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Rain  作者: P.Lea
10/12

永遠の約束。


亮の後ろ姿が頭から離れない…。

私は昨日のうちに病院を出ていた。

そして明日は家に帰る日…沖縄で過ごす最後の日は思い出の部屋で、と思っていたが先約があったらしく私は隣の部屋になってしまった。


「最後まで最悪だ…」


ふとベッドが目に写った。

悲しさが込み上げる、


(きっと私はこの罪悪感を一生背負って生きていくんだわ。)


それが私に出来る唯一の罪滅ぼし。

ベランダに出てみると気持ちいい風が吹いていた…目を閉じてみる。

自分が自分ではない感覚が心地いい。


「ふう〜…」


隣の部屋からため息が聞こえた。


(あ、隣の人もベランダに居るのね)


隣に居るのは男性らしかった、タバコの煙が風に乗って私の鼻に届く。


(亮が吸ってるのと同じ…)


いつもならタバコの匂いは私に不快な思いをさせるが、今は私を安心させてくれる気がした。


(亮と居るみたい…よくタバコの事でケンカしたな)


そんな事を思っているとまた泣きたくなった。

自分の情けなさを恨みながら深呼吸をして涙を止めようとした私は、勢いよく空気を吸いすぎてタバコの煙にむせてしまった。


「ゴホッ、ゴホ…」


隣でガタンッと音がした。


(あ…嫌味かと思われちゃったかも。男の人だし恐いな…)


しばらくすると、タバコの匂いが消えた…


「ごめんなさい、大丈夫でしたか?」


(この声…亮にそっくり?あ…亮かも?)


返事をしようか迷っていると、また声がした。


「あの…」


「はいっ!」


(ああ!返事しちゃったよ…)


私は必死に声を変えて話した、


「大丈夫でしたよ」


「そうですか…考え事をしていたので人が居るのに気付かなくて。」


(私の事かな…)


「あ…の、寒くなってきたんで部屋に入りますね」


これ以上話せなかった…胸が苦しくて倒れてしまいそう。

壁一枚隔てたその先には亮が居る。

その夜も眠れなかった。亮の部屋側の壁にもたれ掛かったまま色んな事を考えて過ごした…


(亮はいつ帰るのかな…明日じゃないと良いけど。せめて飛行機は別がいい)


朝はあっという間に来てしまった。

荷物を片付けていると隣でドアが開く音がした。

亮も今日帰るのだろう…明日は月曜日だし考えてみれば当たり前の事。

こんな自分の為にここまで来てくれた事に今更感謝してしまった。

亮の足音が遠ざかっていくのを待って部屋を出た。


(最後にもう一度…)


開け放たれている703号室に入ると少しタバコの香りがした。


「ここからスタートしなきゃ…」


「何に向かって?」


(嘘でしょ…だってさっき出ってたはずなのに)


振り返ると案の定亮が居た。

なんだか嬉しそうな顔でこちらを見ている…


「やっぱり。声で分かったよ…体調は?」


「大丈夫」


「そう…昨日は眠れたのか?」


(眠れるわけがない…隣にあなたが居たのに。いくら私でも、そこまで図太く生きてない!)


そう言いたくても口が動かなかった。

何も言わない私を見て亮が言った。


「俺は眠れなかった。」


「私は眠れた…」


嘘つき。

自分の性格にはほとほと愛想が尽きた…こんな時でさえ素直になれない。


「嘘つくなよ…壁に寄りかかってたろ、同じ事してたから分かるんだよ」


「最低…知ってたなら聞かないでよ。惨めになる」


「でも自分で決めた事だろ。俺の事捨てたくせに…よく言うよ」


「……………。」



亮の言った事に間違いなんて一つもない。

声が聞こえた気がした…


(また大事なものを手放すの?それで良いの?)


過去の自分の声。

でも子供は?私の犠牲になってしまった子供を裏切る事になる…それは絶対に出来ない。


「もう行くから…元気でね」


急いでドアを目指す。すると後ろから亮の声がした。


「もう一回言うぞ、俺と結婚しよう…幸せにする」


「言ったでしょう。子供を裏切れない…」


甘えてしまいそうになる…このまま幸せになりたい気持ちの方が強いんだから当然だ。


「俺なら子供の分も幸せになる道を選ぶ…」


「それは親のエゴよ」


「例えそうでも…俺は自分達の子供の死を無駄にしたくない」


「…無駄?」



何のこと?無駄とか幸せとか何を言ってるの?私に幸せになれって言うの?


「俺は正直…ここに来るまでお前と別れるつもりだった。」


「やっぱり…同情ならいらないって言ったでしょう?」


亮は私の言葉を無視して話し続けた。


「でも、ここに来て思い出に触れて考え直したんだよ。指輪もこっちで…同情とかじゃない。本気で幸せにしたいと思ってる。それに気付かせてくれたのは俺達の子供だよ…」


私はベッドに腰かけた。

外からは波の音が聞こえる…失ってしまった命の声を聞くことは出来ない。

でも、もしも許されるなら私だって幸せに続く道を選びたい。


「幸せになりたい…」


「約束する…幸せになろう。」


両親を失った時から抱え込んでいたものの重み…逃れられないと思って生きてきた。

幸せになる資格…私にはそれがないかもしれない。

それでも望むくらいは許されるかな。


「ねえ…アナタは許してくれる?」


海に向かって語りかけるとカーテンが大きく揺れた。

きっと偶然、だけど信じてみたかった…自分の中にいたもう一つの存在の声だと。

私は亮の方を向くと首を縦に動かした。


「本当に?」


「うん…幸せにしてね。二人分…」



心地いい波の音を聞きながら、私達は永遠の約束をした…





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