第15話 楽しい学院生活編 その1 リリサナコンビ、裏口入学する
オレ達は1週間の旅の末、公国北部にある、「メルゼブルクの街」にやってきていた。
人口は7万くらい。 白亜に輝く石壁の建物が立ち並ぶ、美しい街である。
なんでオレ達がここにやってきたのか、話は8日前にさかのぼる。
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「これだっ! オレの生きる場所は、ここだったんだ!」
ここはリーベの街にある高級ホテル。 オレ達はこの街で、貴族にまつわる大事件を解決した。 明日この街を旅立つため、出発の準備を整えていたところだ。
「? どうしたんですか、リリ様? また悪い病気ですか? ま、まさか、最近魔導通信端末のアングラネットで始まった新サービス、”ムフフなスプリング斡旋サイト”をご利用でっ!?」
「いけません! あの手のサービスで出てくる女は、”新人清純派ロリフェイス! アナタ色に染めてください”などと言っていても、裏ではブラックに染まりきった、ヤリまくりタバコ吸いまくりのクソビッチなんです! わたしの村のそういうお店でも……」
「ていっ」
「あいたっ」
人聞きの悪いことを言うサナをチョップで成敗する。 ……だから、お前の故郷は暗黒世紀末なのか? むしろ興味が出てきたぞ……
「まったく、お前の頭にはエロしか詰まっていないのか? オレが見ていたのは、これだ」
「これは……”こみっく”とかいう、異世界の文化ですか?」
そう、オレは暇つぶしに、最近始まった異世界のイラスト物語集……マンガを読めるサービスを利用していたのだ。
「そこで見つけたのが、これだ!」
「”手を握るだけでドキドキしちゃう! 転校から始まる恋もある! 珠玉の学園ものぎゃるげこみっく”……なんですか、これ?」
オレはサナに、自分のアルカディアに表示しているマンガを見せるも、彼女はぴんと来ていないようだ。
説明しよう!!
この聖典……マンガによると、”学園”とは、12歳~17歳くらいの少女たちが通い、共同生活を送る場。
最初は喧嘩をしていたものの、狭い世界で共同生活を送るうちに、親密になった彼女たちのもとに、ドキドキエロエロなイベントが……!
いい! じつにいい! なにより、入学できる年齢が限定されているのが良い!
限定された生活空間というのは、愛を育みやすいからな。 学園に編入する愛らしいリリちゃん……入れ食い状態になるのは、確実と言えよう。
「……これ、本当にそういう話なんですか? むしろ甘酸っぱい恋のお話では?」
あまいな、サナ。 これはあくまで一般向けの物語だ。 実際に裏では、えろっえろなエピソードが発生しているに決まっておろうが!
ということで、速攻調べたところ、ここから数百キロ北西の「メルゼブルクの街」は、有名な学園都市であり、魔導士を志す少女たちが通う魔法学院があるそうだ。
「よし、次の目的地が決まったぞ、サナ!」
「さっそく、昨日助けてやった貴族のフレデリクに、コネ短期入学の推薦をもらってくる! ちょっと待ってろ!」
「……なんというか、その行動力、サナ、感心しちゃいます……」
呆れ半分なサナの声を聴きながら、オレはホテルの部屋を飛び出した!
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……ということで、オレの手には、「メルゼブルク魔法学院・中等部」への、1か月の短期留学推薦書がある。
ん? なぜ中等部かって? かの聖典には、中等部……JCが至高と記されていたのだ! これはもう、神託と言えよう!!
「あの”こみっく”、ロリコン向けだったんですね……」
何やらサナがツッコミを入れているが、気にしないことにする。
オレ達は、足取りも軽く「メルゼブルク魔法学院」への道を急いだ。
*** ***
魔法学院に到着したオレ達は、推薦書を提出し(”あの、ヨーゼフ家からの推薦ですって!?”と受付のひとが驚いていた)短期留学の手続きを行っているところだ。
応接室のソファーに腰掛け、書類に必要事項を記入していく。 オレとサナの身元引受人は、ヨーゼフ家になっているので、問題ない。
オレは、記入した書類を事務のお姉さんに提出する。 魔法学院の職員だけあって、なかなか知的な雰囲気だ。
「……サナさん、13歳、中等部へ編入……あら? リリさん、11歳なんですか? それなら、小等部……」
「誤植です!」
「はい?」
「ご し ょ く で す (迫真)」
「オ……アタシ、本当の両親が分からなくて……記憶は11年分なんですけど、肉体年齢は13歳だそうです!そうです!そうです!」
めきっ……
机に指をめり込ませながら、必死のアピールをするオレ。 冗談ではない……小等部などに入れられてしまったら、ほとんどがターゲット外ではないか!
「……ひっ……、はっ、はい、サナさんと同じ13歳で中等部ですね(かくかく)」
オレの、Aクラスモンスターでも消滅させそうな豪炎の視線におびえたのか、書類を訂正してくれるお姉さん。 ふう、助かった。アンタ、出世するぜ……
「……元ドラゴンなんだから、何歳でもいいのに……リリ様が正直に書くから」
うっせ、オレは根が正直モノなんだよ!
「そ、それでは、これで書類手続きは完了となります。 この後、中等部主任教諭から、簡単な面接とオリエンテーションがありますので、しばらくお待ちください」
事務のお姉さんは、これ以上関わっていたら、自分の身に危険が及ぶと思ったのか、そそくさと部屋を出て行ってしまった。
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がちゃっ……
「う~い、こんにちわー。 ヨーゼフ家推薦の短期留学生って、キミたちだね」
10分後、中等部主任教諭とやらがやってきたようだ。
「あ、先生がいらっしゃったようです……って、はい?」
「はえ?」
オレと、サナの頭に、ハテナマークが浮かぶ。
なにせ、入室してきたのは、推定10歳の少女。
くるくると、くせ毛気味にカールした桃色の髪、ぷにぷにほっぺ、スレンダーな体躯、どこからどう見ても愛らしい幼女である……あ、結構好みかも……ただ、もう少し成熟しててほしい……
めんどくせーなコイツと言わないでほしい。 健全なロリコンとは、繊細なものなのだ。
少女は、オレ達の反応に一瞬ぽかんとしたが、「ああ、そうかいつもの反応だな」とつぶやくと、スーツのポケットからメガネを取り出し、すちゃっと装着した。
いや、眼鏡付けても、愛らしいだけなんですが……あと絶望的にスーツ姿が似合ってない。
もう一つ、彼女は手提げカバンから瓶ビールを取り出すと、ぐいっ! と、一気に煽った。
え? 酒? 10歳の女の子が?
いよいよぽかんとするオレとサナの前で、ぷは~っと酒臭い息を吐き出し、げっぷまでした少女は、愛くるしい声色で、こう言った。
「自己紹介が遅れたな。 ウチがメルゼブルク魔法学院・中等部、主任研究員兼主任教諭。 イレーネだ。こう見えても29歳だぞ。 ようこそ、メルゼブルク魔法学院へ!」
「「ええええぇぇ!?」」
オレとサナの驚愕の叫びが、きれいにハモったのだった。