朝っぱらからゆーれい、首を揉む 〈餅角ケイと金縛り〉
実話
その朝、心身もろとも疲れ果てていた私は久しぶりに金縛りに遭った。そしてその中での体験が奇妙この上なかったのだ。
ネタバレをすると、金縛り中に働いた幽霊的な不思議な力が、私の首を指圧マッサージしてくれたのだ。このエッセイの要点は以上である。
以下はそれに至った経緯をぐだぐだ綴った散文なり。
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振り返ってみるまでもなく、最近の私はそれはそれは疲れ果てていた。
始まったばかりのひとり暮らし、その中で続く残業の日々。1日14時間ほど働いていた日もあった。しかしその帰宅後も翌日の勤務のために調べものをしなければならないし、夢の世界でまで仕事に追われていることもあった程だ。これではもう実質24時間労働みたいなものだろう…………。
時折どうしようもない焦燥感と絶望感が見え隠れしつつも「うわぁすご! こんなにがんばっているのに私しんでない! しゅごい! とりあえず生きてるから私の勝ちィ!」みたいに無理やりIQを下げてアホみたいになりながら、要領が悪いなりにもひたすら職場で駆け回り、数少ない休日を待ち続けた。そんな私に念願のそれが来た瞬間、見舞われたのだ。奇妙な金縛りに。
その日は明晰夢を見ていた。幸いにも舞台は職場ではなかった。中途半端なタイミングで現実に引き戻されるも、時刻はまだ朝の5時半。スズメが狂ったように鳴いている。冴えた頭でタオルケットに身をうずめつつ、すっかり社畜仕様に設定されてしまった自分の体内時計を恨むったら恨む。そこから無理やり二度寝をした(ちなみに二度寝した後って明晰夢や金縛りに遭いやすいらしいですよ)。
そうしてまた目が覚めた、と思いきや明らかに私は硬直させられていた。久しぶりの金縛りだった。
金縛り経験者であれば「あるある〜」と共感していただけると思うが、この金縛り最中に見る幻覚がまたリアル(いくら金縛りに遭った人が目を開けているように感じていても、実際には閉眼していることがほとんどらしい。つまり金縛り中の視界=脳が見せている中途半端な夢)で、よく五感を刺激されることがある。
ある時私は金縛り最中、得体の知れない幽霊に身体をくすぐられ、笑い転げたいのに身動き一つ取れず、それでもまだくすぐられて悶絶させられたことがあった。また真夜中に金縛りに遭った時には、また別の幽霊らしきものに鉄パイプのような尖ったものの先端で胸部をグリグリされ、めちゃくちゃ怖かった&痛い思いをした。殺されるかと思った。高熱を出して寝込んでいたらまた動けなくなって、変な影みたいなものに魂だけ引っ張られそうになったこともあった(これだけに関してはモノホンの死神だったのかもしれない……?)。
もしかしたら地球上のどこかで本物の幽霊は彷徨っているのかもしれないが、金縛りについてはまた別の話だと思っている。私は「金縛り=寝ぼけた脳の幻覚説」を信じているので、私の前に現れた幽霊たちは決してオカルトではない、と信じたいのだが……。し、死神の件は置いておくとして。
話が長くなった。
さて今回の金縛りに現れたイタズラ幽霊(?)は、なんとも優しい心の持ち主だったようだ。
まず、金縛りの中でイタズラされる。いや変な意味ではなく、左耳の穴に指とか色々と突っ込まれてグリグリされるという、よく分からない仕打ち。
(やめて……それ地味に痛いしくすぐったいからやめて……)
身動き取れずに念じることしかできない餅角。
(あ、止んだ。…………⁉)
その時、私は自分自身の感覚を疑った。
(左の首元が……マッサージされている…………⁉)
ひとりで暮らすこの家に家族も施術者もいるわけがない。
ゴリゴリゴリゴリ。
金縛りで動けない中、謎の指圧が私の首付け根を刺激する…………! なぜか左側だけ…………!
現実と言わんばかりに力強く感じられる親指の指圧。ちょっと強すぎてくすぐったいくらいだけど。ああ心なしか、首のコリが取れたような…………?
ありがとう得体の知れない幽霊さん、でもどうせなら右側もやってよ〜〜とか思っていたときに金縛りは解けたのだった。
ゆったりした休日の朝、何気なく付けた国営放送の教育チャンネル。頭にマラカスを2つぶっ刺した精霊みたいなキャラクターが、ポップな調子で「ごみはポイ、ポイポイポイ」みたいな歌を歌っていた。全国の子供たちにモラルを学習させるためのものなのであろうが、いかんせん奇妙な体験をした直後だったので、どうしても私にはホラーと狂気に満ちたアンサンブルにしか聞こえなかった。
結局何が言いたいのか分からなくなってしまったが、今回のように不思議で怖くない金縛りもあるんだよ〜〜という体験を共有したかったのだ、私は。
頑張りすぎるとまた変な金縛りに遭ってしまうと思うので、決して無理はしすぎず生きていきたいものである。……世の中の、働いている全ての皆さまに祝福を。誰だって、せめて寝てる間くらい好きな夢を見ていたいはず。だからこれからは誰も彼も恐ろしい金縛りに遭遇しませんようにとここで願っておく。