とある女神の復讐
「すまない」
彼―わが国の王子はそういい深く頭を下げた
「いいんです。・・・わかっていたことですから。」
私は7歳の時、彼と婚約した。理由は私が王国で一番の力を持つ魔道貴族だったからだ。
最初は決められた恋路や王子妃になるための勉強にうんざりもした。
ただ、10年彼と共に過ごすうちに、私は彼を深く愛するようになっていた。
だが、あっけなく彼との繋がりは絶たれることとなった
近年勢力の拡大が著しくなっていた隣国にその国の皇帝の娘を彼の妻とすることを求められたのだ
教会により一夫多妻は悪しき行為と定められている為に、私を第2妻とすることは事実上不可能
彼は私との婚約を解消するしかなかった
彼に恨みは無い
私の学んでいた政治学の中でも最良の選択だといえる
でも・・・
「・・・忘れないでください。私はあなたを愛していますから。」
彼が愛してくれる必要はない
でも私が彼を愛することぐらい・・・良いでしょ
それからの私の人生は苦難の道のりだった
王子に見捨てられた私は家の穢れとして勘当された
武家のような気質の家は政治には疎く、姫として相応しくないような人間だったと勘違いされたらしい
その後は高い戦闘能力を買われ、長年の敵国との最前線に送られ、珍しい女性兵士としてセクハラを受けたり、いじめを受けたりした
そんなある日、小太りの直接ではない上官に呼び出された
またセクハラかも、とため息をつきながら近くのバーに向かった
そこで久々のワインを飲みながら気持ちわるい口説き文句を聞き流す
伊達に魔道貴族の娘として生きてきたわけでは無いのだ
口説き文句など聞きなれているしなによりもう手が届かないとはいえ愛している人がいる身だ
「で、本題は何ですか?」
わたしはいい加減飽きて、そうたずねた
「キミは、王子を恨んでいるか?」
あきれて物も言えなかった
「王都では君を捨て、海外の皇女を迎え入れた王子に不信感を持ち、君を中心に反乱を起こそうと企てている」
「なるほど。これは尋問というわけですか。」
わたしはいっそう気を引き締めた
だが、彼は一瞬眉をひそめ、すぐに
「いや、まさか。」
と言った
「それともまさか・・・勧誘?」
「恐れ入った。」
彼は姿勢を正した
「サッチャー・ホイットニー様、あなたのお力を貸していただきたい」
彼は普段の不遜な態度を一変させ、頭を下げた
「・・・ふざけている様ではなさそうですね。」
「では・・・」
「ですがあえて言います。ふざけないで下さい。」
彼は頭を上げた
「姫様!」
「だまれ!!」
嘆願するような彼の声を怒鳴り声で遮る
「仮にも私は元姫。殿下を敬愛する気持ちは我が国のいかなるものにも負けぬつもりです。」
私はそこで短剣を抜き、彼の首に短剣を突きつけた
「私が殿下に謀反をおこすなどたとえ洗脳されどもありえませぬ。そなたが殿下に矢をいるというのであるなら・・・いまここでかきとる。」
それからしばらくして、敵国は戦争を起こした。
当初はこの国が圧倒的に優勢だった。
だが、最前線の指揮官の裏切りで状況は一転、砦は孤立することとなった
これは敵国の工作員によってそそのかされたのだと言われている
だが孤立しても、城に絶望は訪れなかった
「雷女神」サッチャー
それは、戦場にでれば屈強な戦士をダガーのみで一切近づけず
杖を振るえば深き闇とその怒りを体現するかのように雷が天から地へと駆けた
その様は女神というよりも怒れる竜のようであったという
その武勇は本国へと伝わり、士気を高めた
王子自らが指揮を執り、王国軍は遂に侵攻を食い止め巻き返した
戦争開始より3ヶ月
砦を奪還したことで、王国は一応の戦果を見て講和を行った
戦争は早く終わりを告げた
講和は、王国にかなり有利な条件となった
その2ヶ月後
王都にて、王子が総指揮官として「雷女神」を表彰する、という噂が流れた
そして、砦の指令に任命するとも
「今朝も良い天気だな」
王子は呟いた
戦争終了から二ヶ月
全軍が帰還し、僅かな休暇を終え、戦勝の祝いが行われる日だった
皇女はいない
彼女の母国と今回の敵国には秘密同盟があったことがわかり、彼女自身も内通していた可能性があるため、「一度くぐったら外には出られない」と噂される牢獄塔に収監された
そんな朝には似つかわしくない、ドタバタという足音が聞こえた。
「殿下!」
ドアを開けたのは兵だった
血相を変えており、ノックも声かけもしていない
ふつうなら、無礼者と叩き出されてもおかしくないところだが王子はそうはしなかった
これほど血相を変えるほどの一大事とはなんだろうか、と気になったのだ
「何事だ!!」
「『雷女神』が・・・、サッチャー様が亡くなりました。」
「は!?」
王子は驚きのあまり間抜けな声をだし、そして顔面を蒼白とし、崩れ落ちた
「なぜだ!?まさか暗殺・・・?」
「いえ・・・」
兵は否定した
だが歯切れが悪い
「自殺、です」
「っ!!」
王子は驚きのあまり、声も出さなかった
「これが、遺体のそばに・・・。恐らく王子様に向けての遺書かと」
手紙にはこう記されていた
親愛なる王子へ
会うことが出来なくなってから長いですが、いかがお過ごしでしょうか。
あなたにこの手紙が届くということは、私は既に深きねむりについているのでしょうか?
勲章を頂けるというのに無礼な真似をしたことを深くお詫び申し上げます。
今回の件で、私の存在が王国の、そしてあなたの甚大な危機となることがわかりました。
私があなたに叛意を抱いたことはありませんが、洗脳などをされれば私はあなたに向けて杖を振るいかねません。そして、民衆は私を担ぎ上げ、反乱を起こすでしょう。
しっかりと勉学に励み、立派な王となってください。
さいごに
いつまでも愛しています
S.H
翌年より、王子は毎年砦を訪れたという
そして、王となった彼は非常に思慮深く「賢王」とよばれた
だが、彼は口癖のように自らを愚王と罵り、一生后を作らなかった
9/13・14日、一部改稿しました
9/17、大幅改稿しました