第10話 メイド少女と貴族の陰謀編 その3 探検! Sランクダンジョン
オレ達は、[難易度Sランクダンジョン:リーベの霊峰] 攻略の準備を整えるため……服屋を訪れていた。
「あの、リリ様? ダンジョン攻略の準備と言えば、武器屋や、道具屋に行くのでは……ここ、女子向けのブティックですよ?」
「んー? だって、オレ→攻撃:SSS 防御:SSS サナ→防御:SS(リリちゃん防御魔法) 回復:S じゃん? なにか他にいる?」
「う……たしかに」
別に買ってもいいが、攻撃力20,000が20,150になるくらいなので、正直誤差である……それより……
「絶対ダンジョンの中、寒いぞ。 防寒装備の方が大切だろう?」
「そうでした……この国は基本的に温暖なので気付きませんでしたが、標高6,500メートルの山頂ですもんね」
「そーいうこと……おお、これは異世界の学校制服!? いいじゃーん、今度サナやロリちゃんに着せよう!」
オレは、”せーらーふく”とタグのついた、制服のような衣装に目を付けた……むむ、何か惹かれるぜ……こすぷれプレイもいいかもしれない……
「いや、リリ様、こちらのぽかぽかインナーとか買いましょうよ……」
オレ達はワイワイ話しながら、防寒装備を整えた……もちろん、”せーらーふく”もゲットだ!
*** ***
「よっし、服も着たな……そろそろ出発するか!」
オレは、もこもこダッフルコートにふわふわの耳当て、脚には厚手の防寒タイツを履いた。
「うう、さすがにここだと暑いですね……ふぅふぅ」
サナは、ダウンジャケットに、ケモノ耳用に調整された耳当て、ボトムスは温熱レギンスにムートンブーツ。 おお、厚着サナもかわいいじゃないか……胸が目立たなくなるし。
「なんかあれだな、厚着すると、女子力上がった気がすんな♪」
「ふふ、そうですね! わたしなんて故郷ではずっとワンピース1枚しか持ってませんでしたから、嬉しいです!」
くるりと身体を1回転させ、嬉しそうにはしゃぐサナ……地元では苦労してたみたいだな……出来る範囲で贅沢させてやろう……
思わず愛らしい下僕に萌えてしまったぜ……おっと、そろそろ本当に出発するか。
「サナ、行くぞー……ふん!」
オレは光の翼を出現させると、サナを抱っこする。
ふにゅん
「あん! リリ様、あんまり変なとこ持たないでくださいね(てれてれ)」
まったく、えっちな声を出すんじゃない……し、しかし、こいつはホントにやわらけーな……この手触りは120点だ!
オレ達は、リーベの霊峰を目指し、大空に飛び立った。
*** ***
「ふああ、気持ちいい♪」
そよぐ風に、サナが気持ちよさそうにしている。
眼下にはリーベの街、そこから山脈に続く森と、登山道が小さく見える。
そして、正面には霊峰が堂々たる姿を見せていた。
人間族の飛行魔法はこの高度まで上がれないからな、延々と山を登らなくてはいけないわけだ。
この霊峰ではAAランクのモンスターが出現するそうだし、そこそこの冒険者でも踏破するのは大変だろう。
オレ達は、複雑に分岐する登山道、強力なモンスターが闊歩する霊峰1合目~8合目のフィールドをすべてスキップすると、9合目のダンジョンの入り口に降り立った。
「……やっぱり、ずるいです。チートです。 責任者に怒られますよ?」
いーのだ。 オレは最強生物(元)ドラゴンだからな!
さーて、ダンジョン攻略と行こうか。
*** ***
オレ達は慎重にダンジョンを進んでいた。出現するモンスターは一瞬でオレが灰にしているが。
自然の洞窟とはいえ、巧妙なトラップがあるかもしれない……そういえば、こういうトラップって、誰が仕掛けてるんだろう?
世の中、当たり前にある事でも、理屈が分らない事柄は多い……思わず哲学的な思考をしてしまうオレ。
そっと洞窟の小部屋をのぞくと……おっ! 宝箱だ。
「……なあサナ、聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょう?」
「こうやってダンジョンにおいてある宝箱、一体だれ……むぐっ!?」
オレが思わず、更なる疑問を口にしようとしたところ、サナが慌てた様子でオレの口をふさぐ。
「いっ、いけません! リリ様! 世界トラップ/宝箱設置ギルドの力はさらに絶大です! 中身に文句を言った冒険者が消されたという噂も……!」
「……ぷはっ、分かった分かった……気にしないことにするよ……」
だいたい、武器/防具メーカーの税金対策・在庫処分辺りが真相なんだろうが、公にできないグレーな部分もあるんだろう。 深く追求しないのが大人というヤツか。
気を取り直して宝箱を開けると、”サンダー・ブレード”が入っていた。 戦闘中に使用することで、Cランクの電撃魔法が発動する魔法剣だ。
こないだ雑誌で読んだが、昨年の冒険者の間で雷属性がトレンドだったらしい。 ブームはすぐ変わるもので、今年は水属性がブームだ。
いよいよこれは、在庫処分だな……
「うーん、Bランク武器か、いらねー。 サナ、うっぱらって旅費の足しにしよう」
「はい、承知しました。 本来なら5,000公国マルクは下らない、中級冒険者には垂涎のアイテムですけどね」
最強幼女であるオレには必要ないな! 先に進むぞ。
*** ***
攻略を始めて、はや数時間……いよいよ最深部に近づいたようだ。
……だって回復ポイントが設置されてるもん。
なんでこんなものが置いてあるのか、疑問に思われる方も多いであろう。
実はこのオレ、3,000年ほど前にバイトをしていたので、分かってしまうのだ。
竜族の主なサイドビジネスとして、”ダンジョンのぬし”がある。
手ごろなお宝を餌に、冒険者どもを釣り、返り討ち。 所持品を換金するという、なかなかアコギなビジネスではあるが、一攫千金をもくろむ冒険者どもと、意外にやることが無い竜族の間でニーズが一致してるのか、そこらじゅうのダンジョンで実施されている。
この回復ポイントは、冒険がギリギリ達成できるかも……という、射幸心を煽るエッセンスとして、設置されるものだ。
……って、この回復装置のタイプ……もしかして……少し嫌な予感がする……
「……リリ様、わたしも疑問に思ったのですが、このような回復装置、誰が設置してるんでしょうね? 何の得が……?」
サナが当然の疑問を口にしているが、なるほど。 何事にも納得できる理由というのはあるんだな……
「サナ……悪いがそれは、禁則事項だ」
「!! そうでした。 おそらくなんとかギルド……が関わっているんですよね。 気にしないことにします」
賢明な判断だ。
オレ達は気を取り直して回復装置で魔力を補充すると、洞窟の最奥に足を踏み入れた。
*** ***
「これが、守護者……って、ドラゴン!?」
サナが驚くのは無理はない。 最奥の部屋に鎮座していたのは、体長30メートルはあろうかという、桃色の鱗を持つ、巨大なドラゴンだった。
「そんな、いくらいまのリリ様が強くても、ドラゴン相手じゃあ……」
ドラゴンは、オレ達を侵入者と認識したのか、起き上がり、こちらを威嚇してくる。
「くっ、これじゃ、逃げられない……なんとかわたしがアイツの注意を引いて……なんとかリリ様だけでも無事にっ」
サナがドラゴンからオレを守るように、立ちふさがる。その表情は、なにかを覚悟したように、真剣だ。
絶望的な戦いが、いま、始まる……