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 あれはつい先日の放課後のことだった。

「ねぇ、サンタ、ちょっといい?」

 遥が僕を呼び出した。

 それを哲司は離れた場所から横目で見ていた。

 でも知らないフリをして、僕たちの邪魔はしなかった。

 僕は、遥から声をかけられ、ドキドキとしていた。

「な、なんだよ、急に」

「あのさ、これ、もしかして、サンタがやったの?」

 遥が差出した手のひらには、あのサンタクロースの消しゴムが乗っていた。

 僕は急に動悸がし、挙動不審になってしまった。

 そんな態度を遥は見逃すはずがなかった。

「ほんとにサンタだったの?」

 僕のおかしな態度に遥が目を見開いた。


 そうあれは、週末の事だった。

 ふらふらと住宅街を歩いていると偶然に、『西野川』の表札が掛かった家を見つけた。

 ──いや、違う。

 僕は始めっから遥がどこに住んでるのか知りたくて、それらしきところを探索していた。

 噂で聞いた、西野川の家──庭に池がある大きな日本家屋。

 それは見つけるのにそんなに難しくなかった。

 誰が見てもこの近所で一番金持ちそうな家。

 見つけた時は、なんだか圧倒されて、住んでる世界が違うと思った。

 僕は本当に遥がここに住んでいるのか知りたくて、カーゴパンツのポケットの中に手を突っ込み、そこに入っていたものを握りしめた。

 それはサンタクロースの消しゴムだった。

 僕はそれを願いが叶うおまじないとして時々使っていた。

 というのも、消しゴムの機能を全く果たさないそれは、何に使えるか考えた結果、そんなアイデアしか浮かばなかった。

 そこで試しに一度それに願をかけ持ち歩いていたら、本当に願いが叶ったことがあった。

 それから縁起を担ぐようにラッキーアイテムに変身したということだった。

 そうして願いが叶ったときは、その消しゴムを空高く投げて喜ぶ。

 そうやって沢山ある消しゴムを消化しようとしていた。

 この日も遥に会えたらいいなくらいに願っていた。

 その時、目の前を猫が横切り、勢いつけて塀をよじ登り、西野川の庭の木に飛び移ったから、この猫は見つかったら西野川に虐待されるのではないかと恐れた。

 ホースで水をかけるならまだしも、弓矢なんか飛んでくるかもしれない。

 また猫が庭に来なくなるように毒の入った餌なんかばら撒く可能性だってある。

 平気で猫を蹴る西野川だから、何をするかたまったもんじゃない。

 過去のあの衝撃なトラウマから、猫を助けたいがゆえに、僕はとっさに消しゴムを猫に投げてしまった。

 その意図は伝わり、見事猫にヒットして、猫はまた塀の縁にジャンプしてそのまま真っ直ぐ走っては、道路側に降りていった。

「ごめんよ。これもきみのためなんだよ」

 申し訳ない気持ちで言い訳するも、上手くいったのでほっとし、消しゴム程度なら庭に落ちてても問題ないだろうと高をくくっていた。

 でも、その消しゴムが、今、遥の手のひらに乗って僕の前に差出されている。

 どうしてバレたんだろう。

 なんとかごまかしたい。

「えっ、なんでそれが僕な訳?」

 乾いた笑いを添えてとぼけてみた。

「だって、テツがサンタにきいてみろって」

「えっ、すでにテツに見せたの?」

「うん。これが庭に落ちてたのが不思議だったから、何気に見せたんだ。そしたらテツ、びっくりしてさ、サンタかもしれないって言った。一体これ、どういうこと?」

 あどけない瞳を向けられ、僕は焦った。

「あっ、その、ね、猫が」

「えっ、猫?」

 僕は遥の家を探していたことだけは伏せて、事の顛末てんまつを正直に話した。

 猫の話で、遥は気まずくなり、その後は何も聞いてこなかった。

 僕はそれでこの件は終わったと思っていた。

 それでその後に、石が池に投げられる事件が再発生したという事だった。


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