表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムなめんなっ  作者: 月乃 綾
本編Ⅰ:森の蟷螂
17/36

14話

 目を開けると、昼過ぎの眩しい日差しが目に入った。

 傍らの魔道具を見ると、今日は《魔の森》の調査があった翌日らしい。そこまで時間が過ぎていないことに安堵する。

 が、すぐにそんな場合ではないことを思い出した。

 慌てて飛び起き、部屋を飛び出すと一階へと駆け下りる。


「おいっ! どうなった!?」

「ギルド長! 良かった……」


 一人、カウンターに座り来客の対応をしていた受付嬢が安堵の息を漏らす。

 他に人は見当たらない。まあ、こんな大事に対処できるほど人材がいた訳ではないから相当忙しいのだろう。


「失礼、貴方が支部長のオスカー殿か?」


 黒ローブを纏った男がこちらを見て口を開く。

 ……ん? ローブに何やら見覚えのある紋章があるな。これは確か……

 って、ファーレンガッハ王国宮廷魔導師の証印じゃねぇか!?


「そうだ。其方は? 宮廷魔導師とお見受けするが」

「貴方からの通信を受け取ったものだ、リネハンという。陛下の決定を伝えに来た」

「それは」


 昨日の今日でなんて対応の早さだ。

 ギルド長という立場の俺が直接伝えた情報だとはいえ、たった一人の人間の言うことをよく聞いてくれたと思う。


「支配級の出現は国家滅亡の危機と同等だと考えられる。故に、陛下はこの状況を非常時だと宣言した。不安を煽らないため民への発表はないが、魔導師団、騎士団及び国軍の派遣が決まった。民の避難も受け入れるそうだ。また、転移門の使用の許可も出た。数日の内に討伐戦力が到着するだろう」


「そうか……感謝する」


 討伐戦力とは言っているが、実際は避難のための時間稼ぎだろう。

 数少ない支配級の魔物の討伐事例は、どれも複数の国家での共同戦線によるものだ。自分の国内の出来事とは違い、それには確たる証拠と長い交渉が必要。しかし、そんなことをしていれば民が死ぬ。

 民は助けたい、しかし支配級だと断定し援助を求めるには被害が出たという事実が必要なのだ。

 だから、街は放棄するしかない。

 仕方のないことだ。

 むしろ、民を助けるために動いてくれたことを感謝しなければならないだろう。


 だが……なんだろうな。

 納得はできるが、建前がなければ動けない国という集団には苛立ちを覚える。


 冒険者は、常に最悪を仮定し、被害が出ないよう努める。


 国家は最善を想定し、被害が出なければ動かない。


 相反する、だが遥かに強い力を持つ集団。それが冒険者と同じように動くことができれば、或いはこの街を放棄することもなかったかもしれない。

 机上の空論というのも烏滸がましいほど考え無しな感想だが、そう感じてしまう。


 その後、リネハンと防衛についての打ち合わせをする。


 ランクD以下の冒険者は避難民の護衛という名目で街から離し、それ以上の者には悪いが街と運命を共にしてもらうことに決まる。

 また、軍の到着の時期、規模、滞在する場所など細かいところまで話し合う。


 しばらくは気の抜けない日々が続きそうだ。




   ◇◆◇




 軍が到着した。

 民の避難はあまり進んでいない。

 そのため、軍は避難民を背後に《魔の森》と街を挟むように陣を構えている。

 また、周囲の魔物を間引いたり、森で動物を狩って食料の足しにしたりしているようだ。

 俺を含めた冒険者は一つの部隊として、騎士団の指揮下に入った。俺が隊長だ。


 騎士団から、初心者用の森で空色のスライムを目撃したとの情報が入った。

 なんでも、鹿を倒して解体しているのを見かけたらしい。

 まあ、人型になり会話ができるくらいだ。獲物を解体するくらいは訳のないことだろう

 ……にしても、生きてたんだな、あのスライム。

 マンティスの巣窟と化した《魔の森》からよく生き残ったものだ。

 本音を言えば力を借りたいが……主人を裏切った従魔を信用できる訳がないか。


 ってか、なんで鹿なんて狩ってるんだか。スライムは食事なんぞ必要ないだろうに。




   ◇◆◇




 《魔の森》からマンティスが溢れ出してきた。

 初めてその姿が確認されたのが二日前。

 そして今、俺たちの目の前には五百近いマンティスと、その上位種の姿がある。

 一つの家ほどもあるカマキリが徒党を組んで迫ってくる……その光景は、まるで悪夢のようだ。


 始まる……支配級討伐に必要な他国の協力を引き出すための、最初の捨て石。

 そして、避難のための時間稼ぎ。


 絶望の戦いが。





 この日、ファーレンガッハ王国は正式に個体:グレーテストマンティスを“魔王種”として認定。

 シナレアの街近郊、通称《魔の森》に現れたその一個体に限り討伐ランクをSへと引き上げた。

 一つの群れを率いる支配級にして、国家を滅ぼし得る災害級。

 この対応のため、ニドニス帝国、ロードウェル法国の二大国との共同戦線を議題にした緊急会合が開かれることとなった。

ノエル「今回わたしは出てないけど、本編らしいのであとがきに登場だよ」

ノエル「鹿狩ってるとこ見られてたんだねえ。臭いも気配もなかったんだけどな……そういうスキルでもあるのかな?」

ノエル「あ、伝言預かってるよ。魔物がマンティス以外ほとんど出てないのでスキル解説のネタが切れそうです。用語でも行動理由でも何でもいいので、疑問点あれば感想欄にて受け付けます。進行に支障の出る場合は解説できませんが……(by雪乃)」

ノエル「確かにね。もっとわたしにスキルを!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ