28話
どうもおはよーございます。
スライムのノエルです。
昨日の昼食の後、仮眠のつもりで寝たら朝になってたんですがこれ如何に。
ちなみにわたしだけじゃなくてユリもです。二人でぐっすり寝てました。
あああああ、ポールさんイチオシの夕食逃した……!
いやまあ、わたし自身は味覚ないんだけどね……。
美味しいものを食べている時のユリの表情は素晴らしいのだ。ああいうのを蕩けると言うんだと思う。仄かに赤らんだ頬、緩んだ口元、幸せそうに細められた目。フォークを片手に頬を抑える仕草なんて堪らない……!
食事よりもそんなユリが見られなかったことが悲しいよ。
(ううぅー!)
「ぅん……ノエル、おはよぅ……」
(ユリ、おはよー!)
尻すぼみに消えていくユリの声。まだ疲れが取れていないのか、ユリは眠たそうに目をこすっている。
窓から差し込む光はまだ淡い。日が昇った直後かそのくらいの早朝だろう。
……つまり、まだ朝食には間に合うってことだ!
ひゃっふー!
「ふぁあ……」
ユリが小さなあくびを漏らす。
目の端に浮かんだ涙をぬぐい、着替えを済ませると一階へと降りた。
「あら、早いのですね」
「おはようございます、サラさん。昨日は夕食、すみませんでした」
ユリがぺこりと頭を下げる。
サラは笑って首を横に振った。
「いえいえ。ポールの護衛だったと聞いています。疲れたでしょう?」
うん。主に《鷹の爪》のフォローが。
「あの人もそれなりに稼いでいるんだから、ちゃんと実力のある護衛を雇えって何度も言っているのですけどね。なぜかいつも、こう言っては失礼かもしれないけれど、少し不安の残る子たちを雇うのですよ」
サラさん、初心者とはいえ冒険者を子ども扱い。
けれど、戦場での立ち振る舞いを見ればわかる通り、彼らはまだ素人だ。戦闘にしても移動にしても、どこかぎこちなさが残っている。
「だから、ユリさん、あの人をよろしくお願いします」
深く頭を下げ、サラはそう言った。
……うん。
現地妻か!
心の中で盛大に突っ込んだが、純粋なユリは、サラの態度をそのままの意味で受け取ったらしい。
「え、ええと。わたしもまだまだなので……けれど、精一杯頑張ります! ……だからその、ノエル、よろしくね」
(お任せあれー!)
ふふ。
意識してか無意識かは知らないけど、ポールの護衛を引き受けさせられちゃったね。
あとで、ちゃんと報酬は受け取るように伝えなくちゃ……。
どうしよう。
マイペースで物腰柔らかそうに見えてこの人、結構策士かもしれない。
思わぬ伏兵にちょっと戦慄。
「おや、ユリさんじゃないですか。おはようございます」
「ポールさん。おはようございます」
サラと話していると、背後の階段からポールが降りてきた。昨日と同じ柔和な笑みを浮かべている。
「ポールさん、ユリさんがこの先の護衛も引き受けてくれるそうですよ」
「おや、そうですか! どうもありがとうございます、今後もよろしくお願いしますね」
「あ、はい……」
。
やっぱ故意だったー!
しかもポールまでグルなのか。
(ユリ、簡単に返事しないよーに!)
「(え、あ、うん)」
ほいほい頷きそうなユリにぐっさりと釘を刺しておく。
ポール、今、さらりと今後もって言ったよね。サラもこの先って終了地点決めてないし、ズルズルと契約を引き伸ばす気満々だよね!?
(首都! ボクたちの目的は、首都で魔術の勉強をすることだよ! 護衛は首都まで!)
「あ。……ポールさん、その、わたしたちの目的地は首都なので……」
「おや、そうですか。それでは、首都までの護衛はお願いします」
(脇道に逸れないように言っておいて!)
「首都まで最短で向かうなら護衛します!」
あとは報酬の交渉もしないと!
何も言わないとさっきのままになるだろう。《鷹の爪》よりも働いてるのにそれより安いとかあり得ない!
だあぁ、ユリを介さないといけないのがもどかしい!
悪戦苦闘の結果、わたしとユリは残り二つの開拓村を回ったのちにグリモワールの首都へ向かうルートでポールを護衛することになる。報酬は《鷹の爪》の倍額。働き具合を考えると妥当なところだと思う。
……手強かった!
◇◆◇
《鷹の爪》の少年少女たちも起きてきたので、食堂に移動して朝食をとることにする。
流石は働き盛りの若い衆、食べる量が朝から半端じゃない。
男二人がたくさん食べるのは予想のうちだったけど、女組までとはね。
(ボクも食べたいなー)
「あれ、ノエルって食事できたの?」
(味は分からないけどね……)
「そうなんだ……」
人型になれば味はわかる。だが、魔物であるスライムの体に人間の機能を再現することは不可能だった。ユリの前ではスライムでいるつもりなので、わたしはユリといる限り食事は味わえない。
食事よりもユリの方が大切なのは言うまでもないけどね!
それは置いておくとしても、あんなに美味しそうに食べるのを見るとわたしも食べたくなるよ。
ちょっとだけ、人間だった時が懐かしくなった。
「あ、あの」
「はい?」
何か、ポールがこっちを見ていた。
ガン見していた。
いや、ポールだけじゃない。
《鷹の爪》の四人にサラもこちらの様子をうかがっている。
「もしかして、従魔のスライムと会話を?」
「そうです」
ユリがうなずくと、彼らは絶句した。
……あれぇ?
従魔と魔物使いは互いに念話が使えるのって、割とありふれた知識だったよね?
「そのスライムは言葉を理解しているのか!?」
ロイの叫びで分かった。
彼らが、何に驚いているのか。
……早まったかなあ。
「えっと、言葉は話せるし、理解している……よね」
(してるよー)
あーあ。まあいいや。どうせオスカーも知ってることだし、一緒に行動する以上は隠すのは難しい。下手に隠しても疑いのタネを残すだけだ。だったら、いっそ全部ぶちまけてしまえ。
「今のところ、わたしと念話出来るだけなんだけどね」
ユリが曖昧に微笑んで言う。
それを聞いて、ロイがドサリと腰を下ろし顔を手で覆いつぶやいた。
「まさか、魔物が意志を持っていたなんてな……」
……ん?
何か、重視している点が違う気がする。
(……あー、もしかしてこの人……)
「ノエル?」
ロイってもしかして、よくいる勘違いした正義漢タイプ?
意味もなく魔物を悪と断定して退治していたけど、意思があるとわかって心が揺れている、とか?
……うーわ、めんど。
こういうのって関わると鬱陶しいから放置だね。
何だかうじうじと悩み始めたロイを、わたしは冷たい目で見ていた。
お久しぶりです!
受験も終わり、書く時間が取れるようになったので投稿再開です(^^)
美風慶伍様からレビューを頂きました!
人生初のレビューです!
隙間時間に見つめてニマニマしてます。本当に嬉しいです♪( ´▽`)
これからも「スライムなめんなっ!」をよろしくお願いします!