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その日はボクにとって、特別な日だった。
色とりどりの、様々な花が咲き乱れた庭園。目に飛び込んでくる光景があまりに鮮麗で、こうして歩いていると、時々ここがどこかを忘れそうになる。
徐々に歩調を緩めていき……立ち止まり、見下ろす。
そこには地面に埋め込まれた、正方形のプレート型の石がある。
『藤咲家』――そう刻まれた墓石がある。
お墓というものを初めて見たのは、今からおよそ二十年前。ボクは四歳ぐらいだったと思う。
大きな四角柱の、真っ黒な御影石。そこにはお母さんの両親が――ボクから見て、母方の祖父母が眠っているのだと教えられた。
それが、お墓なのだと刷り込まれた。
だから正直、いまだに慣れない。ここが樹木葬と呼ばれる新しいタイプの墓地で。目の前にある、淡いピンク色をした桜御影石のプレートが、墓石なのだということに。
でも、ここには確かに眠っているんだ。
ボクの、家族が……。
十年前、中学生の頃。……今日と、同じ日付。
ボクが部活動に励んでいる間、両親と妹は三人で買い物に出かけた。誕生日を迎えたボクへ、ケーキを買ってくれるために。
みんなが事故に遭ったのは、その時。
「また、くるね。お父さん、お母さん……瑠奈」
今日は、父と、母と、妹の命日。
そして……ボクの、誕生日。




