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スライムなめんなっ  作者: 月乃 綾
本編Ⅰ:森の蟷螂
13/36

10話

残酷な描写があります。苦手な人はご注意を。

 死が目前に迫り、どうしようもなくなった時、人は本性を現すという。


 最期に他人を気遣える者。


 最後まで抗おうとする者。


 諦めに浸り立ち尽くす者。


 せめて前を向いて死のうと目を見開く者。


 そしてーーーー


 他人を犠牲に生き残ろうとする者。


 さて、あなたはどれに当てはまるだろうか?




   ◇◆◇




 襲いかかってきたのは、グレーターマンティスが二体にグレーテストマンティスが一体。

 討伐ランクA+、支配級……一国の軍が相手にするような敵が目の前にいる。いかにここにいるのが最高戦力だとは言え、一つの街程度の戦力ではたかが知れている。初めからランクAを超える相手を倒すことなど視野に入れていないのだ……事ここまでくれば、ひたすら逃げるだけである。


 というか、彼奴ら……わたしの【犬の嗅覚】にかからなかったぞ?

 たとえ隠密行動に優れていたとしても、匂いまでは消せない。故にこのスキルは索敵において最強なのだ。

 それを奴らは掻い潜った。

 これは一体……?


「クソがぁッ!! お前ら逃げろ! ここは俺が食い止めるッ!!」

「オスカーさん!?」


 大斧を振りかざし、オスカーが叫ぶ。


「ハッ! 引退した老兵の最期にゃ勿体無いほどの舞台だ! ここが俺の死に場所だぁッ!!」


 ……凄い。

 連続で振るわれる、二体のグレーターマンティスの鎌。

 オスカーはそれを、純粋に斧の技のみで防ぎ切っていた。


「俺も手伝います! そして、生きて戻りましょう! あの街にはまだオスカーさんが必要だ!」

「バカ野郎が……やるぞ!」


 そうして、死地へと飛び込んでいくジョージとその他数名。

 オスカー……慕われているんだね。


(ユリ、早く逃げよう。ここはわたしたちには過ぎた戦場だよ)

「う……うん。そうだよね……」


 ユリは、その場から動かない。

 顔は蒼白になり、足は震え……それでも。


(ユリッ!!)

「でも、……でも……」

(早く逃げて! ユリに何が出来るっていうの!? ゴブリンすらまともに倒せないのに!)

「っ、でも」


 未練がましく「でも」と繰り返すユリに、わたしは焦る。

 ヤバい、このままじゃ本当にヤバい。

 周囲から、大量のマンティスが此処に集まりつつある。

 完全に包囲されたら……わたしが全力を出しても、逃げ切れるかどうか分からない。


(ユリぃ!)


 その間にも、オスカーさんたちの戦況は刻一刻と悪化している。

 オスカーさんが卓越した技術で攻撃を捌き、防いでいるから戦線は保たれている。

 が、討伐まで持っていくには圧倒的に火力が足りない。

 全員が守りに徹し、グレーテストマンティスが手出しをしていない今でこの状況なのだ。


 保たない。

 それがはっきりと分かる。


(早く逃げてッ!!)


 ユリは顔をくしゃくしゃに歪め、ようやく一歩を踏み出した。

 オスカーさんたちには申し訳ないけど、それでも、わたしが最優先するのはユリの生存。切り捨てさせてもらおうーーーー


「グァッ!?」

「ジョージ!」


 背後からの叫びに、ユリの歩みが止まった。

 止まってしまった。

 そうなればもう、動かない。


 そしてそこに、悪魔の声が響き渡った。


「おぉ? ここに分不相応のガキがいるじゃねぇか」


 ザカリーッ!!

 お前、一体何を!?





「丁度いいーーーーお前、死んで時間稼ぎしてこい」





 薄っすらと、裂けるように歪む唇。

 その酷薄な笑みは、狂気の色に濁っていた。


「そうすりゃオスカーさんたちは死ななくてすむ。ーーーー汚ねぇハーフエルフの血で人間様が救えるんだ、良い買い物だろう?」


「…………ぅぁ」


 ザカリーはユリに詰め寄ると首を掴んで持ち上げ、マンティスに向かって歩みを進める。


「気味の悪りぃスライムいるしな。良かったな、死ぬときは一人じゃないぜ。……なぁ、下等生物が」


 そして、わたしはブチ切れた。


(死ぬのはお前だ……粗大ゴミ)


 わたしの体から伸びた十の触手がザカリーの体を貫き、断末魔すら叫ばせずに飲み込んだ。


 後には、白煙を上げる白骨だけが残る。

ユリ「ノ、エル……?」

ノエル「ごめんユリ。けど、ユリが死ぬのは我慢できないんだよ」


【夜目】

パッシブスキル。ゴブリンを捕食したことで入手した。夜であっても視界を確保できる。

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