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スライムなめんなっ  作者: 月乃 綾
本編Ⅰ:森の蟷螂
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18話

 わたしたちはそれから、これからの事について話し合った。

 わたしの行動によってユリは死んだ事になっている。だから、どんな行動も自由だ。街へ帰りたければそうする事だってできるしね。その時は、助けてやった恩を存分に返してもらおう。

 ……まあ、どっちにしてもオスカーにはもう一度会うつもりだ。空の姿で。わたしも冒険者という身分が欲しいしね。


 で、わたしの希望としては他の街へ行きたい。グレーテストマンティスから離れたい。いつ死ぬか分からないような環境にユリを置いておきたくないのだ。


 そう伝えたらユリは、


「それは、街を見捨てるってこと?」


 顔を伏せてそう言った。


(街はオスカーさんに任せよう? ギルド長なんだし、なんとかしてくれるよ)

「でも……」


 ユリには街を守る義務なんてないんだから、自分のことを一番にして欲しいものだ。何事も命あっての物種なんだから。


(ユリに出来ることはないよ。《魔の森》で分かったでしょう?)


 現実は、あの時思い知ったはずだ。ユリの実力じゃ、マンティスだって倒せない。


(そもそも思い過ごしかもしれないんだよ? マンティスが森から出て来るかもっていうのはオスカーさんの予想でしかないんだから。それに、支配級が出たのなら避難くらいするって)

「そう、かなぁ」


 するでしょ。するする。してくれないとユリが止まらないからして。

 まあこの場は避難するものとして話を進めよう。


(そうだよ。だから、ユリも早く逃げちゃおう?)

「う、うん……そうだね……」


 よし、あと一押し!

 なんだけど、もう言葉が思い付かない。

 そもそもが当てずっぽうに言ってるだけだしね。


「みんなが避難するのを待ってからでもいいかな?」


 ユリの言葉に内心苦い思いをする。

 でも、その気持ちも分かるのだ。ユリはあの街で今まで活動してきたわけだから、関わりを持った人も多いだろう。優しいユリのことだ、そういったものを切り捨てられないのは当然のこと。

 だから、このくらいは許容するべきなのかもしれない。


(……そのくらいなら)

「ありがとう、ノエル」


 この時、わたしは一つ思い違いをしていた。

 ユリが今まで関わった人の安全を確かめたかったのではなく……いや、もちろん、ユリとしてはそのつもりだったのだろう。だが、ユリにすら分からないその本心は、単に“死”を見たくないだけの未熟さだということを理解できなかったのだ。

 この思い違いが、わたしたちを二千年前からの因果へと巻き込む決定打となるのだが……今はその事を知る由もなかった。




   ◇◆◇




 とりあえずは現状維持ということで先の方針も決まった。

 で、一つ問題が発覚。


 暇だ。


 いや、現状維持っていっても、死んだことにして時間稼いだのにユリを連れ出せないし、初心者用の森と言っても深部だから、ユリを放って一人で出歩くわけにもいかない。

 つまり、この洞窟に数日籠っているしかないわけだ。

 幸い、というかこの事態を想定して食料は用意してある。まあ一回くらいは狩りに出るつもりだけど、そんなすぐに必要になるわけじゃないから今は置いておく。


 とにかく、やる事がないのだ。


 てなわけで、ユリを鍛える事にした。

 わたしの強化は基本的には【消化】によるステータス増強とスキル取得だ。つまり敵を倒さないとだめ。今の状況では難しい。

 だからユリの強化を考えたんだけど、ユリは魔術師。わたしに出来る事はない。なので考えた。そして思い付いたのだ。


 ……テイマーとしての技能って何かないのかな? と。


 ほら、わたしのステータスには《従属:ユリ》ってちゃんと表示されてるけど、ユリにしてもらったのって名前をつけてもらっただけじゃん? 命令に対する強制力もないし、今のところ恩恵といえば念話だけ。

 で、色々と試してみた。現代日本で培った妄想力を駆使してありとあらゆる事を試してみた。


 できた。


 結論から言えば、かなり多くの事ができるという事が判明したのだ。熟練度の関係もあるのですぐに使いこなせるものはあまり多くないのが残念だけど。

 とりあえず現段階で使い物になりそうなのは二つ。五感の同調、そして魔力のやりとりだ。

 どうも、わたしとユリの間には『名付け』という行為を介してパスが繋がっているらしい。そのパスを利用するので、生命力という概念をユリがしっかりと把握できれば魔力だけでなくいろんなものをやりとりできそうな感じがした。応用範囲は広そうだ。


 また、わたしもユリが寝ている間に色々と試した結果、人間形態が最大火力である事が判明した。【身体強化】と魔術が使える上に使い慣れた体、そして【吸収】【酸攻撃】といったスライム特有のスキルも扱えるのが理由。なんだかんだでスライム生より人生の方が長いのだ、とっさの判断には人間時代の動きが出るのは仕方のない事だろう。

 ユリの教えを思い出しながら魔術の訓練もしておいたから、それなりに使えるようにはなったと思う。まあ初級魔術の域を出ないのだが。




 とまあ、こんな感じでうだうだと過ごして数日。

 昼頃、わたしが食料採取から戻ると、洞窟からユリの姿が消えていた。

 呆然とするわたしは、突然魔力を奪われるような感覚を覚え……ユリが戦闘に巻き込まれたことを悟ったのだった。

ユリ「マンティスを一撃って初級魔術じゃ無理だよ」

ノエル「あれ? でも《火球》って初級だよね?」

ユリ「調査でノエルが使ってたのは中級の《爆裂》だよ……」

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