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Rain  作者: P.Lea
11/12

始まりの部屋。


「まだ決まらないの?亮って優柔不断だよね…」


「たかがメニューが決まらないぐらいで言いすぎだろ」


私達の会話を聞いて隣に居るウェイトレスが笑っている。

ここは空港のカフェ…あれから4年の月日が流れていた。

私達は相変わらずケンカばかり…でもその度に絆は深まっている。


あれから2ヵ月後亮と私は結婚をした。

由紀子さんも喜んでくれたし、亮のご両親も私を温かく迎えてくれた…本当に幸せ。


もちろん傷が癒えたわけではない。

私達は毎年子供に会いに行っている…今もその途中だ。


「俺もモーニングセットで」


やっと注文をした亮に言う。


「もう4年も経つんだね…」


「ん…そうだな。お前もおばさんになる日が近いぞ」


「最低…自分だって同じでしょ!」


亮は私に気を使っているのか自分からは子供のことを話さない。

この人には本当に感謝している。

私が転ぶと必ず手を差し伸べてくれる…そんな存在。


「お待たせしました」


相変わらず美味しいモーニングセットを食べ終え、飛行機に乗り込む。


「私が窓側ね〜…」


「分かったよ。早く座れって」


4年前は一人で乗った飛行機…失ったものも大きかったが、得たものも同じだけ大きい。

最近はこんな風に思えるようになった…きっと私の人生に必要な別れだった、と。

アナウンスが流れる。


「当機はまもなく離陸します。」


もうすっかり寝てしまっている亮に寄りかかって、私も寝る事にした。



温かい光が見える…その中には一人の女の子がいた。

こちらに手を振っている、しばらくすると私とは反対方向に向かって歩き出した。

彼女には見えているだろう道の先が私には眩しすぎて見えない…気が付くと私は彼女に別れを言っていた。


「さようなら」


目が覚めると、今まで胸につかえていた何かがなくなった気がした。


「私達の長女は…なかなか幸せに暮らしてるかもね」


自然と言葉が出た。


「長女って?」


「長女は長女だよ!」


納得がいかない、という風な顔の亮を無視して私は笑った。

またアナウンスが流れる。


「まもなく当機は沖縄上空に入ります、お客様は準備の方をお願いします」


あれから4度目の沖縄の地は、4年前から何も変わっていない…。

買い物がしたいという亮を説得して、あの部屋を目指す。

ドアを開けると波の音がする…


「ただいま、久しぶり…」


返事は返ってこないがカーテンが揺れる。

亮は毎年ここを訪れる度に小さな花束を置いていた。

命日ではない…誕生日を祝うための花束。



4年間…決して楽しい事ばかりではなかった。

毎日が罪の意識との戦い。

でも不思議とここに来れば幸せな気分になれた。

見えない命が私を励まし見守り続けてくれたからなのだろう…そう信じている。


(今日は報告があるよ…まだお父さんも知らないの。一番にアナタに知らせたかった)


昨日私は病院に行ってきた。

最近体がだるく熱っぽかったので風邪だと思い込んでいたのだ。

先生が私の肩を叩いて言った。


「おめでとう」


嬉しくて涙が止まらなかった。


(アナタに弟か妹が出来たの…喜んでくれるかな?)


カーテンが揺れる…


私達はここから始まった。

失ったものは私に大事な事を教えてくれた気がする。

生きる事の辛さと喜び…今、私の中には新たな命が宿っている。

不安も大きいが愛おしい気持ちはそれ以上…アナタの分も幸せに、なんてきっと無理だからこの子に合った幸せの形を見つけてあげたいと思います。


(さて、そろそろお父さんにも教えてあげなくちゃ)


「ねえ、実は……」


外には大嫌いだったはずの雨。

でももう恐くない…私は幸せを見つけたのだから。



この雨は“終わり”の合図じゃない、“始まり”の合図だから。


来年の今頃には、もう一人の家族を連れて…

アナタに会いに来るよ。

私達の始まりの部屋に…。




 

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