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スライムなめんなっ  作者: 月乃 綾
本編Ⅱ:神殿の少女
33/36

30話

 神殿の少女……巫女見習いのリディア。彼女は、微笑みを崩さないまま、わたしたちを見まわした。

 ポール、《鷹の爪》四人、ユリ。腕に抱かれる、わたし。

 ……? 気のせいかな。一瞬、リディアの笑みが深くなった気がする。


「この村を救ってくださったポールさんのお知り合いの方々です。どうぞ中へ。寒村ゆえ大したことはできませんが、精いっぱいおもてなしをさせていただきます」


「ええ、よろしくお願いしますね、リディアさん」


 リディアは慣れた様子で頭を下げる。ゆったりとして優雅な動作だった。言葉遣いといい動作の一つ一つといい、ただの村人の所作ではない。

 リディアは頭を上げると、「ご案内します」とわたしたちを教会の中へと誘った。

 小さいが花壇などもある庭を通り、扉をくぐる。祈りを捧げるための場だろうか、天窓から光が降り注ぐ広い空間で、一度立ち止まる。


「皆様にご加護がございますよう」


 両手を握り合わせた、地球でも祈りや許しを請うときのポーズで、リディアが祈る。

 数秒して伏せていた顔を上げると、そのまま奥の扉へと歩みを進めた。


「おかけになってお待ちください。お飲み物は、香茶かおりちゃでよろしいでしょうか」


「はい」


 ポールが軽くうなずくと、リディアは「かしこまりました」と言って隣の部屋へ向かった。ポールが腰を下ろしたのを見て、《鷹の爪》の四人は息を吐いて椅子に座った。


「さて」


 椅子に座らず、一歩下がった位置に立つユリを見て、ポールが困ったように笑う。


「ユリさんも、座ってください。護衛が座らないというのは、相手の用意した警備を疑うことになるのです」


「あ……失礼しました」


 慌てた様子でユリが席に着いた。

 普通、護衛や使用人が雇い主と同じ席に座る、というのは失礼になる。というか地球ではそれが常識だ。この世界に来てからも、冒険者生活ではあまり常識の壁は感じなかったから、こういう経験は初めてだ。不思議な感覚である。

 けれど、ユリに立っているようにといったわたしとしては、ちょっと罪悪感を感じる。


(ごめんね、間違っていたみたい)


「ううん。大丈夫だよ」


「とはいえ、通常であれば護衛が立つのは正しい行為です。ここが私が懇意にしている教会だから例外であるだけです」


 そっと囁き合うわたしたちに、ポールがさりげなくフォローを入れる。

 ……いや、少し違う。ポールの視線は、《鷹の爪》の四人に向いていた。


「冒険者であるならばこのくらいは知っておいてください。護衛が座っては万が一の事態に対応できないし、何より仕事中に気を抜くとは何事ですか」


「「「「すみません……」」」」


 初心者冒険者である四人は、ポールの叱責を受けてうなだれた。まあ仕方がないね。

 ポールが口を閉じると、タイミングを見計らっていたかのように扉が開き、リディアが顔をのぞかせた。手に持ったお盆の上に、湯気の立つカップを七つ乗せている。


「お飲み物をお持ちしました。……お話は終わりましたか?」


「ええ、おかげさまで」


 どうやら、中の様子を把握していたらしい。これは、警備はきちんとしていますよ、というアピールになる……のかな? わたしとしてはちょっとした脅しだと受け取りたいところだけど、世界が違うと何とも言えない。

 よくこれまでやってこれたね……。まともな交渉をした相手が脳筋オスカーだけでよかったよ。


 リディアは全員の前にカップを置くと腰を下ろし、お茶を一口飲んだ。それに続くようにしてポールもカップを傾ける。護衛の面々は伺うように二人を見て、ぎこちない動作でそれに倣う。リンゴにも似た甘い香りが、カップを満たす若草色の香茶から漂っている。


「カモミールですか」


 こくりと喉を鳴らしたあと、ポールが軽い口調でそう言った。リディアはふわりと微笑み頷く。


「ええ。皆さん、緊張している様子だったので」


「お気遣い、ありがとうございます」


「(カモミールはリラックス効果があるハーブなんだよ。それと、内臓の病気にも効果があるよ。甘い香りがするから、里でもよく飲んだんだ)」


 なるほど、香茶……ハーブティーというわけね。名前や効用は地球と変わらないらしい。

 これはまた、妙な類似点が見つかった。

 

 わたしたちがそんな念話を交わしていると、ポールとリディアは軽い雑談を始めていた。ここまでの旅路の様子をリディアが尋ね、ポールが答えるという内容だ。穏やかな笑みで話すポールの話を、リディアは目を輝かせながら聞いている。ただ、時折ユリ……ではなく、その腕の中にいるわたしに視線が向くのが気になった。

 わずかに警戒を強めるが、不審なところなどどこにもない。視線以外はいたって普通だし、敵意や害意も感じられない。

 単純に、人間に従う魔物が珍しいだけなのだろうか。


「では、そろそろ」


 ポールの用事は本当に顔合わせだけだったようで、もう2、3の世間話をすると腰を上げた。


「そうですね」


 リディアもうなずき、ポールに続く。そのまま外へ……と思いきや、二人は別の扉へと向かった。入ってきた時よりも大きな、厳かな雰囲気を持つ扉だ。リディアが取っ手に手を触れると、ぎぃと重々しい音を立ててゆっくりと開いた。


「護衛の皆さまは初心冒険者である伺っております。せっかくですので、祝福ギフトの確認をしていかれてはいかがでしょうか」


 くるりとこちらに向き直り、リディアはそう言い放った。

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