番外 吸血城のウィローハ
世界で起きる奇妙な現象
最近、あちこちで奇妙なことが起きている。どこからとも無く異国の装束を纏った人間が現れるのだ。
その人間は『ニホン』なる国から来たと証言するが、どの学者もニホンについて知る者はいない。また、とても強く、やけに女性にモテる。
果たして彼らは何者なのか。それについて警鐘を鳴らして回る黒いドラゴン使いもおり、事態は混迷している。
番外 吸血城のウィローハ
パラペラ城よりはるか西。そこには吸血城として慕われている古城がある。美しい吸血鬼の城主が、モンスターや盗賊から近隣の村々を守ってくれているのだ。
また、お祭りにも協力してくれる。
吸血城に近い村では、ウィローハ、夙夜達の世界でいうハロウィンの時期になると夕方にあるものが村を歩き回る。
城主の手で工事が行われた石畳の道を、首無しの騎士が馬で練り歩く。首無しの騎士は剣の他、腰に丸めた羊皮紙を差していた。
馬車を引いており、そして、橙のカボチャを掲げた家を見つけると、馬から降りて馬車の中を探る。そこから袋を取り出し、家に向かった。
丁寧にノックして、首無しの騎士は返事を待つ。扉が開かれると、騎士は手にした羊皮紙を広げて、そこに文字を出現させる。
《こんにちは。お菓子を配りに来ました》
「あらあら、サマリーさん。わざわざどうも」
出迎えたおばさんに丁寧に挨拶をして、首無し騎士のサマリーは袋を渡す。羊皮紙に文字を浮かべる魔法は、羊皮紙に特殊な加工をしているわけではない。
この世界に紙は羊皮紙しかないというわけではない。木から紙を作る技術は昔からあり、むしろ羊皮紙の方が最近の技術だ。しかし、魔術的な物なら羊皮紙の方が定着しやすい。
サマリーは首が無く喋れないため、魔法で文字を書いて意思を示す。その時、レスポンスが早いのと使う魔力が少なくて済むので羊皮紙を好んでいるのだ。
「毎年ありがとうね」
《いえいえ》
サマリーの仕事は、ウィローハの前にお菓子を配ること。ウィローハの時期は霊の動きが活発になり、自分の家に子供の霊が来ると幸せになれるという言い伝えがある。幽霊の仮装をして家に来る子供達にお菓子を配るというのがこの周辺の習わしとなっている。
子供達に配るお菓子を、サマリーが事前に支給する。これも、吸血城の城主の好意だ。
「今年もウィローハなんだよ」
当の吸血城では、城主が飾り付けをしていた。蕪をくり抜いて作ったランタンをあちこちに吊るしているのは、銀髪を伸ばした少女。
幼い見た目でも、齢100を軽く超える吸血鬼、『ティル・フォルクス』。龍の紋章を掲げる、伝統ある家系の当主。
「ん?」
そんな彼女に近づく影があった。見慣れない黒い服、それが『学ラン』なるものだとはティルも知らなかった。
村人なのか。だが、村人は易々とここに近づいたりしない。今でこそお祭りの手伝いをしているが、昔は吸血城といえば若い娘を定期的に要求する暴君の城であった。
ティルが城主となってからは、モンスターや山賊を串刺しにして、村を守ってくれてはいるが、今度は違う意味で恐れられている。
「ああ、ここは城なのか?」
穿池夙夜に次ぐ新たな『招かれざる客』が姿を表した。
魔界のシルバークロス
全24話、打ち切り。『メビウスリング』で連載していた小説。
男子高校生、大町涼斗が悪魔、ティル・フォルクスと出会うことで始まる、人間と悪魔、天使を巻き込んだ共存の物語。