12話
幕間です。
ギルドまで辿り着いた時、皆満身創痍だった。
脇目も振らず、全力で逃げ続け、体力は底をついている。
が、そんなことを言っている場合ではなかった。
「ギルド長!? これは一体……」
「ゼェ……ゼェ……、通信の魔道具を、起動……してくれ……。至急、王城に……国が……」
介抱しようとする職員を振り払い、そう告げると這うようにして中へと進む。
「お前らは……外にいる奴らを、頼む……」
「は、はいっ」
文字通り体を引きずりながら階段まで行き、駆け下りてきた職員から通信の魔道具をひったくるようにして奪う。
「こちら……オスカー、ファーレンガッハ王国領シナレア支部長だ……誰でもいい、応答求む」
『王宮魔導師リネハンだ。何用か?』
「支配級の出現を確認した……援軍を、要請……する」
『なっ!?』
驚きの声……だが、そんなことに反応している暇はない。
「場所は《魔の森》の深くだ……調査に際し、死者多数。この街に、支配級に抵抗する力はない……急いでくれ。街が……滅びる」
『く、すぐに知らせる! 情報感謝するッ!』
通信が切れ、ようやく肩の荷が下りた気分だ。
だがまだ、やることは終わっていない。
「すぐに避難を始めろ……」
「はいっ! …….あとは私たちに任せて、少し休んでください。誰か!」
そうして、駆け寄ってきた誰かに抱えられ、俺は医務室へと運ばれる。
その途中で、意識は落ちていった。
◇◆◇
《魔の森》某所にて。
「はあ……」
「浮かない顔だな」
「そりゃ、ねぇ……」
(あー……やっぱこの世界、訳わかんないわ。空がいるなんて聞いてないし。あいついつの間に死んだのかねぇ)
「……お前が情けをかけるとは珍しいな」
「何の話?」
「あの女の事だ」
「……何の事だか分からないね」
「いやいや、確かに殺す必要はなかったが……生かしておく必要もあるまい? 支配級が必要とする餌は多い、食わせておけばよかろうに」
「……別にそんなんじゃないし」
「ククッ、お前みたいなのを何と言うのだったか? そう、確か……ツン……ツンデ……」
「ぶっ殺すわよ」
「怒るなよ、私はか弱いんだ」
「どの口が言うか」
「違いない、私は嘘つきなんだ」
(ったく、掴み所のないやつ……。しかしまあ、どうなるかね……支配級がいるって知られちゃったし……)
「さて、そろそろこれからについて話し合おうか? 実験も一区切りついた事だ、私としては手を引いても構わないよ?」
「ならそうしよっか。この場所は放棄だね」
「ああ、そうだな」
(あたしの制御を離れた支配級はどうするのかな……ま、死なない程度に頑張れ、空)
◇◆◇
同じく《魔の森》某所にて、二人が去った後のこと。
グレーテストマンティスは、今まで己を縛っていた枷が壊れるのを感じ取った。
同時に、己の身を隠していた殻が消えるのが分かった。
外界との繋がりを完全に遮断し、気配、物音、体温や空気の流れ、臭いまでもを断ち切る隠密結界。
己を縛っていた者から与えられた力だが、例えそんなものが消えようが、グレーテストマンティスは生まれながらの強者である。
確かに無益な戦いを避けるのには役に立ったが、こんなものは本来は必要ない。
しかし……グレーテストマンティスは思う。
どうでもいいが……己を縛った人間という種は、忌々しいと。