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スライムなめんなっ  作者: 月乃 綾
本編Ⅱ:神殿の少女
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29話

 朝食を食べ終えたわたしたちは、ポールが仕事をするというので護衛について行くことになった。村の中での商売に護衛などいらない気がするけれど、そこはそこ。報酬をもらう以上、手を抜くのは流儀に反する。

 ……嘘です。単にユリが張り切ってるだけです。

 わたし? 後腐れがないなら普通にサボるよ。そのせいで報酬額が下がったりする可能性があるならやるけどね。

 そんなわけで、一人と一匹の間に若干のテンションの差はあるものの、ポールを先頭にした行列を作って宿を出る。


「ねえ、ノエル」


(ん? なーに?)


 何かを思い出したように、ユリが口を開く。


「ノエルみたいな、その、魔物って、普通は話せないのかな?」


 ああ、そのことか。ちょっと納得する。

 ユリが引っかかっているのは、朝食の席でのロイとの会話だろう。時折ロイへと向けられる心配そうな視線を見れば、ショックを受けていた彼を気にしているのはすぐにわかる。

 ……くそっ、ロイめ。

 わたしの発する怨念に気づいたのか、うつむき気味だったロイの背中がびくりと跳ねた。

 慌ててあたりを見回すロイは放置して、ユリへと意識を戻す。


(ボクが生まれたのはユリと会うほんの少し前だから、よく分からないなあ)


「え、そうなの?」


(うん、まだボクは0歳なんだよ)


 そうなのだ。

 地球で事故死して、気づいたらあの場にいたのだ。

 まあそんなことをユリに話すわけにはいかないので、適当にうなずいておく。

 驚いているユリに、ちょっとだけ言葉を足しておく。


(だから、ボクが言えるのは、今まで戦ってきたマンティスとか、サーベルドッグとかには意思はなかった、ってことだけだよ。……それに、ボクは特殊進化個体ユニーク。他とは違うって考えた方が自然じゃないかな)


 他と違って意思があるのは転生したからなのか、それとも転生したから特殊進化個体になったのか。鶏が先か卵が先か、ではないけれど、そこを考えるのは不毛の極みだ。今のままでは考えても分からないし、分かったとしてもどうにかなるものじゃない。わたし以外に転生者がいるわけでも……ああ、何故か静香がいたっけ。いつの間に死んだのやら。

 とにかく、わたしはこの世界では特殊な部類だろう。それで十分だ。


「……うん、そうだよね」


 そうつぶやくユリの表情は、ずいぶんと穏やかなものに変わっていた。

 もしかして、ロイだけでじゃなくて、ユリも気にしていたのかな? 気が軽くなったのなら、よかった。

 命拾いしたね、ロイ。

 わたしの視線の先では、ロイが再び肩を跳ねさせ、慌てた様子で周囲を見回していた。

 ……威圧はやっぱり効果があるね!


 話している間に、村の広場へと到着した。

 広場とはいっても、別に大したものではない。中央に井戸が造られていて、他よりも多少は広くスペースがあるというだけの場所だ。だが、村人たちにとってはここは交流の場だ。水を汲みに来た女性たち、朝の一仕事を終えて体を休める男性たちと、それなりの人数の村人がそこにはいた。


「お! 商売の時間かい?」


 ポールが来たことに気づいた男性が声をかけると、他の村人も自分たちの会話を止めてこちらに視線を向ける。その顔に、パッと笑顔がはじけた。


「ずっと楽しみにしていたんだ! 前に頼んだ腕輪は仕入れてくれた?」


「おいおい、そんなものに無駄な金を使うことはないだろう。それよりも酒だ! たくさんあるんだろうな?」


「そんなとは何だい! こんな田舎村でもね、お洒落は女のたしなみだよ!」


 広場は、途端に喧騒に包まれる。男性同士、女性同士、あるいは異性同士。どつきあい、からかい合いながら、ポールの奴隷たちが広げる商品を品定めする。ポールは愛想よく笑いながら、村人たちの応対をしていた。

 その顔、というか雰囲気全てが、わたしたちと賃金交渉をしていた時とは全く違った好青年のもので、(ああ、やっぱり商売人は信用ならない)と思い直したのだった。

 ……わたしも似たようなものな気はするけれどね。



 ◇◆◇



 ポールの商売は、村人が午後の仕事に出る頃まで続いた。太陽の位置から察するに、地球で言うとおよそ二時頃だと思う。当然、何の問題もなく終了した。

 突っ立っているだけでお金がもらえると言えば聞こえはいいが、ぶっちゃけ無駄な仕事だ。ユリが「やる」と言わなければやりたいとは思わない。わたしは無駄が嫌いなのだ。

 そんなわけで、商売を終えて遅めの昼食を摂っていると、ポールが口を開いた。


「みなさん、お疲れ様でした。おかげさまで問題なく、今日の商売を終えることができました」


 別にわたしたちがいなくとも、村人としっかりとした信頼関係を気付いているポールであれば商売を成功させただろう。商売に関しては素人であるわたしにもそう感じさせるほど、その様子には安心感があった。


「この後ですが、神殿に顔を出そうと思います。それほど時間がかかるわけではありませんが、紹介も兼ねて、ついてきもらえると助かります」


 雇い主の「頼み」は命令に近い。ユリも乗り気だし、断るという選択肢はなさそうだ。

 それに、この世界の宗教事情は、わたしも気になる。下手をすれば国家よりも強い権力を手にすることもあるのだから、当の昔から警戒対象に加えられている。情報が手に入るのであればありがたい。

 全員が了承の意を示すと、ポールは一つうなずいて食事を再開した。


 昼食を終え、宿を出る。商売をするわけではないので、荷物は必要ない。奴隷の少女たちにも仕事はなく、休憩時間となる。


「こちらです」


 ポールの案内で村の中を歩いていく。神殿は宿の反対側にあるらしく、商売をした広場を通り抜け、さらにはずれに向けて進んでいった。

 やがて、前方に、民家よりもやや高い建物が姿を現した。鋭角に尖った屋根、石造りの壁、小さいながらも庭がある。そこには背の低い植物が植えられていて、ユリと同い年くらいの少女が手入れをしていた。


「ここです。少し待っていてください」


 ポールはこちらに向けてそう告げると、庭に入っていった。少女が気付き、立ち上がる。清潔感を感じさせる、白を基調とした服装。村人たちの、丈夫さ重視! といった風の服とは雰囲気がずいぶんと違っていた。

 ポールと話をしていた少女が、こちらへと歩いてくる。


(…………?)


 その姿に、何か……妙な感覚を覚えた。

 この少女は、わたしに、近い。

 なんの根拠もないが、ふと、そう感じた。


 少女はわたしたちの前に立ち、ふわりと微笑む。


「みなさん、神殿へようこそ。歓迎します。……巫女見習いのリディアと申します。よろしくお願いいたします」


 丁寧に言葉を紡ぎ、神殿の少女は、ゆっくりと頭を下げた。

今章のキーパーソン、登場です。

物語も動き始めます……けど、更新できるかなぁ……

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