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第12話 メイド少女と貴族の陰謀編 その5 貴族屋敷と動き出す陰謀

 

 深夜、リーベの街 某所……


 とあるお屋敷の一室、中年女性と少女が、ロウソクの明かりの中、密談を繰り広げていた。

 部屋の中は暗く、お互いの顔は良く見えない。


「くぅ……まさか、本当に用意してくるとは……これでは、例の計画が……お母さま? あの娘ったら最近とみに……」


「しっ! めったなことを言うのではありません!! どこでだれが聞いてるか、分からないのですよ! それより……」


「ふふ、なるほど、さすがお母さまですわ。 これで、私たちが……」


 陰気に笑う、ふたりの女性。 怪しい陰謀が始まろうとしていた。



 ***  ***


「アーバンロリ! 深窓の令嬢! ふっふふ~~ん」

 ヨーゼフ家ご息女生誕祭の日、オレはご機嫌だった。


 数々の下準備をへて、今日、ようやく願いが叶うのだ! 上機嫌になるのも、当然と言えよう!


「リリ様、ドヤる顔はカワイイですけども、そろそろお迎えが来ますよ。 お召し物を着ないと」


 む、そうだった。 今日は曲がりなりにも貴族たちの催し、オレ達もそれなりの格好をすることが求められている。


 ベッドの上にはたくさんのドレス。 昨日、街中のブティックを回って買い集めたものだ。


 ちなみに、余分に採取した”精霊の花”と、ついでに回収した”サンダー・ブレード”を売っぱらったおかげで、オレ達のふところは大変潤った。

 これらのドレスも、すべてが高級品だ。


「うーん、ドレスの良しあしとか、わかんねーな……オレ、これでいいや」


 オレは、ドレスの山の中から、真っ赤なドレスを取り出す。大胆に肩が露出する形となっており、胸元には大きな花のアクセサリが付いた、ゴージャスな奴だ。


「……いけません、リリ様。 わたしたちはあくまで招待客、主賓より目立ってはいけないので……もう少し地味なデザインのが良いかと……」


「えー、めんどくさい……じゃあ、なんでこのドレス買ったんだよー」

 珍しく常識的なことを言うサナに唇を尖らせて抗議するオレ。


「ぽっ……そ、それは、わたしとリリ様の、婚姻の儀で着て頂きたくて……」


「ご安心ください! リリ様! 最近オスト王国の新生物研究所が発表した論文によりますと、IPS細胞というもので、同性間でも子供ができるそうです! わたし、一姫二太郎が……!」


「てーい (ぺしっ)」

「あいたっ!」


 またもや、危ない妄想に沈みかけるサナを、チョップで矯正する。 まったく……だが、サナの言うことも、もっともである。


「……むー、そしたら、この落ち着いたベージュのドレスにするかー。 鮮やかな赤がいいのに……」


「はい、無難なセレクトかと。 かわいいですよ、リリ様♪」


 そういうサナは、端に少しフリルのついた、薄紫のドレス姿だ。体の線を強調しすぎないよう、ゆったりとしたサイズになっており、なるほど。 これだと来客の中でもそんなに目立たないだろう。


「んー、でも、サナの巨乳はどうやっても目立つね♪ それに、オレ達の愛らしい美少女フェイスは、どうやってもごまかせないけどな!」


「ふふっ、まあそれは否定できませんね」


 ドレスを着たオレ達は、記念写真を撮ったりして、迎えが来るまでの時間を過ごした。



 ***  ***


「おはようございます、リリ様、サナ様。 昨日はよくお休みになれましたか? さ、こちらの馬車へどうぞ」


「迎えの馬車!? ガチ上流階級じゃん!!」


 迎えに来てくれたのはエルナだった。 オレ達は正式にヨーゼフ家の招待客となったので、エルナの対応も丁寧だ。


 そして、ホテルの正面に停まったのは、2頭立ての豪華な馬車! 馬や車両には、たくさんの宝石が埋め込まれた装飾が施されており、車両のドアにはヨーゼフ家の紋章が付いている。どうみても名家である。


「ほ、ほ、本当にこんな豪華な馬車に、わたしが乗ってもよいんでしょうか……伝説のスラムと呼ばれた村出身のわたしが……」


 おまえの故郷、スローライフな辺境の村じゃなかったっけ? そのうち行ってみようかな……


「あの、申し訳ございませんが、お時間がありますので、できれば乗っていただけませんでしょうか……」


「「はっ!? すみません」」


 オレ達は我に返ると、そそくさと馬車に乗り込んだ。 くそ、それにしてもヒールって奴はなんでこんなに歩きにくいんだ……


 ヨーゼフ家のお屋敷には5分ほどで着いた。

 こんな距離なら歩けばいいじゃんと思うが、招待客が馬車でお屋敷に集まるところを住民に見せるのも、名家的には重要なのだろう。


 オレ達は、ヨーゼフ家のバトラー(執事さん、メイドさんを統括するトップだ)のあいさつを受け、来客名簿に記帳すると、控室に通され、一息ついていることろだ。


「ふう、想定より2段ぐらいすげー家だな……サナ、ヨーゼフ家ってそんなに名家なのか?」


「ワキペディアの情報によると、千年以上前に公王一族から分家したと書いてありますね……歴史ある、相当の名家らしいです」


 サナが、魔導通信端末(アルカディア)で調べた情報を教えてくれる。


 ちなみに、ワキペディアというのは、最近ブームのオンライン?辞書サービスのことだ。 便利な世の中になったもんである。


「はえー、公王の系譜かよ……ますますゲットしがいがあるな……それにしてもこのチョコうめー」


 オレは、テーブルの上に置いてあるウェルカムスイーツをぱくぱく食べる。 高級品だな―、これ。


「ああ、リリ様、はしたないです……あと、脚は閉じてください!」


 お皿のチョコをほとんど平らげたところで、エルナから声を掛けられ、オレ達はパーティ会場に移動した。



 ***  ***


「皆様、ようこそ、わが家へ。不肖、フレデリク・ヨーゼフが娘、ヒルデの生誕祭においでいただき、誠にありがとうございます。 短い時間ではございますが、ごゆるりとお寛ぎください」


「これも、本日で15歳になります。 いよいよ成人となり、我がヨーゼフ家の家督相続人として、皆様にご披露させていただく場も兼ねております。 ……ほら、ヒルデ」


「んっ……ヒルデでございます。 皆様、よろしくお願いいたします」

(……ぺこり)


 ヨーゼフ家の主人である、フレデリクというおじさんの挨拶の後、生誕記念パーティとやらは、和やかに始まった。


 あのフレデリクとか言うおっさん、なかなか感じがいいな。 穏やかなまなざしに、バリトンボイスのナイスミドル。 俺もおっさんになったときに、ああいうドラゴンになりたいものだ。


 ……それに比べて、娘ヒルデは無口だし、地味だな。 フレデリクがきれいな青髪をしているのに比べ、髪はくすんだ茶色だし、目つきも良くない……よく見ると、歩き方もがに股だし……緊張してるのか?


 ぶっちゃけ、好みじゃない。 あれなら、エルナの方が100倍イイな―。


 名家のお嬢様とはいえ、すべてが美人でおしとやかではない。 よく考えれば当たり前の現実をオレは実感していた。


「リリ様! こ、これは深海クラーケンの網焼きオーロラソース仕立て!! 公都の名店でもめったに食べられない逸品! ……ああ、おいしい……サナ、サナ、幸せです!」


 こいつめ、先日のルーヴィン村で豪華な食事が食べられなかったリベンジをしてやがるな……幸せそうで何よりだ。


 それにしても……何だろーなー? 何か引っかかるんだよな……。


「……本日は、特別なお客様をお招きしております。 ヒルデお嬢様が身に着けておられる花は、かの貴重な”精霊の花”。 こちらをSランクダンジョンである霊峰からとってきていただいた、凄腕の冒険者様をご紹介します。 リリ様、サナ様、壇上にどうぞ」


 おっと、特別ゲストとして呼ばれてしまったぞ……せっかくだ。 ヒルデお嬢様とやらを、まぢかで観察しようか……


 オレは、いまだに飯を詰め込みまくっているサナの首根っこをひっつかむと、フレデリクとヒルデが控える、パーティ会場の壇上に向かった。


「おお、あなた方が……まだ小さいのに凄腕の冒険者とか……失礼、レディに対して、無礼でしたな」


「いえいえ、オ……アタシたちはまだ修行中の身ですから。 それよりも、本日はお嬢様の生誕祭にお招きいただき、ありがとうございます。 なにぶん、こういう場は、なれておりませんので、失礼がありましたら、もうしわけございません」


「なんのなんの、貴方達は、立派なレディですぞ……我がヒルデにも、もう少し社交界の作法を学ばせねばなりませんな」


 流れるように挨拶をするオレ。 となりでサナが (詐欺です……)とつぶやいているが、ドラゴンとして当然のスキルだな!


 フレデリクさんは、オレ達を高く評価してくれたようだ。 子供だと侮ったりせず、対等に扱ってくれる。 いままでロクな人間の男に出会ってなかったので、感心してしまう。


「あ、このたびは”精霊の花”ありがとうございました……大切にさせていただきます」


 対して、ヒルダは言葉は丁寧だが、下を向きながらモゴモゴとしゃべり、正直、あまり印象は良くない。 ふむ……


 オレは、失礼にならない程度に彼女の全身を観察すると、くんくんと匂いを嗅ぐ。


 説明しよう! オレのドラゴン譲りの敏感・ノーズは、女の子 (ロリ)の匂いだけではなく、対象のレベル(高貴度、庶民度)まで把握できてしまうのだ!


 ”ダンジョンのぬし”のバイトをしている時、まだ未熟だったオレは、SSSランクの冒険者がやってきた場合、先に察知して逃げられるように、このスキルを磨いたのだ。


 オレの違和感は、疑問に変わる。



 二人の前を辞し、自分のテーブルに戻ると、疑問に思ったことを説明する。


(……おい、サナ。 このヒルデお嬢様とやら、おかしい。 レベルは低いし、高貴度が”庶民”だ。 なにより……)


(アイツ、()()()を処理してねーぞ! お嬢様として、ありえねーだろ!)


(ななっ! なにいきなり女の子にセクハラしてるんですか! 逆に深窓の令嬢だから、そういう習慣がないという事はありませんか?)


(いや、お付きのメイドがいる時点で、そこを気にしないとか、ありえんだろ……もしくは、なにか後ろめたい所があって、お風呂とか、そういう場にメイドを近づけていないとか……)


 ふーむ、なにかあるかもな―。 ただ、調べるきっかけがない。もう少し様子を見るか……。


 あ、ちなみに、サナはもっさもっさだぜ? 毛が柔らかめで手触りがいーんだよね。 足クサ剛毛ヒロインとか、斬新だよな!


(なっ、なななななっ!? わたしの秘密をばらさないで下さ~~~い!)


 思わぬカミングアウトに、サナがぽかぽか叩いてくる。 オレ達がじゃれあっていると……



「きゃあああああっっああ!? なんなの、これっ!?」



 会場に、絹を裂くようなご婦人の悲鳴が響いた。


 ……事件だ!


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