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Rain  作者: P.Lea
5/12

異変。


いつもと同じように鳴ろうとしていたアラームを今日は2分前に止めていた。

2分早く起きたからではない…昨日の光景が頭から離れず眠ることが出来なかったからだ。


疲れきった体は仕事に行く時間になっても動こうとはしなかった。

考えてみると、最近は休みと言う休みをとっていない。


「休暇をとろう。」


すぐに会社に電話をして休みを1週間もらった。

何をしようか…ふと頭にあの夕日が浮かぶ。


「忘れ物をとりに行かなくちゃ…ね」


そう呟いてベッドから出ると、すぐに荷作りを始めた。



別に、あのホテルから夕日を見れば亮との事がどうにかなるとは思っていなかった。

ただ…ほんの少しの間だけでも幸せだった頃を取り戻せるんじゃないか?そう思ったのだ。

そんな淡い期待を胸に準備を終えて居間に向かうとそこには由紀子さんが居た。


「その荷物…旅行にでも行くつもりなの?」


「うん。」


まさか本当に旅行に行くとは思っていなかったのか由紀子さんは驚いてこう言った。


「会社は?」


「休暇をとったの。最近休みがなくて疲れちゃって…」


そう言った顔がよほど疲れて見えたのか、由紀子さんはそれ以上何も聞かなかった。


「そう、気をつけて行ってきなさいね!」


「はい…行ってきます。」


家を出ると外は快晴だった。

駅まではタクシーで行こうと思っていたが、散歩がてら歩くことにした。

駅に着くまでの30分は思い切り太陽の光を浴びて心の光合成をしている気分だった。


「植物が光合成すると育つ理由が分かる気がするな…」


そんな独り言を言っていると駅が見えた。

時刻表を見ると次に電車が来るまでは15分…友達にメールでもしようか。

そう思い鞄の奥底にある携帯を探し出すとサブディスプレーに着信が2件あると表示されていた。


(ん…??誰からだろう?)


急いで携帯を開いてみると着信は2件とも亮からだった。

そして2回目の着信の後に留守番センターの文字が…震える手をおさえて深呼吸をした後ボタンを押す。

機械的な女性のアナウンスが妙に耳に響く…


「メッセージを1件お預かりしています。お聞きになる場合は1を押してください」


汗ばむ指で1を押してみる。

そこには聞きなれた亮の声でこんなメッセージが入れられていた、。


「話があります、メールでもいいので連絡を下さい。」


ふと頭に昨日の光景がよぎる…


「このメッセージを消去する場合は9を、保存する場合には0を押し…」


気がつくとアナウンスが終わるよりも早く0のボタンを押していた。


「ただ今のメッセージを保存しました。用件は以上です。」


電話を切ると電車が来た。


「もう15分も経っていた?」


そう呟きながら携帯を握ると電車に乗った。

座る場所を探しながら歩いていると、4人席が空いているのが見えた。

そこに腰かけて辺りを見回してみる。

平日の昼前だけあって人は少なかった。

学校に行く気があるのかないのか分からない女子高生やお年寄り、可愛い子供をつれて幸せそうに笑っている母親。

優しく淡い光が差し込んでいる電車の中は少なからず私の心を落ち着かせてくれた。


窓の外を見ながら平和だなと思い少し嬉しくなる。

亮は私に別れを告げるつもりなのだろう…そう思うと今の私はこの電車の中で一番不幸な気がして泣きたくなった。


最近はなんだか感情の浮き沈みが激しい気がする…。

それもきっと疲れているせいなんだろう、この旅行でゆっくりと体を休めれば普段の生活に戻れる…私はそう思い込んでいた。

その事が後でひどく私を後悔させる事になるとも知らずに…。




この時少しでも自分の体の異変に気付けていたら…あんなに悲しい思いをしなくてすんだのに。





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