16話
グレーテストマンティスは苛立っていた。
《魔の森》の配下を全て集めているというのに、何故、ニンゲンなどという弱小種を蹂躙出来ない?
体が小さく、鎌も持たない相手に何故手間取る?
我が配下が情けないからだ!
そう、そうに違いない。
そうでなければ、数が多いだけの相手を倒せない理由にならぬ。
グレーテストマンティスは、おもむろに腰を上げる。
そして、その鎌を一閃した。
配下が一体、その場に崩れ落ちる。
「キィィイイイイイッ!!」
情けない! 《魔の森》を統べる我らが、何故こんな相手に手間取るのだ!?
進め、そして殺せ!
でなければ、我が貴様らを殺してやろう!
マンティスたちは怯えた。
己の主の暴威に。
死にたくない!
ただその一念にて、彼らは奔る。
背後に控える強者の理不尽から逃れるために!
グレーテストマンティスは傍に控える上位種たちを促すと前に進む。
これにより、マンティスたちの勢いは格段に増し、拮抗していた戦況を打ち砕くことになる。
◇◆◇
「一体何が起こった!?」
レイモンドは焦りの声を上げる。
突如勢いの増したマンティスに討伐軍は大きく押し込まれた。冒険者たちは即座に受けに回ったため被害は大きくないが、問題は軍と騎士団だ。
対魔物戦のノウハウを持たない彼らは、劇的に上がった勢いに対応しきれなかった。結果、被害も出たのだが、それよりも陣形が崩壊した。それはすなわち、人間という種のアドバンテージを手放してしまったことに等しい。
「リネハン! 魔術は!?」
「無茶を言うな! 詠唱速度は変えられん、打ち込める時刻は変わらんよ!」
「クソッ」
レイモンドは伝令を出し、温存しておいた予備戦力を投入することを伝える。一時的だろうが戦線を支えてもらい時間を稼ぎ、その間に陣を立て直すのだ。
「奴らの勢いは止まらん、これでは応急処置にしかならんが……」
「魔術が完成するまでは何としてでも凌いでもらわねばな」
重い溜め息がその場に溢れた。
◇◆◇
前線では、乱戦に突入していた。
マンティスの勢いが増したことで陣形が崩れたのだ。
背後に控えていた兵士たちがなんとか立て直しを図っているが、冒険者として数多の戦闘を経験した俺には分かる。
この状態からの立て直しなど不可能だ。
一度連携を絶たれたら、後はもうどうしようもない。なるようになるだけだ。
幸い、連携がないのはあちらも同じ。俺たちは冒険者だ、即座に声の届く範囲にいる数人で即席のパーティを組み、冒険者らしい戦いを始めている。
が……騎士たちにそんな対応力はない。
常に命の危機に晒され、何度も死線を潜り抜けてきた冒険者と、訓練によって技量ばかりを上げてきた騎士団。
その差は、逆境に陥ったその時、歴然とする。
それはこの討伐軍を率いる騎士団長も理解しているようで、予備戦力によるサポートは騎士団の方に重点が置かれていた。
だが、それにより、徐々に、徐々に……俺たちの戦況は悪化していく。
「うわぁっ」
……やられたか。
脱落者が現れはじめる。
だが、俺たちだって、余裕があるわけじゃない……!
マンティスを数体は倒したが、まだ数は多い。今も、俺たちは同時に二匹のマンティスを相手にしているのだ。
「ラァァアアアッ!」
両側から振り下ろされる四本の鎌を、斧で打ち払う!
左側の一体が大きく鎌を振り上げたのを見て、俺は前転するように避ける。立ちあがる動作と同時に斧で関節を切り上げる。クソ、硬い! そのまま振り下ろすが、それは鎌で防がれた。
「キィイイッ!」
「ハァッ!」
右の一体が攻撃を仕掛けてくるが、間に割って入ったジョージが盾で受け止める。
「コイツは俺たちが!」
「頼む!」
俺は残ったマンティスに向き直り、斧を構えた。
こうして戦闘は激化し、戦線は横へと広がっていく。少しずつ、押されるように移動する俺たちは、今は森の隣あたりまで来ていた。
「ぜぇ……ぜぇ……くっ」
鎌の一撃を流し切れず、押されるように上体が泳ぐ。足が後ろに下がり、ぐむりとした感覚が伝わった。これまでの草原とは違う柔らかな地面に足を取られたのだ。
「しまっ」
目の前には鎌を振り上げたマンティス。
避けきれないーーーー
「《爆裂》!」
そして、森の奥から飛来した火球がマンティスの頭部に着弾し、破裂した。
ドォンッ!!
強い衝撃波を撒き散らした爆炎に包まれたマンティスは、頭部を吹き飛ばされた地に伏せる。
これは一体……?
振り返った俺の視線の先には、黒いローブを羽織ったハーフエルフがいた。
【直感】
パッシブスキル。ザカリーの取り巻きを捕食したことで入手した。その名の通り、直感が強化される。しかし、超能力ではないので全く知らないことについては発揮されない。
ノエル「ん? なんか魔力が減った気が……」




