朝のワルツ
久しぶりに映画を観よう。午前4時、ようやく長い夜が明けたかのような気分で弘毅は枕カバーを剥がしカゴに放り投げる。そして緑色のチェスターフィールドの上に山になっている洋服たちを別の場所に追いやりブラシをかけてゆっくりと座った。
おっと忘れてた、プレイヤーのデジタル表示に余剰テープを張りカーテンに隙間がないことを確認し、リモコンのボタンを指にそっと感触を感じながら押した。弘毅は映画が好きだ。此れまでの一切の自分の経験を捧げて観る。時間を止めて。
しかしそれは期待するものではなかった。今日は特別な日なのに、愚痴りながら時間を再生しそそくさと洗面台に行って手を洗う。手は念入りに手早く洗う。ここではその手順は省かせて頂くが、それは職業病と言っていい。それにしても苦痛な闇だったとへきへきとしながら次は着替える。急がねば。
そうなのだ。今日は特別な日だ。四十歳手前の一年が始まる今日、格別な一日するのだ。さっきの二時間前後を忘れて車に乗り込む。冬晴れ、ツンツンした澄んだ空気に溶け込みたい。海岸線を走るのだ。さ、あの娘のもとへ行かなくちゃ。弘毅はメロディーをつけて口にした。一月二十九日