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スライムなめんなっ  作者: 月乃 綾
本編Ⅰ:森の蟷螂
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7話

 四トントラックにはねられたらスライムになっていて、最弱魔物だって絶望したけど実際は結構強くて、調べてみたら魔王と同じ種族だった。

 何言ってるかわかんないと思うけどわたしもわかんないから安心して良いよ。


 とにかく、わたしって実はヤバいヤツだったってことだけ分かってればそれでいい。


 もうそいうことにしといて。お願いだから。調査に巻き込まれただけでもアレなのに、主人公補正はお腹いっぱいよ?


 ちなみに、その後何日か資料室に通って魔王アリエルについても調べねみたけど、大したことは分からなかった。


 分かったことといえば、およそ二千年前に実在し、大災厄を振り撒いたということだけ。


 その正体については、



 過去の文献を元にすれば空色スライム。


 活動した場所を考えればドラゴン。


 破壊の痕跡を見れば毒を用いる系統の魔物。


 長命種の口伝によれば魔人族。


 血液に触れた相手が死亡したなんて記述もあることから、吸血鬼などという説もある。



 ってな感じで、よく分からないのが実際のところらしい。ただ、空色スライムが目撃されていないのは事実なので、わたしが魔王アリエルの同類なのかどうなのかはともかく、特殊進化個体ユニークに近い存在であることは確かなようだ。


 そして気になる大災厄だが、これまたさっぱり分からない。資料が一つとして残っていないのだ。

 いろいろな文献に当たってみたが、全てが口を揃えて『大災厄によって世界は崩壊の危機に陥った』と、ただそれだけ。

 魔王アリエルが何故滅びたのか、大災厄はどのようにして終わりを告げたのか、その後どうなったのか。何一つとして分からない。

 確かなのは、世界は滅びなかった。

 それだけだ。

 もうここまでくると人為的な何かを疑うね。


 だからと言って何ができるわけでもなく、資料室での調べ物は終わった。


 結局、魔術は使えるようにならなかったよ……残念。




   ◇◆◇




 宿。

 体とベッドを綺麗にした後、ユリがわたしを抱えながら横になる。


 最近のお風呂事情は、ユリは裸になってお湯で体を拭き、その間にわたしが服を綺麗にする。そしてその後わたしが仕上げとついでに水気を飛ばす、という方法に落ち着いている。

 ユリ曰く、暖かいお湯で体を拭くのも気持ちがいいから、だそうだ。


 だが、そんなことはどうでもいい。


 大事なのは、そう。


 ユリの素肌を堪能できるようになったのだ!


 わたしには【犬の嗅覚】があるから、まずは服でユリの臭いを堪能できる。

 そしてその後、全身を撫で回すことができる。


 二度美味しいのだ!


 老廃物とか角質とかはわたしの養分になるので一石三鳥である。

 ぐへへ。




 魔王アリエルのことを調べ始めて一週間ほど経った夜のことだった。


「ノエル」

(なに〜?)


 うつらうつらとしだしたわたしの耳に、ユリの声が届く。


「……えっと、魔術、使えるようになるといいね」

(そうだね〜。魔術が使えれば、もっとユリの役に立てるかな)

「ふふ、今でもすごく助かってるよ」


 ユリはわたしの言葉にクスリと笑みをこぼした。


「…………」

(…………)


 ちょっとした沈黙。

 わたしは、こちらをじっと見つめるユリの瞳を見て、本題が別にあることを悟る。

 ユリが言葉を整理するのを待つ。


「ノエルは、さ」

(うん)

「力が手に入ったら、どうするの? 今よりももっともっと、強くなれたらの話ね」

(ユリと一緒にいる)


 即答だった。


『お姉ちゃん、こっちこっち!』

『もう、待ってよ……優理ゆり


 地球にいた頃の、ちょっとした記憶。

 ある意味、あの時のやり直しとも言える今の生活。

 この、何でもない日常を、二度と奪われるわけにはいかないのだ。


(ずっと、ず〜っと、ユリといる。ユリがボクのことを嫌いになったとしても、一緒にいるよ)

「……もう、わたしがノエルのことを嫌いになるはずがないでしょう?」

(……そっか、えへへ)


 ありがとう、ユリ。

 でも、あなたがわたしの内面を知ったらどう思うのだろうか。

 わたしはユリが思っているような存在じゃないけれど、それでもそう言ってくれるかな。

 その思いは、ユリには伝えない。

 伝えられない。


「ノエルはわたしを守ってくれるけど……わたし以外の人のことも、守ってくれる?」


 そう問いを発したユリの表情は真剣で、わたしは思わず言葉に詰まった。

 結果、出てきたのは、誤魔化しにも近い言葉。


(…………なんで、そんなこと聞くの?)

「わたしにも守りたいものがあるからだよ」


 きっと、ユリは不安なんだろう。

 わたしがかつて存在した魔王と同じ存在かもしれないと分かり、無条件に味方だと判断していた前提が崩れたのだ。

 だから、わたしの口から、それを保証する一言を欲している。


 さて、どう答えたものか。


 正直に言えば、わたしにとってのユリの命は、この街に住む人々全員の命を天秤に乗せてもつり合うことはない。


 生まれ直した命、二度目の生。

 そこで再び得た護るべきもの。


 見ず知らずの他人が何人集まろうが、比べ物にならないくらいその存在は重いのだ。


 けれど、それを伝えるわけにもいかない。伝えても、ユリは困ったように笑ってはくれるだろうが、喜びはしないだろう。


 だから、わたしはーーーー

ノエル「……(なんて伝えよう)」

ユリ「じーーーー」

ノエル「……(心臓バクバク)」


【貯蔵】

アクティブスキル。【吸収】で体内に取り込んだものを異空間に収納できる。なお、異空間内は普通に時間は経過する。


ユリ「じーーーーーーーー」

ノエル「えっとね、次回まで待って」

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