一人ぼっち。
空港を一歩出ると懐かしい気分になった。
(…最後に来たのはいつだったかな。)
沖縄は考え事をするにはぴったりの場所だと前から思っていた。
人も空気も時間さえも急ぐのを忘れてしまう島…しかしその為に来たのは初めてだったので少し悲しくなる。
(…できれば考え事の為には来たくなかった。)
この土地の空気は、いつ来ても私の肌にぴったりと合う。
特にこの季節が一番…初めて亮と旅行に来た時も、ちょうど秋だった。
「うそ…沖縄って一年中暑いんじゃないの?」
「馬鹿だな、そんな土地あるかよ。」
私は亮との初めての旅行に浮かれすぎ、季節の事など考えていなかった。
私が持ってきていたのはキャミソールや半袖ばかり…地元の人もそんな格好はしていない。
「寒いし恥ずかしいし最悪。」
「しょうがないな…これ着てれば?」
亮は私の肩に自分の上着を掛けた。
着てみると温かさと一緒に亮の香りが私を包み込んだ。
甘い香りに包まれて幸せに感じたのを今でもはっきりと覚えている。
「少し歩こうかな…」
私は亮との思い出を辿るようにゆっくりと歩き出した。
(あ…あの店は亮とペアで置物を買った店だ。)
(あそこは私達のお気に入りの場所…綺麗な海が見渡せるのよね。)
(ここは料理がまずくて二人で落ち込んだ店…)
思い出の場所に着くたびに足を止め、ゆっくりと目を閉じてみる…心がぽかぽかと温かくなるこの感覚は言葉では言い表せない心地よさだ。
一人で来たはずなのに…そこには亮が居た。
もちろん見えはしない…声も聞こえない、触る事さえも出来ないが私の隣には亮の温もりが寄り添っていた。
「一人で来たつもりでいたのにね…」
そう言った私は、きっと笑顔だった。
ふと気が付くと辺りは暗くなり始めていた。
「泊まる所探さないと。」
私は迷っていた…亮との思い出が詰まったあのホテルに行こうか違うところを探すのか。
結局私の足はあのホテルに向かうことを決めた。
急いでタクシーをつかまえる…
「すいません、○○ホテルまで」
私を乗せるとタクシーはすぐに走り出し、私は不安と懐かしさの狭間で少しの間苦しんだ。
(このまま、一人であのホテルを訪れて私は大丈夫なのだろうか。)
しばらくすると、私の悩みなどお構いなしにタクシーは目的地に着いてしまった。
運転手に代金と心ばかりのチップを渡すと、焦る心を落ち着けるように胸に手を当てホテルのロビーを目指して歩き出した。
カウンターの前に立ち上ずった声を抑えつつ、
「予約をしていないのですが宿泊は可能ですか?」
そう聞いた。
「申し訳ありません。本日は満室となっております」
幸か不幸か思い出の詰まったこのホテルは私が泊まるのを拒否したらしい。
「明日ならキャンセルがでた部屋にご案内できたんですが…」
その言葉に、私は何か運命的な響きが混じっているのを感じた…まさか。
「キャンセルが出たのは何号室ですか?」
「703号室ですが…。」
やはりそうか…予感は当たっていた。
キャンセルが出た703号室は私達の思い出の部屋だった。
「明日の予約をお願いします…703号室で。」
そう言ってホテルを出る…風がそっと私の顔を撫でた。
幸せだった時間の断片に触れようと私は1人…一歩を踏み出した。