第13話 メイド少女と貴族の陰謀編 その6 剛毛ヒロイン、探偵サナちゃんは見た!
サナです。 もう足クサは克服しました。
……というか、このタイトル、やめて頂けませんか? 誤解が広まります!
獣人族は、どうしても”おけけ”がよく生えますし、下の毛を処理する風習がありません。
本当ですよ!?
……んんっ、先程、招待客のテーブルに配膳された料理に、虫が入っていたらしく、いっときパーティ会場が騒然となりました。
いまは、各自控室に戻り、代わりの料理が配膳されるのを待っています。
「……うーん、このパーティ、立食形式じゃなく、各自のテーブルに配膳される形式だろ? あんなに大きな虫が入っているとか、不自然なんだが……つーか、虫くらい一緒に食えよ」
さすが、元ドラゴンはワイルドです。 まあ、わたしも辺境の出身ですので、虫くらいで騒いだりしませんが……上流階級の人たちは繊細ですね。
そうだ、一つ気付いたことがあるんでした。 リリ様に報告しないと……
「あの、リリ様? わたし、見ちゃったんですが、さきほど部屋の外で、エルナちゃんがメイド長らしきオバさんに説教されていたんです。 ”アナタ、虫を見落としたの!? むしろ、アナタが入れたのね!” って」
「ん~? おかしいな……確かにエルナは配膳を担当していたが、配膳室はパーティ会場の隣だろ? 万一エルナが犯人だとしても、虫を入れるタイミングなんてあるか?」
「さらに、”もうアナタは、クビです!” とまで言われていました。 しかも、フレデリクさんにまで報告を……エルナちゃん、かわいそうです……」
「うーん、エルナは5歳の時からメイドとして働いているベテランと聞いたぞ? ”精霊の花”を手配したのも彼女だし、フレデリクさんには可愛がられてるらしいし、こんな不可抗力っぽい事件でクビになるか? 匂うな……」
リリ様も、パーティ会場で場当たり的? に発生した事件に懐疑的なようです。
「それに、気のせいかもしれないけど、エルナと、主人であるフレデリク、なんとなく”匂い”が似てる気がしたんだよなー。 男の匂いとか興味ないから、確信持てないけど」
むむ、リリ様ノーズがこんな反応を……いよいよ何かありそうです!
「お、サナ、乗り気になってるな……準備が終わるまで、お屋敷を見物してもいいと言われているし、行ってくれるか!」
はい、名探偵サナちゃん、出撃します!
わたしは、マイポシェットから、昨日買ってきた丸眼鏡と、ベレー帽を取り出すと、すちゃっ! と装備しました。
「……隠密魔法で見えなくなるのに、マメだな……」
こういうのは気分が大事なのです!
リリ様にかけてもらった隠密魔法の効果を確認して、わたしは疑惑の調査のために部屋を飛び出しました。
*** ***
はい、現場のサナです。 またもや潜入調査中です。 動きにくいドレスから、普段の服に着替え済みです。
まずは、現場検証が重要です。 パーティ会場と、配膳室を調べてみましょう。
……パーティ会場は、特におかしなところはありませんね……ただ今、片付け中です。
次に、配膳室に移動してきました……メイド長が、部下に指示を出しています。
くんくん……んっ? 少し匂います。 わたしもリリ様ほどではありませんが、獣人族ですので、鼻は効きます。
むむ、これは料理に入っていた虫、ゴキちゃんの臭いがします……しかも、メイド長の所から……?
あっ!! 周りから見えないタイミングを見計らい、新しい料理にゴキちゃんが入れられました! しかも、それをエルナちゃんに運ぶように指示しています!
……これは、エルナちゃんをクビにするための、メイド長の陰謀?
でもおかしいです。 ただクビにするだけなら、もっと他にやりようがあるはずです……しょせん、エルナちゃんは、ただのメイド……ここで辱める意味とは……?
しかも、動きが素早すぎて、証拠が押さえられませんでした。 これでは、メイド長を追求することは出来ません。
ですが、サナ、気になります! おそらく、もっと大きな動機が彼女にはあるはずです……パーティが再開されるまであと30分、ここは情報収集です!
……おっと、指示を出し終えたメイド長が、お屋敷の奥に戻っていきます。
わたしは、配膳室を出ると、メイド長の後を追いました。
*** ***
サナ、知っています! こーいう時に、犯人は誰も見ていないところで、犯行動機をしゃべるんです。
迷探偵コーナンドリルで知りました!
慎重にメイド長の後をつけます。 ……ここは、ヒルダお嬢様の私室……むむむむ、これは怪しいです。
わたしは、メイド長がドアを開けるタイミングを見計らい、室内に身体を滑り込ませました。
念のため、机の下に隠れたわたしの横で、ヒルデお嬢様とメイド長がひそひそ話をしています。
隠密魔法はバッチリ、ふたりとも、わたしに気づいてません。 高級香水で、足クサ対策もばっちりです!!
「ヒルデお嬢様……いえ、ルーシー。 これで私たちの計画は完了。 アナタが家督相続人になり、エルナの奴を、今日のミスを理由に追放してしまえば、ヨーゼフ家は、私達のモノ……ふふふ」
「ばっちりですわ、お母さま……エルナが”精霊の花”を持ってきたときは、どうしようかと思いましたが、流石の修正力です。 これで、私達は一生遊んで暮らせますわ……」
”お母さま”!? あのヒルデさんは、フレデリクさんの娘ではないのですか? なんか混乱してきました……ただ、流石コーナン君です。犯人が動機の説明をしてくれるってのは本当でした……おっと、録音録音。
「ふふん、本当のフレデリクの娘であるエルナと、アナタが数日差で生まれるとか、僥倖でしたわ」
「非合法組織に依頼し、アナタとエルナを入れ替えた……料理に毒を入れ、夫人を毒殺……我ながら、メイド長の立場を利用した、完璧な手口でしたわね」
なんと! このババア、思ったよりずっと悪人でした! しかも推定15年前からメイド長ですか……なんという執念、更年期女は怖いです……そうすると、エルナちゃんの髪が青色なのも、どことなく漂う気品も、納得がいきます。
「本当に、お母さまは恐ろしい……まさか、フレデリクご主人まで暗殺するのではないでしょうね?」
「ふん、まだまだ奴には利用価値があります。 私たちがもっと権力を手にするために、せいぜい踊ってもらいましょう……ふふふふふ……」
さんざん陰謀を語ってくれた後、ふたりは部屋を出ていきました。
……サナ、見ちゃいました! これはリリ様と、フレデリクさんにチクるべきですが……わたしが潜んでいた場所の角度的に、動画は撮れず、証拠は音声だけです。
しくっちゃいました。
むーん、なにかもう一つ、エルナちゃんがフレデリクさんの娘だという、決定的な証拠が欲しいです……
……あれっ、この机、天板の裏に隠し棚のようなものがあります。
こんなのサナちゃんスキルでちょいちょいっと……中に入っていたのは、手紙……こ、これは!
……やりました……サナ、突き止めました! これで、彼女たちの陰謀を止められます!
次回、犯人判明! 真実はたぶん、一つなのです!!
……犯人もうわかってるじゃねーか、とか、言わないでくださいね。