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番外1.パラペラ城の日常

 「私の力を甘く見過ぎたようだな、あの世界は……」

 「ならば、この世界を手中に収めてみせよう」

パラペラ城の兵士達の朝は早い。日の出と共に起きるのが日課だ。数少ない女性兵士と多くの割合を占める男性兵士の寮は分けられている。

寮は城の中にあり、独身や親元を離れて暮らす兵士が利用する。場所が分かれているだけで男子寮も女子寮も構造は同じだ。

パラペラ城の二階に女子寮が存在する。兵士限定ではなく、基本的に寮は住み込みで働く者が使う。エディの部屋はベットと机、クローゼットがあるだけのシンプルなインテリアだった。

「ん……」

朝日がカーテンの隙間から漏れ、エディは目を覚ます。ベットから起き上がると、鎧に着替えて城を出る。移動は基本ダッシュ。兵士が無駄に疲弊しないよう、士官学校を卒業した兵士は基礎訓練などを行わないが、個人でトレーニングすることはある。エディの場合、普段の移動をトレーニングに回している。

今日の持ち場は街のパトロール。店が開く前から朝食前に見回りを一通りしたかったのだ。朝なら走っていても曲がり角などで誰かにぶつからないし、走れば早く周れる。鎧を着て槍を手に街を走る。これを毎日すれば有事の際にも同じ行動が出来るだろう。

城下町は学校や役場などがある中心街、その隣にあるのは飲食店や八百屋などが軒を連ねる商店街、そこを通り抜けた先にある職人の集まる工場街、郊外に設けられた畑などで構成される。

街を巡り終わると、店が開く時間になる。職人などは朝食を店で済ます者も多く、7時くらいには店が開く。

「さて、今日の朝ごはんは……」

兵士たるもの、食事は大事。城の食堂もあるものの、エディは臣民との顔合わせも含めてここで食べることが多い。

パラペラ城の兵士は軍隊、というより警備員という趣きが強い。そのため、規律でガチガチに縛られているということも無い。

選んだ店はパン屋。サンドイッチが美味いことで有名な店だ。そこに入り、朝食を済ませることにした。

「お、エディちゃん。今日はここかい」

「はい、今日は卵サンドの日ですから」

日替わりのサンドイッチが目当てだったりする。エディは他の兵士以上に、臣民からの信頼も厚い。こうした日々の暮らしが、エディの人気を支えている。


朝食を終えたら、また見回り。昼になると職人は働き、子供は学校にいるので意外と人通りは少ない。中心街を外れた場所でも、石畳で整備したのは地中を潜るモンスターに浸入されないようにするためだ。

この付近にはそんなモンスターなど生息してはいないが、万が一新種が現れたり外来で出現した場合、備えが無いとあっという間に壊滅しかねない。無能な政治家ほど安全対策を節約と謳ってギリギリで行うが、安全対策というのはやり過ぎるくらいがちょうどいい。

こんなこともあろうかと、と言えて初めてまともな安全対策と言える。この帝国は、皇帝ならば『こんなこともあろうかと』と言えることが代々美徳とされていた。

シフトが同じだったのか、エディはシェードとバッタリ出会った。

「おや、エディさんじゃないか」

「シェード、あなたも見回りですか?」

シェードはエディと同期に入隊した兵士だ。幼なじみのジョンとは、また違う関係の間だった。

「ええ、ちょっと石畳の確認を。結構何も無くても痛むんでね」

シェードの様に、町の設備をチェックするのも兵士の仕事。設備が役に立たないと、なまじあるものと思って行動する分被害が拡大する。こういうのも大事なのだ。

変えなきゃいけない石畳にチョークで印を付け、地図に位置を書き込む。毎日のこまめなメンテナンスがパラペラ城下の安全を守るのだ。

二人が石畳を見て歩いていると、臣民が慌てて走ってきた。臣民は兵士の顔を知っているので、困った時は気軽に声をかけてくれる。

今回は気軽に、というわけでもないらしい。やけに切羽詰まっていた。

「大変です! 噴水広場の前で爆弾石を持った男が!」

「なんだって?」

エディは臣民の口から出た爆弾石という言葉に戦慄する。魔力を込めると数秒で爆発する、採掘に使われる石だ。そんなものが町に持ち出されれば、当然危険。

エディとシェードが急いで噴水広場に向かう。中央に噴水がある、城下町の中心部だ。昼間でも人通りの多い場所で、爆発など起きては惨事が避けられない場所なのだ。

「あそこか!」

シェードは噴水に腰掛け、爆弾石を抱える男を見つけた。一抱え分ある爆弾石は、男が木っ端微塵になるだけではすまない威力だ。

「男は炭鉱に爆弾石を運搬する最中、宿を取りました。爆弾石は兵舎で管理したのですが、そこにいた兵士が突然気を失ったとのことです」

兵士の一人が状況を説明する。男は外から来た運び屋だ。屈強な兵士が気絶するとは、何らかの魔法、それもかなり強力な術者によるものではないかとエディは踏んだ。

「セアルチ! もしや、操りの魔法か?」

エディは魔力への反応力が高い。男の周りの魔力から、操りの魔法を掛けられていると判断した。魔力分析の魔法、セアルチで分析して確信した。確かに、犯人は高位の魔術師で間違い無い様だ。

「操りか、なんのつもりだ?」

エディが広場の石畳を見ると、何かペンキで描いてあった。それは、白の教団のマークであった。

「白の教団? 操りの魔法は確かにイタズラで使えるものではないが、奴らがそんな真似するか?」

エディは犯人の狙いを考える。白の教団はパラペラ帝国と同盟を結ぶ宗教。ただし、国教指定が狙いではなく、単に庇護下に置かれることが目的で教団も医療技術を帝国に提供している。

協力関係も良好で、最近では教団関係者と臣民が親密なこともあり、打算抜きで付き合うことも増えた。

「これは、手紙か?」

そのマークの中央には、手紙が置かれていた。そこには、なにやら要求が書いてあった。

『隣国に攻めこめ。さもなくばここで爆発する。妙なことをすれば即座に爆発させる』

目的はパラペラ帝国を隣国に攻め入らせること。これはなんのつもりか、エディには犯人の目的がわからなかった。

元々野心も無い白の教団にはこんなテロをやる旨味は無いはずだ。

「十中八九、白の教団と我が国の関係者を危うくするためのものでしょう。白の教団の技術を狙う輩はいるはずですから」

シェードは白の教団ではなく、両者を陥れようとする第三者の犯行と推測した。教団が謀略の苦手な組織であることをシェードは知っていた。

「とにかく、被害が出ない様にしましょう。避難は済んでますね?」

エディは臣民の避難を確認し、爆弾男をなんとかすることにした。このままでは、街が破壊されてしまう。人的被害が出なくても、街の破壊は復興に時間が掛かるため避けねばならない。修理中にモンスター来られても困る。

「仕方ない。すごく遠くからあの男を魔法で撃ち抜いて止めるか」

仕方ないので、男を犠牲にする方向で対応することにエディは決めた。人命は尊いが、エディは兵士として同じ人命なら臣民を優先する。意外にドライな人なのだ。

「隊長殿に連絡しよう。操りってことは自律型ならかなり遠くまで行けるが、脅迫文を見る限り、最悪この近辺で操作していると見ていい」

脅迫文には『変な真似したら爆発』と書いてあった。時限式でもなければ条件付けとない。常に最悪を考えるという意味でも、術者が近辺にいるとエディは仮定する。

(いくら操りでも、感覚までは共有出来ない。術者は男が見える位置にいるはずだ。見えないとこから撃とう)

エディが対策を考えていると、シェードがいきなり男へ向かって走り出す。何を考えているのか。

「シェード? 何を!」

シェードは男から爆弾石を奪い取り、垂直に投げた。男を操っていた人物にも想定外だったのか、抵抗がなかった。そのまま彼は男を連れて噴水を離れる。

「伏せろ!」

シェードの指示で周りにいた兵士がエディを含めて伏せる。さすがに男が爆弾石に魔力を込める時間だけはあったようで、石は既に魔力が込められており爆発寸前だ。爆弾石はしばらく空を舞い、上空で爆発した。

「む、無茶な……」

「私は兵士として、国に来てくれた人は無事に帰したいのですよ」

エディが咎めると、シレッとシェードが立ち上がる。シェードは国を訪れた者も守りたかったのだ。

無論、危険な単独行動だったためシェードは皇帝直々にコッテリ絞られた。

 「どうやら、この世界の技術や人間を使っていては埒が明かないらしい」

 「この世界には『人の名を背負いし者』がいないらしいな」

 「あれを試すか」

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