表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムなめんなっ  作者: 月乃 綾
本編Ⅰ:森の蟷螂
5/36

2話

==========


名前:ノエル《従属:ユリ》

種族:スライム

所持スキル:《通常スキル》【魔力変換:生命】【変換効率上昇Ⅱ】【身体強化】

      《種族固有スキル》【物理攻撃90%カット】【流動】【固定】【酸攻撃】【消化】【吸収】【貯蔵】

      《エクストラスキル》【魔力量増加:特大】【魔力自然回復強化:特大】


==========


 スキルに【身体強化】が増えた。

 あと、単純に能力が強化されてる気がする。


 これはつまり、あれか!?

 ラーニングというやつか!?

 最強の前触れか!


 ヒャッフゥー!!




 さて、今わたしはご主人様になったユリちゃんの腕の中でぽよぽよしている。

 ユリはハーフエルフらしく、短い尖り耳を金髪ショートの中に隠していた。

 なんでもこの世界、亜人への差別が結構あるらしい。とくにハーフはどちらともつかぬ半端者として嫌われる。例えばハーフエルフで言えば、身体能力は人間以下で、エルフの代名詞とも言える魔術は一般人よりも多少得意な程度。総合的に見れば、純粋な人間またはエルフの方が強い。

 ハーフになることで弱体化するこの現象は“血の劣化”と呼ばれる。

 だが例外として、冒険者にはほとんど差別がない。

 冒険者。別名、命の大安売り。

 自らの命を担保に仕事を請け負う彼らは、良くも悪くも実力が全てだ。そこに、種族による差は介入しない。


 ユリも、ハーフエルフへの迫害を逃れるために冒険者になったらしい。エクストラスキル【友愛】、人間を除く生物に好かれやすくなるこのスキルを使ってテイマーを目指したそうだ。従魔を従えたのはこれが初めて。ユリの初めてはわたしである。


 今回は採取の依頼を受け、そのついでに森の周りを歩き回って従魔にできそうな魔物を探していたところ、あの巨大カマキリ……正式名称マンティスに遭遇してしまったのだとか。

 マンティスの討伐ランクはC、一人前とされる冒険者が三人以上で倒せるとされる強さだ。


 ……ランクCを一蹴したわたしって、実は強い?


 聞いてみたら、


「凄く強いよ! スライムって言えば討伐ランクEの魔物でしょ? だから本当に驚いたんだよっ。これから頼りにしてるからね〜」


(ほへー)


 お、おう。

 そうなんだー。

 ……うへへ。


 でも、いくら強くても見た目はただのスライムだ。ユリが舐められるかもしれないよ?

 そう聞くと、別に構わない、と言われた。


「ノエルは本当は強い子だってわたしは知ってるから」

(ユリ〜)


 なにこの子、超かわいいんだけど!

 わたしのご主人様だよ、何か文句ある!?


 腕の中でくねくねと悶えると、ユリはくすぐったそうに笑った。


(ねえユリ)

「なに?」

(マンティスって、あんな所に出るものなの?)


 その言葉に考え込むユリ。

 いくら何でも、ランクCの魔物がうようよしてる場所に、ギルドもユリみたいは初心者冒険者を行かせないと思うのだ。

 その考えはユリも同じだったらしい。


「わたしも里から出てきたばかりだからよく知らないんだけど、考えてみたらおかしいよね……。ああでも討伐証明部位はないし、なんて報告しよう……」

(素材の一部ならあるよー)

「え、食べちゃったんじゃないの?」


 安心したまえよご主人様、ちゃんと一部は【貯蔵】してある。

 酸攻撃を受けずに完全なまま残っている方の鎌を一部体から覗かせると、ユリは安心したように笑った。


「よかった、これで信じてもらえるね!」

(報酬ももらえるかな? かな?)

「なんでノエルはそんなこと知ってるの!? 言ってないよね!?」

(ふっふっふ。ユリの従魔だもんね〜)


 わたしの勘だけど、信じてもらえないと思うよ、ユリ。ランクEのスライムがランクCのマンティスを倒したなんて、異世界初日のわたしでもあり得ないって分かるから。

 けれど、大切なのは近くにマンティスが現れたという情報が伝わることだ。その点は問題なく伝わるだろうから、特に何かを言うつもりはない。


 途中で現れたサーベルドッグを倒して吸収したりしながら街へと戻る。

 サーベルドッグからはパッシブスキル【犬の嗅覚】が手に入った。これによって、臭いで索敵が可能になった。スライムに嗅覚はなかったけれど、サーベルドッグの情報を参考に生み出すことに成功したので問題なしだ。




   ◇◆◇




 大体二時間くらい歩くと門が見えてきた。

 ユリは羽織っていた外套のフードを被ると中に入る。胸にスライムを抱えるユリは注目を浴びていて、ユリはちょっと表情を険しくしながら速足で歩いていた。


 しばらく歩くと開けた場所に出た。中央広場というらしく、周りにはいくつか大きな建物がある。ユリはその中の一つに入っていった。

 看板には剣と盾の紋章。冒険者ギルドだそうだ。


「あのっ」

「はい。……あら、ユリさんじゃない。スライムがいるってことは、テイムには成功したのね」

「はいっ。ノエルと言います。ノエル、この人はエイミーさんっていって、ギルドの受付嬢さんだよ。ほら、ご挨拶」

(よろしくー)


 ぽよよーんと伸びをする。


「あらあら、賢いのね」

(えへへー)


 そりゃもう、元人間ですから。

 なんてことは言えない。


「どうやらこの子、言葉を理解してるみたいなんですよ」

「本当に!? すごいのね……特殊個体かしら? 色もちょっと違う気がするし」


 確かに特殊だ。

 元人間のスライムなんていないだろう。


(ユリー、マンティスの報告しなくていいの?)

「あ、そうだ! あの、エイミーさん、実は……」


 かくかくしかじか。

 まるまるうまうま。


 ざっと先ほどの出来事を説明して証拠とばかりにマンティスの一部を提出すると、エイミーは固まってしまった。


(おーい)

「あの、エイミーさん」

「はっ。そ、そうね、私では判断出来ないので、ギルド長に伝えておきます。あと、マンティスの素材はどうするつもりかしら」

「えっと、買ってもらえたらなーって」

「分かったわ、場所を用意しておくからあとでお願い。このことが下手に広まると不安がらせることになるから、口外しないようにお願いね」

「は、はい」


 やっぱり大きな話になってきたね。

 ユリの表情は強張っている。

 エイミーはわたしをちらりと見ると、


「疑うわけじゃないんだけど……本当にスライムがマンティスを?」

「ほ、本当ですよっ」

「……分かったわ、そう報告するわね」


 エイミーの顔から猜疑の色が消えることはなかったが、そう言ってくれたのでよしとする。

 最後に、採ってきたヒポネ草を提出して報酬を受け取ると、ユリはギルドを後にした。


「うぅ、信じてもらえなかったよ」

(仕方ないよ〜マンティスは討伐ランクCで、ボクはEなんでしょう?)

「そうだけどぉ〜」


 ま、わたしとしては予想通りの展開ってところかな。

 でも、このあと、ギルド長がどう出るかが分からないんだよね。

 証拠まで出したから調査依頼が出るのは確実だと思うけど。慎重な人だったらユリを呼び出して話を聞くと思うし、そうじゃなかったら登録したての新人の言うことなんて相手にしない。

 さて。

 出来れば面倒ごとの少ない後者であって欲しいものだ。




   ◇◆◇




 ユリに抱えられ、宿に入る。

 路地裏にある小さな宿だ。

 初心者冒険者であるユリでも無理なく泊まれるほど安く、またハーフエルフだからといって差別がないのでここに決めたという。

 決して清潔とは言い難いが、ユリに拾ってもらわなかったら野宿だったので、屋根があるだけ十分というものだ。


「おや、おかえりユリちゃん。……テイムは成功したみたいだねえ。おめでとう」

「はいっ。この子凄いんですよ!」


 カウンターに座っているおばちゃん、宿の女将のアマンダさんが気さくにユリに話しかける。差別がないというのは本当のようだね。

 ユリは無邪気に笑ってわたしのことをアマンダに自慢する。照れるね。


(えへへ〜)


 くねくね。


「あはは、ノエルが照れてるみたい」

「凄いねえ、言葉を理解しているのかい?」

「そうなんですよっ」


 ユリの褒め言葉が加速する。

 もうダメ、ご主人様はわたしを褒め殺しにするつもりなのか!?

 くねくねがうねうねになり、によによになり、でろーんとしてきた頃、ようやくユリの褒め殺しが終わった。マンティスのことはギリギリ言わなかったが、それに近いことは言っていた。曰く、わたしでは絶対倒せないような相手をノエルが一瞬で倒しちゃったの〜、と。

 ……それは、ユリの行動範囲内に初心者冒険者では倒せない相手がいたと言ってるのと同じだよ。その相手がマンティスだと言っていないだけで。


 まあそんな会話があり、食事だ。

 そのまま食堂に行き、夕食を受け取ると食べ始める。わたしの分はない。まあ、マンティスの肉を大量に溜め込んでいるので必要ないといえばないのだが。味覚もないし。

 でも、いつかはまた味のある食事をしたいものだ。マンティスやサーベルドッグの味覚なら再現できるけれど、魔物の味覚ってなあ……。人の味覚を再現……人を吸収する必要があるね。ま、その内盗賊か何かが襲ってくることを願っておきますか。


「いただきますっ」


 本日の夕食は、黒パンに豆のスープ。うーん、やっぱ安宿だね。

 まあ、わたしの食事といえば草とカマキリマンティスの肉だ。それよかよっぽどマシだね。


 食事を終え、部屋に行く。

 狭いし埃っぽい。

 でも個人部屋だった。


「汚い部屋でごめんね」

(ううん、大丈夫ー)


 スライムは雑食だから問題なし。空気中の埃だって食べちゃうよ。

 ……あ、そうだ。

 いいこと思い付いた。


(ユリー)

「どうしたの?」

(服ちょーだい)

「服?」


 ユリが不思議そうに首を傾げている。

 理解してないね、これ。


(えいっ)

「ちょ、ノエル!?」


 仕方がないので飛びかかり、ユリの体を覆う様に【吸収】を使う。そして、汚れだけを綺麗に【消化】。【流動】も同時に使用して、繊維の中や肌の汚れも綺麗にする。


(綺麗になったよー)

「ぷはっ、ビックリしたぁ。でもノエル、ありがとねっ」


 いえいえ、ご馳走様です。

 【流動】で肌まで染み込んで【消化】したから、ユリの体を存分に堪能させてもらいました。

 ご主人様は綺麗になってハッピー、わたしはご主人様の体を満喫できてハッピー。ウィンウィンの素晴らしい関係だね。


「うわぁ、凄いすっきりした。こんなに綺麗になったの久しぶりだよ」

(えっへん!)


 調子に乗ったわたしはベッドや部屋の隅々まで綺麗にして、感動したユリの胸の中で眠りに付くのだった。

ノエル「ここではボクのスキルをユリと解説するよ〜」

ユリ「ぱちぱちぱち〜。さて、今回はこちら! マンティスを倒すのに大活躍したスキルの一つ、【流動】だよっ」


【流動】

アクティブスキル。使用者の体を任意の硬度に変えることができる。最高硬度、軟度は魔力量に比例する。また、熟練度に応じて体の一部のみに使用するなど応用の幅が広がる。


ノエル「ボクの魔力量だと、硬い方はまだ試してないけど、柔らかい方はほとんど液体に近い状態まで変えられるよ」

ユリ「それは凄いねっ! でも、服の繊維に染み込むくらいだからね〜」

ノエル「ちなみに、ここでの会話は夢の中で行われています。本文中のボクたちは覚えていないので、そこのところよろしく」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ