラス攻撃魔法じゃん……これで、決まったな……!
”グラン・ガルーダ”が黒焦げになるになることを確信し、思わず力を抜いたのだが……。
ヴイイイィィンン……!
クリスの手のひらから放たれた3条の稲妻は、何もない空間を貫いた。
……って、あの距離で外しやがった!?
グアアアァ!!
その時、怒り狂ったグラン・ガルーダが、拘束魔法を弾き飛ばし、4人に向かって急降下する!
くっ……まずい! この位置からでは!
「ひっ……リリ様っ!」
奴が狙っているのは……サナだ!