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Rain  作者: P.Lea
8/12

命の夢。

今日は思い出のホテルに泊まる日だ、嬉しくもあり悲しくもあり複雑な気持ち。


「緊張する。」


「え…?何ですか??」


私の前にいるホテルの従業員が不思議そうな顔をしている。

私は昨日予約をしたホテルのロビーにいた、チェックインを済ませるために…


「ごめんなさい、独り言だから気にしないで」


そう言うと部屋の鍵を受け取り703号室を目指す。

見慣れた道のり…いつもと違うのは私が一人きりで来ている事のみ。


「ここだ…」


鍵を開けると部屋は私達が来ていた頃と何一つ変わっていなかった。

窓を開けると心地よい風が部屋に入り潮のにおいがほんのりとする。


「変わってないな。」


夕日まではまだ時間があったが、私は何をするわけでもなくただ窓の外を眺めていた。

どれ位の時間が経ったのだろう…気が付くと辺りは少しずつ赤く染まり始めていた。

風は冷たくなり人の声もいつの間にか聞こえなくなっている。


「そろそろかな、上着でも着よう…」


上着を着るとまた窓の外を見た。

そこには、やはり何ひとつ変わらない夕日がいた…


「きれい…」


自然と涙が私の頬をつたって落ちた。

何もかもが紅く染まり美しかった。

言葉にならないその想いは相変わらず私の涙に変わり落ちてゆく。

その夕日を見ながら私は携帯を握り締めた。


「決めなくちゃいけないよね…」


メールを打つ手が涙で見えない、私はメールに亮との別れを打ち込んでいた。


「………さようなら。」


そう呟くと送信ボタンを押して、携帯の電源を落としまた呟く。


「来て良かった…」


亮と私の恋は終わってしまった。

しかし私の心は晴れやかだ。確かに辛く悲しいが胸のつかえは取れていた。


「私の悲しみを知っているのはアナタだけね」


夕日に笑いかけると静かに窓を閉めた。



その日私は不思議な夢を見た、私は暗くて狭い所に居るようだ。

息苦しくて気持ちが悪くなった…すると向こうに光が見えるのに気が付く。

あそこに行かなければ!そう思った。

しかし…もがけばもがくほど光は遠ざかり最後には消えてしまった。

息が出来なくなった私は気を失う瞬間叫ぶのだ…


「お母さん助けて!!」



夢から覚めた私は泣いていた…胸が張り裂けそうな想いでいると、ふとお腹に違和感を感じる。

恐る恐るベッドを出てみると私が寝ていた場所に大量の血が…


「え…あ、何?嘘でしょ!?」


急いで部屋の外に出て声の限りに叫んだ。


「誰か…誰か来て!!」


従業員の車で病院に運ばれて検査を受けた。


「私は…病気なんですか?」


そう聞くと医師は首を横に振った。


「あなたは妊娠していたんですよ、5週目に入ったばかりでした。」


(…でした?)


「あの……え??」


「残念ですが…ご家族の方に連絡はなさいますか?」


私は妊娠していた。

この体に新たな命を宿していた…愛する人の子供を。

しかしその命は生まれる事なく私の中でたった…たった35日間の生涯を終えたのだ。

最近は体がおかしいと思っていた。

感情をコントロールできなかったり貧血を起こす事も多くなっていたし、眠気は常に私を襲っていた。

寝ても寝足りなさを感じるほどに。

今になって考えれば簡単な事だった。

私は疲れていたわけではなく妊娠していたのだ。

そしてその命を殺した…自分の事にかまけ必死に私に助けを求めていた命に気付きもせず、その将来を奪った。


さっき見た不思議な夢はその命が終わる瞬間だったのだろう…私が叫んだ、


「お母さん助けて!!」


あの言葉は私の子供の最後の言葉だった。

すべてを理解すると、私の神経はそれに耐え切れずにプツンと音をたてて切れてしまった。

外から聞こえる波の音が雨音に似ていた。




私は夢を見たのだ、命の終わる夢を…。





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