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“自称”勇者と道連れの旅  作者: 針狸


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3.クラリス1

 意識がぼんやりする。

 寝て良いタイミングじゃなかったはずだ。

 それでもまだ意識は浮上しない。


「……きろ!」


 うるさい。起きようとはしている。


「起きろ! エセ勇者!」


 言葉とともに背中に衝撃が走った。随分な痛みと身体が氷つく感触がした。




「……っ!」




 意識がハッキリしたけれどかなりのダメージじゃないだろうか。


「緊急事態だ! 敵の睡眠攻撃になんぞかかってんじゃねぇ!」

「スナッチは」

「リリムの後ろ! 毒でぶっ倒れてるよ!」


 非常にまずい。

 状態異常に関しては今までなんとかなっていたからまったく考えていなかった。こちらの編成は前衛二人と後衛二人。後衛の二人は魔法が使えるものの、主に回復魔法ばかりの男と攻撃魔法しか使えない女に限られている。つくづくバランスが悪い。恐らく今のはクラリスが氷結魔法で私の身体を無理やり起こしたのだろう。ダメージ無視で!

 ひとまず、睡眠のほうから倒してしまおう。蛇のようなモンスターを見据えてもう一度構える。




「……まずそう」

「黙って戦え!」




 蛇肉は好きだけど毒やらなんやらがあるようなものの調理方法は知らない。というか、私たちには今のところ焼くかスープにする以外の知識はなく、それらも大概不味い。いい加減イライラしてきたところだ。

 吐き出される液体を避けて頭を狙う。さっきも避けたつもりだったが、どうやら飛散するから少し吸い込んだらしい。すぐに眠くなる意識を自分の剣の刃を握ることで、無理やり覚醒させる。敵の頭の上から剣を突き立てると、身体を痙攣させたあと大人しくなった。

 すぐに振り向いて、もう一体を見据える。クラリスが自衛用に持っていたメイスを活用して近接で応戦し、リリムが矢でなんとか距離を保っている。クラリスに集中する毒蛇を、走り抜け様に首を刎ねた。


「……っ」


 首を飛ばすんじゃなかった。切った場所が悪く、毒が噴出して腕と外套にかかる。乱れた息を整えて仲間の様子を見る。


「クラリス」

「毒は喰らってない、……こけた擦り傷だけだ」

「リリム」


 黙って首を横に振る。問題ないんだろう。回復魔法も使えないくせに心配そうにスナッチの傍に座り込んでいる。スナッチ……は意識がない。毒が回っている。死んではいないようだ。


「クラリス、解毒ってできる?」

「僕にはまだ無理だ。薬草さえあればリリムが作れるんじゃないか」


 リリムは回復魔法が使えない代わりに、エルフの常識なのか薬を作ることができる。ただ薬草を食んだり擦り込んだりするよりはとても効く。


「わかった」


 言って、スナッチを足蹴にする。唸るだけで起きることができないようだ。ぜぇぜぇと喉を鳴らしている。そういう自分も、かなり辛い。奴隷の手前、スナッチと揃って倒れるわけにはいかない。意識だけは切らさないようたまに蹴る。


「リリム、足りる?」


 持っている薬草を全部出して確認してもらう。首を横に振った。準備の悪さを呪うよりは行動だ。


「何が足りない?」


 あれとこれとと言われても理解ができない。……探す、よりは次の街へ行って買ったほうが速いか。そもそも荷物の少なかった二人に財布以外の荷物を持たせ、スナッチの身体を背負い込む。さすが筋肉と鎧。重い。汗と血で身体がぬるぬるする。土の匂いが吐き気を誘う。


 正直ここからの記憶はあまり無い。


 リリムとクラリスが黙ってついてくることを逐一確認して、ただ前に進んだ。二人で王都に向かうときはこんな苦労はなかった。二人ならば逃げればよかった。それでは自分達が目指す姿にはなれない。金で買った仲間に絆は無く、それでもきっと必要なことだと、信じる気持ちだけが灯火だ。

 もう街すら暗い時間帯、辿りついた宿に頼み込み解毒に使える薬草を譲ってもらい、数も少ないのでリリムに調合を任せて少し待った。その間にクラリスが何か話しかけていたように思うけれど思い出せない。リリムにスナッチの看病をさせ、スナッチが目を開けたところで、自分の意識を放した。











 わからない。

 僕にはただ、無謀だとしか思えない。


「どうしたクラリス。明日も恐らくこの街に滞在するとは思うが、買い物には付き合ってもらうからな」


 寝とけよ、と奴隷におかしな声をかけてくる。勇者に恨みがある、と言った二人を眺める。最初に僕が利用しようとしたエルフの女、リリムには同情すら覚えるほどにこの旅は無謀だ。僕たちの監視のために4人部屋にしたようだけれどこの頭の狂った女、ルートリアはこの男、スナッチを随分信頼している。それとも既に恋仲なのか?


「……お前も寝たらどうだ。毒が抜けたとはいえ、疲れただろ」

「おー、優しいな!」

「煩いわ。僕は不憫なヤツが嫌いなんだ」


 ドワーフは伝統を重んじるが、基本的には快楽主義だ。義に厚く、しかし楽しいことは思いっきり楽しむ。仲間のためなら努力するが基本的には衣食住、つまり生きること以外に苦労するつもりはない。人間もエルフも理解ができない。なぜ誰かのためではなく、自分のために自分を苦しめるのだろうか。使命や義務などという本来必要ないはずの言葉を利用して……。


「まあ、しばらくはお前らに何かを任せたりしねえよ。安心しろ」


 イラっとする。この二人は奴隷慣れしていないのだろう。僕たちを人間のように扱うくせに、絶対に歯向かうと信じて行動するのだ。他人を連れている、そういうポーズをとる。


「……あいつが睡眠の魔物と戦っていた間に、お前とリリムを守ったのは僕だぞ」


 だからなんだというのだ。僕は何を訴えようとしているんだ。疲れているだろうに、僕の言葉を聞いて嬉しそうに笑う人間。こいつも、頭がおかしい。


「ははは! そうか、ありがとうな!」


 ちげーよ!

 礼なんかいらない。僕はただイライラしている。


「どうしてそこまでして……」

「うん?」

「なんでもない」


 昼間、街まであと少しというところで睡眠の魔物と毒の魔物に襲われた。

 王都を出てからも何度か魔物には襲われたが、状態異常のかかる曲者は初めてで、随分苦戦させられた。ふいうちの毒で倒れたスナッチ。危うく眠りかけたルートリアを最小限のダメージで済むよう苦手な氷魔法で覚醒させ、それでもガタガタだった。僕たち後衛が情けないというところもあるが、刃を握って眠気を払うルートリアを見て、まるで僕が傷ついたみたいに心が痛んだ。


 人間も、エルフも、嫌いだ。


 僕も自分の意志で自分の国を出た。運悪く身を寄せていた旅団が盗賊に襲われ、子どもと間違われて売られた

僕だが、それでもいいと思っていた。ドワーフの命は人間より長い。いつか目的地に辿りつければ、それでいいのだと。人間に虐げられる時間なんて限られている。だから警戒する二人にも、怯えるリリムにも悪いが、僕に逃げ出す意志はないのだ。

 しかし金で僕らを買った彼等にそれを伝えてやる義理はない。


「……目的地に、聖都はあるのか?」

「あー、あるだろ。勇者は必ず寄る場所だな」

「そうか」


 それなら、一人旅よりは良いだろうか。生きてさえいれば、確実にたどり着けるなら、地獄のような旅でもいいと。まだ信頼はできていないが、覚悟だけなら本物なのかもしれない。


「僕もそこに用がある」

「用があるのに捕まってたのか?」

「……人間が悪い」

「はっははは! 違いない!」


 うまく伝わらない。

 僕にも用事がある。だから戦力ととってもらって構わない。彼等が死んだら真っ先に逃げるが、生きる意志が、方法があるなら、使ってもらっていい。神は寛容だ。特に僕たちドワーフが信仰する神は、全てを赦す。だから彼等がどんな方法で生きようと僕を裁くことができるのは人間だけで、汚い人間どもに裁かれたところで僕は痛くも痒くもない。


 だから、あんな戦い方も、歩き方もやめさせてくれ。


 真っ青になりながら死人のような顔で仲間を引き摺って歩くのは。防具を持ってやるだけなら僕だってできる。倒れたスナッチと僕を残して二人で薬草を探したり買ってきてくれても良かったんだ。


「幼い頃に生き別れた妹がそこに居る」

「へぇ、それは……会いたいよなあ」


 目線を逸らされる。

 聖都フォートレスは遠い。また、地中にあるからか外界との関わりが断たれている。馬車や船を乗り継ぎ、近くの町から徒歩で移動するしかない。こいつらに付き合えば最初から徒歩になるだけだ。


「そういうことならさ、強くなるからもうしばらくは俺たちに付き合ってくれよ」

「君たち次第だね」

「ははは! 本当に生意気な奴隷だ!」


 豪快に笑う男。年下の癖に。人間は、勝手で我侭で、本当に嫌いだ。


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