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Rain  作者: P.Lea
2/12

雨は嫌い。



亮とケンカしてからもう2週間も経つ。

私は自分から連絡することも出来ずに悩むだけの毎日を送っていた。


この2週間で考えたが、こんなに長い間メールも電話もしなかったのは初めてだ。


(…もうだめなのかな。)


そう考えて初めて自分が亮のことをちゃんと好きなんだと気がついた。

今なら自分から謝れば間に合うかも…そう考えても、ちっぽけな私のプライドはそれを拒否した。

こんなプライド捨ててしまえば良い。

でも、こんなちっぽけなプライドでもソレを守りながら生きてきた私にはそれが出来なかった。


情けない…私はこうやって大事なものを失くし続けるんだ。

頭にふと6年前の事件が浮かぶ…



6年前、私はまだ高校生だった。

その時私はひどい反抗期で親と毎日ケンカばかりしていた…


その日も進路の事で親とケンカになり私は家を飛び出した。

自分の為に言ってくれているのだと分かってはいても決して素直にはなれなかった。

親の愛情をうっとおしいと思っていたのだ。


家を飛び出しはしたものの外はひどい雨で傘を持たずに出たことを私は後悔した。

仕方なく友達の家を目指しながら歩いていると前から見知った顔が見えた。

その人は母の古い友人で、小さい頃から私を可愛がってくれたので私もよく家に遊びに行ったりしていた。


「悠ちゃん…なの?」


「お久しぶりです。」


「傘持ってないの??とりあえず家に来なさい、傘貸すから」


そう言うと、断る私をなかば無理矢理家に招きいれた。



「はい、タオル…風邪ひくと大変だから。」


「どうも…」



名前は由紀子さん。

由紀子さんには子供がいなかった。

旦那さんも去年病気で亡くなってしまったので、この家には一人で住んでいる。

家の中はとても静かで寂しさを感じた。


「あがってちょうだい。」


そう言い残し由紀子さんは台所へ入って行った。


「あの…私帰ります。」


その言葉が聞こえなかったのか、聞こえないふりをしたのか…


「居間で待ってて」


由紀子さんはそう言った。



私は帰るわけにもいかず、しぶしぶ居間にある大きなソファーに腰かけた。

前にある戸棚の上には沢山の写真が飾られていた…旦那さんとの写真や友達との写真。

端のほうにはまだ立つ事も出来ていない私と母が抱き合っている写真があった。

立ち上がってその写真をよく見ようとした時、由紀子さんがお茶を持って入って来たので私は手を引っ込めた。


「よく撮れてるでしょう?私のお気に入りなの」


そう言った由紀子さんは幸せそうな顔をしていた。


「私と母ですよね…これ」


「そうよ、悠ちゃんはお母さんにべったりでね…可愛かったわよ」



可愛いなんて普段言われなかった私は少し照れながら言った、


「でも最近はケンカばかり」


すると由紀子さんは黙ってしまった。

少し不安になり由紀子さんの顔を見ると目があってしまい気まずい思いをした。

しばらく沈黙が続いた後、由紀子さんが席を立ち一通の手紙を持ってきた。

私は手紙を受け取り、その封筒をじっと眺めた。



「…母のですか?」


「そうよ、特別に読ませてあげる」


手紙を開くとそこには見覚えのある母の字でこう書かれていた。




由紀子へ


久しぶり。

今日はお知らせがあって手紙を書きました。

実は子供が出来たの…今日病院に行ったら3ヶ月だと言われました!

不安だけど嬉しい、生まれてきたら沢山愛情を注いで育てていく。

生まれたら会いに来てね。




手紙は1枚と少なかったが、そこには私への愛情があふれていた。

私はこんなに愛されて生まれてきたんだと思うと、今まで母に浴びせてきた言葉を思い出し深く後悔した。

泣くのを必死に我慢している私に由紀子さんはこう言った、


「私には子供がいなかったから余計分かるの…あなたがどれだけ愛されているのか。何が原因でケンカしたのかは知らないけど怒ってないと思うわよ、きっと心配してる。」



私は急に母に会いたくなったが、喧嘩して出てきた手前すんなり帰る気にはなれなかった。

由紀子さんにお礼を言った後、足は自然と友達の家に向かってしまった。

日もすっかり落ちた頃、やっと私は家に帰る決心をして友達の家を出た。

重い足取りで帰ってみると家に鍵がかかっている…しばらく家の前に居ると近所のおばさんが、


「お母さん達ならついさっきでかけたわよ?」


「どこに行ったのか分かりますか?」


「そういえば悠ちゃんを見なかったか聞かれたけど…」


そう言っておばさんは家に入ってしまった。


「まあ、もう少ししたら帰ってくるか。」



そう思っていた…。

しかし一時間経っても二時間経っても両親は帰ってこなかった。

それに30分位前から家の電話が鳴り続けている…嫌な予感が頭をよぎった。


(電話に出なきゃ…)


そう思い開いているドアを探したがどこも閉まっている。また電話が鳴り出した。


ガシャーンッッ!!

気がつくと窓を割っていた。


「もしもし…」


恐る恐る電話にでると、私は床に崩れ落ちて泣いた。

電話の向こうから聞こえる声が頭を駆け巡る…何も考えられない。



その日は酷い雨だった。

母達は車で出かけ事故にあっていたのだ。


雨で道が滑りやすくなっていた…母達は目の前でスリップしたトラックに巻き込まれ即死だった。

車には必要のないはずの傘と着替え、そしてタオルがあったと後から聞いた。

母達は帰りの遅い私を心配し探しに出て事故に巻き込まれたのだ…もしも私が意地を張らずに家に帰っていたら。

もしも私が電話を一本でも入れていたなら…

もしも自分が素直なら…

もしも…もしも私が母達の元に生まれていなかったのならば。





私はいつもこのプライドを守ろうとして、大切なものを失う。

一人ぼっちになってしまった時に支えてくれたのも亮だった…。

事故から1週間後、私は由紀子さんに引き取られる事が決まった。





私は“雨が嫌い…”


だって雨は無力な自分を映し出してしまうから……。


そして“自分が嫌い…”。


私には何の力もないから…いつだって大切なモノを守れないから。








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