第五話「バスだ!電車だ!公共交通機関だ!自転車で行く約100キロの旅!in三峯神社」
お前が日和って電車に乗ったせいでサブタイトルえらいことになってんじゃねぇか。
さて、三峯神社行きのバスは僕らを乗せてグイグイ登っていく。登りっぱなしだ。まったく下らない。
川の底の石がおよそ五十メートルくらい離れた崖の上からでも鮮明に見えるくらいの透明な清流が崖下を流れている。
山を登るようになってから珍しくもなくなった光景だが、それに心を奪われることもなくなったかと聞かれれば決してそうではない。誰だってその景色には目を奪われるものだろう。車窓からふいに目を離すと隣のイチャコラ勃発寸前カップルたちが眠ってしまっていた。そのまま永遠に眠っていろ。
バスが140号線の交差点を曲がると、秩父湖を横目にしながら三峯神社までの最終道路に入った。
このダムの間を通る道路の信号は、ダムの上が一車線と狭いうえに長いので、無駄に長い時間止まらされる片側交互通行みたいな感じだ。
秩父湖も見えたのだがあまり水は見えなかった。涸れてる?ってくらいに見えなかった。秩父湖で車を止めれば見えるのかもしれない。
また、僕の乗る西武観光バス三峯神社行きはここ、秩父湖から三峯神社の間、口頭で止めてくださいと言えばバス停でなくても止まってくれるし、反対にバス停にいなくとも道で手を上げれば停まってくれるらしい。
たぶんそうする理由があるのだろう。例えばこの辺りに登山口があるとか。気になって探したが、何にもなかった。この制度を利用したことのある方は、どういった理由で使用したのか教えて欲しい。
秩父湖の信号を越えると、ただでさえ狭かった道がさらに狭くなる。狭い道といえば僕の中では日原街道が思い浮かぶ。
一車線の道路が連続し、急カーブは当たり前、普通の生活をしていれば到底お目にかからない警笛鳴らせの標識もあるドキドキロードである。
それに比べたらこの道路は基本的に二車線だし、見通しも良い。日原街道と比べてキツイところといえば三峯神社までの道のりが倍近くあることくらいか。自家用車なら余程の若葉ドライバーでなければ大したことはない。
しかし、今乗っているのはバスだ。二車線と言えど、前から車がくるたびに急停車に近いブレーキがかかる。つまりはバスの車体では車線からはみ出してしまうのだ。
山道のヘアピンカーブでは大きな車体がぐおんぐおん曲がる。たまに、まっすぐな道を走っているのにもかかわらず、完全に車線から車体がはみ出すほどの狭小っぷりときた。
そんな道の運転を毎日この車体でこなすのだからバスの運転手はすごい。三峯神社の駐車場に降りて駐車場の喫煙所でタバコを吸っていた運転手さんに拍手さえ送りたくなった。
三峯神社の駐車場はこれまでの昭和じみた道程からは考えられないほど、綺麗で近代的だ。和風テイストを残しつつ完全新調した観光都市に似ている。
昨今の大人気っぷりによほど金が入ったと見られる。トイレも、階段を登った先のビジターセンターもものすごい綺麗。
うっわぁぁっ!クマ!クマだ!
ということで、ここビジターセンターは周辺山域、つまりは秩父多摩甲斐国立公園の動植物についての展示がされている。若い人にはつまらない展示だろうが、山に登るようになった僕にとっては全てが興味関心を引くものだ。
ちなみにここ、三峯神社は雲取山への登山道入り口にもなっている。やろうと思えば三峯神社〜雲取山〜甲武信ヶ岳〜瑞牆山と埼玉県から東京を経て山梨までの縦走、いわゆる奥秩父主脈縦走も可能だ。平均4泊5日の長距離縦走だがまさに秩父多摩甲斐を全部楽しめるコースなのでいつかやってみたい。
このあたりの話をするとなん山となんら変わりないのでやめておこう。あくまでこのコドクトリップはなん山との差別化を図るためにやっている。高山君たちが御朱印巡りするのもありだったかもしれないが、それではなにがなにやらだ。
ゆえに右手に続く登山道には行きません。登山の格好してないしね。装備整えないで山に行くとか絶対にありえないから。
左手に進んでいくとお土産兼食堂が見える。その先が三峯神社の鳥居だ。
この三つ並んだ鳥居は三ツ鳥居と言って、全国的に見ても大変珍しく日本に7つしかない。何故三つ並んでるの?どういう意味があるの?Google先生に聞くと返ってきた答えは「さぁ……?」だった。じゃあしょうがないね。
鳥居の前で深々と一礼。ずっと来たかった神社だ。お邪魔します。ちなみに三ツ鳥居には正式なくぐり方がある。
中央→左→中央→右→中央→左→中央。
この隠しコマンドを使うと、プレイヤーのluckが3倍になるらしい。僕は普通に中央のみで入ってきました。今調べたんだもん。
僕の他にもぞろぞろと参拝客はいたのだが、誰も隠しコマンドを使っていなかった。読者の皆さんは三峯神社に参拝した際は是非とも隠しコマンドを使ってluckを上げて欲しい。3倍のステバフはデカイぞ。
鳥居の脇には神社の眷属でもある狛犬ならぬお犬様がいる。要は狼だ。シュッとした外見がかっくいい。
さて、三峯神社の概要について説明する。
三峯神社の神様はイザナギノミコトとイザナミノミコト。高天ヶ原からこの国を作り上げた神様で、そんな二人の神を祀るためにこの神社を建てたのがヤマトタケルノミコト。
ビッグネームしかないのかここは。
また三峯の名前の由来については、雲取山、妙法ヶ岳、白岩山の峰の並びを見たヤマタケのお父さんが「えぇ……なんや……むっちゃええ感じやん」と感銘を受けて、この神社の名前にしたそうな。
ちなみにヤマタケのお父さんは景行天皇である。言っていいことと悪いことがある。
そんな三峯神社の境内に入ると、さすがに空気の違いを感じる。真面目に鳥肌がたった。寒かったわけじゃないぞ。半袖でも過ごしやすい気温だったのは確かだ。
そこらじゅうで屹立するスギの木。並ぶ石碑にはこの神社に苗木やお金を寄付した方々の名前が刻まれている。
それらは高尾山の薬王院でも見た風景だが、なんというか、こう、神域って感じ……?
こういうのは言葉にすべきではない。感じたこと全て言葉にしてしまうのは虚しいことだ(開き直り)。
天気のせいもあって、杉林は霧に包まれていた。なんて幻想的。さすがにあの中には入って行きたくないな。
ちなみに僕の短編ホラーに「朝霧山遭難事故調査報告書」という登山×ホラー小説がある。登山道に突然現れた鳥居の向こうで濃霧に包まれた登山者たちが次々と怪現象に襲われていく話だ(露骨な宣伝)。
そんな話を書いた経験からか、山の中で濃霧に包まれる経験はしたくないなと思っている。いずれそんなこともありうるだろうが、たぶんずっと先の話だ。
参拝順路と書かれた看板からさらに歩いていくと、写真でもよく見る隋神門がある。
隋神門とは邪鬼から本殿を守る砦のようなもので、こちらは形は違えど各地の神社でも見られるだろう。しかしこの煌びやかさと圧は何だろうか。
邪な気持ちを持てばマジで跳ね返される気がする。力強さとかいう言葉に収まりきらないほどの圧だ。
脇で睨みつけるお犬様の形相も激しい。
幸運にも邪な気持ちを持っていなかった僕は難なく通れた。清純派を自称するのだから当たり前である。
さて、本殿へと足を進めていく。本殿へと続く階段で佇むお犬様は……犬ですねこれ。犬だ。どっからどう見ても犬だ。賢そう。
本殿脇の手水舎。写真に入りきらなかった。ここまで豪華な必要あるんですかね。頭上からの圧に腰を曲げながらおててを洗った。
本殿はその上をいく豪華絢爛っぷり。ただやはり圧を感じる。圧倒されすぎて写真が曲がった。神の威光のせいだ。僕のせいじゃない。
二礼二拍一礼。
ようやくここまで参拝にくることができました。
当初予定していた自転車での参拝は見事に日和って断念しましたが、それでもここまで長かったです。
歩道を覆う伸びきった雑草。天気予報見てれば予測できたはずの雨。東松山ICを過ぎたあたりの歩道に漂う異常なドブ臭。嵐山〜小川町間の長い上り坂。諭吉。誰もいない駅のホームでの停滞。諭吉。湯葉の天ぷら。諭吉。バスの待ち時間。みなのちゃんスマイル。漬物石のようなもの。イチャコラ海外バカップル。
予想よりも道のりは険しく、まさに修行のようでもありました。
これからも僕は旅を続けます。どうか見守っていてください。そしてどうか、ネタになるような発見をください。
三峯神社の益々のご繁栄をお祈り申し上げます。
さて、今回の目玉でもある御朱印帳を貰いに行こう。
御朱印帳の相場は大体1500円である。しかし、ここ三峯神社にはその二倍である3000円の御朱印帳がある。
それがこれだ。
うわぁぁかっくいい。素材はある人曰く樹脂で出来ていて裏面には狼が刻まれている。
かっくいい御朱印帳の例として龍虎や武将の兜などのデザインもあるのだが、これはもう別格のかっこよさだ。かっこいいというオシャレな枠に囚われていない。三峯神社の有り難みというか荘厳な雰囲気がこのデザインに詰め込まれている。
これが良かった。これじゃなきゃ御朱印巡りやりたくなかった。ここから僕の御朱印巡りが始まる。
ついでに御朱印も書いてもらった。
「こちら最初の二ページは空けてあります。こちらのスペースには三重県の伊勢神宮でもらってきてください」
デデン。
『クエストを開始しました:伊勢参り』
・伊勢神宮に行き、内宮と外宮で御朱印を頂く。
他の神社は知らないが、三峯神社で御朱印帳を頂くと自動的に伊勢参りのクエストが発生する。もちろん伊勢神宮は参拝したことがないのでファストトラベルも使えない。今年の冬にでも行ってみよう。
おみくじも引く。参拝に極めて前向きな証拠だ。
うん。まぁ、いいんじゃないの。
見晴らしの良い所に行くと感性が磨かれるそうだ。んでもって事故に注意。山だ。完璧山のこと言ってる。
続いて遥拝殿へと足を運ぶ。
平たく言えば展望台だ。嘘です。本当は妙法ヶ岳山頂にある奥宮がここから見えます。天気が悪いのであまり良く見えない。
やはり奥宮はマストスポットだ。ここから奥宮はそう遠くないだろう。ここから見るより現地でパワーをダイレクトに貰った方がいい。今思えば実に浅はかな考えだった。
時刻は一時半を回っていた。とりあえず一時間後のバスに間に合えばいいやと思い、奥宮へと足を進める。
奥宮へは先ほどの雲取山登山道から入っていく。しばらく歩くと分岐路があり、雲取山方面と奥宮のある妙法ヶ岳方面に分かれる。そこから先は舗装された道が終わって、僕によく知る山道になる。
奥宮はそんな遠くないはず……だよなぁ?
周囲を見回しながら根っこ道を進んでいくもなかなかそれらしい場所に行き当たらず、どこまでも山道が続く。
一応、僕は今日神社の参拝に来ただけなんですけどねぇ。そこそこの登りを息を切らしながら歩く僕は呟いた。
「……何で山なんか登ってんですかね」




