「戦慄!恐怖の裏秩父探訪!in九十九神社」
140号線を走っていくと、三峯神社の旅でも述べた清流が道路の下に流れている。前回訪れた時、この川は土砂やらなんやらを含み、二瀬ダムの放流もあってかとことんまで濁り、激流となっていた。あれから何週間か経って訪れると、まだ元どおりの清流ではないにしろ、いくらか綺麗になっていた。
この川の名前を大血川という。
前々から気になっていたのだ。「どうしてこんなおどろおどろしい名前が付いているのか?」と。調べてみた。
平将門をご存知だろうか。誰しも名前くらいなら聞いたことある。僕もそれくらい。日本史好きじゃない。
朝廷を敵に回し、討死した後も菅原道真、崇徳天皇とともに日本三大怨霊に数えられ、全国各地に彼のいわくが残る史跡がある。
一番有名なのが打ち首にした首が空を飛んで京都から東京都に飛んできたという逸話もある高層ビル街の首塚であるが、ここ秩父の大血川にも平将門のいわくが残っている。
平将門が討死したという知らせを秩父にまで逃げてきた平将門の妻と侍女九十九人が受け、全員が自害を図り、この川には大量の血が流れ続けた。諸説あるがこれが大血川の由来とされている。
国道140号線、2019年11月現在も片側交互通行のトンネルを抜けたすぐ先に分岐路があり、まっすぐすすむと道の傍にある道標が見える。
九十九神社である。
九十九神社は言わずもがな、大血川で自ら命を絶った九十九人の侍女を祀っている小さな神社だ。
道路脇の参道を少し進むと道路の裏手にひっそりと神社は佇んでいる。
一つ言っておきたいのは、ここ九十九神社は凄惨ないわくを残しながらも心霊スポットではないということだ。調べてみたが出てきていない。
ここは鎮魂のために建てられた神社故に、心霊スポットとして名前を知られたくないし、僕としても「誰かに見られているような気配がした」とか半ば統合失調症気味に誇張表現するつもりはない。あくまでこういういわくがある程度に留めてもらえるとありがたい。
場所としては本当に静かな場所だ。心霊どうこうより熊の影が怖かった。
賽銭箱もない、至ってシンプルな神社。それでいて境内は草刈りも行われているようで、奥まった神社にしては随分と綺麗だった。この付近に住んでいるであろう氏子さんの想いを噛み締める。
ここはこうでいいのだ。
九十九神社までの道をまっすぐ行くと、平将門の妻と九十九人の侍女が隠れ住んでいた大陽寺がある。
しかしこちらは参拝客のマナーが悪く、また首里城が炎上した件を受けて一般の拝観を受け付けていなかった。
首里城炎上って……つい最近のことやないの。ニアミスもいいところだ。
ここまで来ると三峯神社まで後少しなので足を伸ばしたくもなる。ということでさらに車を進めていく。
このコドクトリップ、やたら三峯神社の記事ありますねぇ。贔屓してんじゃないの?してます(即答)。
普段は平日に赴くことが多いのだが、今日は休日ということもあり、140号線は絶えず車が走っていた。
平日はだいたいトラックが多く、この先にある鉱山やら採掘場へ向かうトラックが道いっぱいに走っているのだが、今回は普通車ばかりだ。
パジェロミニで山道運転してるのに、後ろから普通車にめっちゃ煽られた。これだから休日は嫌なのだ。山道で速度を出すな。そのまま崖から転落してしまえ。そんな思いとともに路肩に寄せた。凄い勢いで走って行った。捕まれ。
時刻は10時過ぎ、三峰山山頂の市営駐車場は早くも満車になりかけていたところをどうにか滑り込む。
三峯神社自転車の旅で二瀬ダム〜三峯神社間をバス停のないところで下ろしてもらえる理由が今日わかった。こうして満車になると駐車場まで山道での長い行列が続く。そこで駐車場までバスで行くのを諦めた観光客が歩いて三峯神社まで向かうのだ。
なんだ、そういうことか。
おそらく白い気守りで長蛇の列が続いた時に出来た対応だろう。現在も気守りの配布はないが、休日と紅葉の見頃ということもあって帰りに渋滞の中を山道を歩いて神社まで向かう観光客を目にした。
そう、目当てではなかったが紅葉のピークだったのだ。
自転車の旅から月2回ペースで三峯神社に参拝していた。
その度に「まだ色付き浅いな」「もう少しだな」と思っていたら今日がまさにピーク。
車を降りた先に色とりどりの絶景が広がっている。鳥居まで紅や黄色を撮りまくりつつ、三峯神社へ。すでに満車になった駐車場、境内は人で溢れかえる。
本殿にお参りするのに並ぶんですね。初詣かなんかですか。
お参りしたあとはパシャリまたパシャリと撮影。
見てくださいよこれ。凄まじくないですか?
あ、言うまでもないですが三峯神社は心霊スポットとは無縁です。趣味で来ただけです。この旅に趣旨なんてものはなかった。いいね?
それでもひとつだけ、こんな体験談があるんですよ。
ちょっとゲストの方に話してもらいましょうか。それでは怖い話で有名なIさんです。
「……これは、とある方のお母様が体験した話なんですけどねぇ。ご存じの方も多いでしょうが秩父の山奥に、三峯神社って神社があるんですよ。私もですね、実はこの神社の麓にある二瀬ダムってダムにね、昔、恐怖の現場ってビデオのロケで訪れてるんですけどね、まぁこの話は後々にでもね」
「んで、この三峯神社にそのお母さんと、彼女の友達と、それから娘さんとで行ったわけだ。季節は冬でもって、そりゃあ山奥だもんで寒いわけだ。路面なんか凍結しちゃってるんですけど、彼女『急ブレーキ、急ハンドルしなきゃ大丈夫』ってスタッドレスタイヤじゃなくてノーマルタイヤで行った」
「ダムの上を通って三峯神社に向かうわけなんだけど、まーっすぐ行くと一つだけトンネルがあるんだ。すれ違いできないトンネルだもんで、対向車来てないか確認しながらゆーっくり走っていく。するとね、トンネルの中に何かいるんですよ」
「それがね、人の形してるって言うんです。服は来てなくって、ぼんやりと灰色に光ってる。それがね、体育座りした状態でこちらを見てるって言うんですよ」
「お母さん、霊感は昔からあったもんでですね。『あー……なんかまた嫌なの見ちゃったな』くらいしか思ってなかったんです。で、三峯神社ってそこからねぇ、結構登ってくんですよこれが。まぁ、なんせ頂上にありますからねぇ」
「運転してる時間長いもんで同乗してた友達と娘さんも寝ちゃってたわけだ。そんなわけでお母さんもねぇ、どことなくぼんやり運転してる」
「凍結した山道なんですけど、大したことないって感じですからねぇ。エンジンヴーーーーーッって言わせながら走ってくんですよ。ヴーーーーーッ、ヴーーーーーッってねぇ」
「で、崖に面したコーナーがあるわけだ。崖って言っても二車線ですからどこにでもある山道ですよ。ところがコーナーに差し掛かったところで後ろから何かにグンッっとねぇ、車を押されたんです」
「スリップしただとかそういうわけじゃない。何か物凄く力の強いものが車を押したっていうんです。凍結してるもんですからブレーキ踏んだり、急ハンドルしたくなるもんですけどねぇ。『ここでそれしたら真っ逆さまだ』と思ってですね、アクセルから足離してゆーっくりハンドル切ったわけだ」
「それで難を逃れたってことなんですけどねぇ。確実にあのトンネルで見たやつの仕業だと思ったそうですよ。えぇ……私もあまり怖い話だとは思わないんですけどね、でもこれ実際に起こってしまったことなんです」
「三峰山は神域と言われています。数多くの方がそこで不思議な体験もされていると聞きます。そうした場所だからこそ、こういう事もあるんじゃないかって……私、思うんですねぇ」
「不思議な事もあるもんですねぇ……」
そんなこんなで三峯神社を後にする。
もう紅葉も見たし、朝が随分と早かったしで帰ってもよかったのだが、なんとなく物足りない気がした。
前々から気になっている事、パート2。二瀬ダム分岐の先。
三峯神社に向かう交差点では栃本という場所に繋がっている道が伸びている。どうやらその先の栃本広場というところでは夜景がよく見えるらしい。
夜景でなくともさらに紅葉が楽しめそうなので行ってみることにした。
戦慄はここから始まる。
その前に一言。
栃本広場、行ってないです。
分岐をまっすぐ進んだ先、早くも1車線の道路となる。大した距離でもないし、ギリギリにはなるが二台通れるので「道狭くなるなぁ」と思いながら進んでいく。
すると集落に出る。……マジか。
三峯神社付近はすでに山奥だ。その手前でさえ山奥の集落と言えよう。現に僕は二瀬ダムの手前の交差点、雁坂峠と栃本への分岐までの集落が最後の集落だと思っていたからだ。
しかし突然現れた集落。それも一軒や二軒、廃屋に近い家が並んでいるというわけでもなく、きちんとした家々が山沿いに並んでいるのだ。
道には老齢の方が軽トラに乗り込む姿や、宅急便の軽トラが走って荷物を運んでいる姿まで見た。
こんなところ、人住むのか……。日原地区も似たような感じだったが、奥多摩町からさほど離れているわけでもなかった。
そしてこの集落に入った途端、道が車に対して優しくなくなる。
急勾配、そして何より道幅の狭さ。絶対に車二台通れない。
何より山道には必ず狭い間隔である待避所というものが少ない。三峯神社に行く道さえ、要所要所で待避所はあって楽な運転ができるというものだが、ここは本当に優しくなかった。
仮に前方から車がやってきた際は、急勾配の中、かなり長い距離をバックして進んでいかなければならないのだ。
必然、青ざめる。冷たい血が通う。
「帰ろう。帰ろう。もう絶対やばいよここ」
一人で呟く。Uターン出来そうな場所を探す。あまりない。気づけば通り過ぎる。
未だに湧き上がっているのだ。栃本広場に行きたいという気持ちが。
140号線を逸れて栃本広場が急勾配の先にあると看板に書いてあったので向かう。ここですでに後戻りしたくてたまらなかった。
そして現れた林道。ここで断念した。ただでさえ狭い道が、さらに狭くなっていた。
林道を走る方は僕のことをなんとでも言ってくれ。
「林道だろ?狭いのは当たり前だよ。ビビりすぎだっつの。免許返納してくれ」
といった具合に。
でも怖かった。対向車怖かったんだよ。
でも必ず行くから。次は絶対行くから。計画立てたから。間違いなく行くから。
二瀬ダムの公共トイレの駐車場で一息つく。
あぁ、そうだ。あれ見えますか?橋なんですけどね。
大洞川吊り橋って言うんです。三峯神社側から行くんですけどね。
あそこなんですよ。稲川淳二が幽霊と話したって場所。めんどくさかったから寄ってないです。いつか寄ります。計画立てました。
なので裏秩父シリーズ、もう少し続きます。今月末に秘密兵器買う予定なので、次こそは充実したものになると思うんです。
ではこの辺で。




