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Rain  作者: P.Lea
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幸せのカケラ。

電車を降りて羽田行きのバス停を探していると、目の前に目当てのバス停が見えた。


(もうバスが来てる…急いで乗らなくちゃ。)


そう思いバスに乗り込もうとした。


「ちょっと!乗るのは券を買ってからにして下さいよ。」


少し強面の男性に怒られた。


「券…ですか?」


私はバスにあまり乗った事はないが、記憶が正しければお金を払うのはバスから降りる時だった気がする。

私が驚いているとその男性が説明をしてくれた。


「このバスは羽田空港にしか行かないんですよ。だから券買わないと乗れないの、アンタそんな事も知らないの?」


そう言って困ったな、と言う顔をした。


「すいません。一人で行くのは初めてなもので…あの、おいくらですか?」


「そこに書いてあるでしょ。」


男性が指差したのは料金表だった。


(別に口で言ってくれたっていいのに。)


そう思いながら、料金表に書かれた通りのお金をピッタリ渡してバスに乗ろうとするとまた怒られた。


「荷物はこちらに渡して下さい!」


「何でですか!?」


驚いている私に大きなため息をつきながら、


「他のお客さんの邪魔になりますから。」


そう言って私と荷物を引き剥がすと、早く乗れと言わんばかりに睨みつけた。

バスに乗ると窓際で私達の会話を聞いていた女子高生が笑いをこらえていた…


(恥ずかしいな。)


そんな事を思いながら一番後ろの席に座ると私が乗り終わるのを待っていたかのようにバスはすぐに動き出した。


(考えてみれば一人で旅行に行くのは初めてだな…バスに乗る時だって今までは亮がお金出しててくれたんだな。私…全然気付いてなかった、ごめんね亮)


一人になってみると改めて亮の存在の大きさに気付かされてしまう。だめだな…私は。

しばらくするとアナウンスが流れた、


「羽田空港、お降りのお客様は忘れ物にご注意ください。」


バスを降りるとさっきとは違う男性が荷物を渡してくれた。

お礼を言って荷物を受け取りロビーに向かう。

幸いにも私は1時間後の便に乗れることになった、


「1時間か、ご飯でも食べようかな。」


そんな事を言っていると右の方にカフェが見えたので、軽く遅めの朝食をとることにした。


「いらっしゃいませ、ご注文が決まりましたらお呼び下さい。」


そう言ったウェイトレスからメニューを受け取ると、しばらくそれを眺めた。


「すいません、注文いいですか?」


「はい、お伺いします」


「じゃあ、このモーニングセットください。」


時計を見てみるとモーニングセットを頼める時間を30分も過ぎていた。


「ごめんなさい!時間を見ていなかったから…」


「いえ、大丈夫ですよ。私もメニューを下げ忘れていたし。」


「えっと…じゃあコーヒーと……」


慌てて他に頼めるものを探している私に彼女は、


「モーニングセットをお持ちします。大丈夫、うちのコックも時計は見ないんです。」


そう言って厨房へ入っていった。


(いい雰囲気の店だな。亮とも来たかった…)


15分も待っているとさっきのウェイトレスがモーニングセットを持ってきた。


「お待たせしました。モーニングセットになります。」


「ありがとう大丈夫でした?怒られたりとか…」


不安気に聞いた私の顔を見て彼女は笑いながら言った、


「大丈夫ですよ。それにここのモーニングセットは美味しいから是非食べてほしかったし。」


「本当に美味しそう。」


そう言うと彼女は嬉しそうに微笑み、お辞儀をしてテーブルを片付ける為にまた店の奥へと入っていった。

彼女の言う通りこの店のモーニングセットはとても美味しく私を幸せな気持ちにさせてくれた。

遅めの朝食をゆっくりと食べ終えた後、時計を見ると飛行機が出るまで20分位しかない事に気付き私は急いで立ち上がった。


すると、急に周りの景色が歪んだ…正しく言うなら私には歪んで見えた。

よろけて椅子につまずき転んでしまった私に気付き先程のウエイトレスが駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」


心配そうに私の顔を覗き込んでいるウエイトレスに声を掛ける。


「大丈夫、ただの貧血だと思う…うるさくしちゃってごめんなさい」


そう言いつつも私は不安な気持ちでいた。

小さい頃から私は健康な事だけが取り柄で、貧血で倒れることなど一度もなかったのだ。


…私は一体どうしたのだろう?

体を気にかけ起き上がるのを手伝ってくれたウェイトレスにお礼を言い、モーニングセットの代金を払うと私は足早に店を出た。

ロビーでは搭乗手続きを促すアナウンスが流れている…私も早くしなければ、そう思い貧血を起こした事など忘れて走った。

少し、くらっとしたが搭乗手続きは滞りなく終わり私は無事に機内に入った。

自分の席もすんなりと見つける事ができ、安心したせいなのか満腹だったせいかは分からないが、私は席に座ると5分もしないうちに眠ってしまった。


「……様、お客様!!」


(ん…?誰??)


起きると私の横に客室乗務員が居た。


「お客様、お休みのところ申し訳ありませんが安全の為にシートベルトをお締めください。」


「は、はい」


慌ててシートベルトを締めた。


「ありがとうございます。何かご用がありましたらお近くにおります係りの者にお申しつけ下さい。」


そう言うと彼女はまた歩いて行った。

彼女の後ろ姿を見ながら私は考えていた。


(人に起こされるのなんて何年ぶりだろう…いつもなら人の気配がするだけで起きてしまうのに。)


「昨日寝ていなかったから…」



まるで自分に言い聞かせるように何度も言った。


しばらくすると、また眠気に襲われた…


(どうせ飛行機の中なんてする事もないし。)


そんな言い訳をして私はまた眠ることにした。




「悠、悠…聞いてくれよ」


ふいに私は聞きなれた声に眠りを妨げられた。


「…?亮なの?」


ゆっくりと目を開けると、そこには昨日の女性と亮が並んで立っていた。

どうして?なぜここに亮が居るの?辺りを見回すとさっきまで飛行機に乗っていたはずの私はベッドの上に居た。


「何の用なの…?その人は誰。」


「その事で話があるんだよ。」


「聞きたくないわ。帰ってよ!!」


亮が口を開けば私達の関係は終わってしまう、私にはそれが分かった。

亮の話を聞こうとしない私に痺れを切らしたように亮の隣にいる女性が話し始めた。


「亮さんは、あなたと別れて私と付き合いたいって言ってくれてるのよ!!今ここで別れてくれるでしょ?」


ああ…もうだめだ。こんな形で亮と終わるなんて…


「帰ってよ…帰って!!」


叫んだ瞬間私は開いていたはずの目をまた開いた。

辺りを見回しほっと胸をなでおろす。


夢だったのか…私はちゃんと飛行機に乗っていた。


「すみません、水をいただけますか?」


近くに居た客室乗務員に声をかけると、すぐにコップ一杯の水をくれた。


「ありがとう」


そう言うと水を一気に飲み干して窓の外を見た。

そこに広がっていたのは青く澄んだ空と海…亮との思い出の地に来ている。




私は今、亮との幸せのカケラを一人で探し出そうとしていた。

たった一人で…。




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