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2.パラペラ城お宅訪問

 ?「ねぇ遊人。秋人さんの遺品からゲームが出てきたんだけど」

 ?「記念すべき第一回目のお家デートで元カレの遺品の話かよナンセンスだな。ん? このフュギュアと周辺機器はまさか……!」

 ?「そのまさかよ。サモンライド」

 ?「外れなさそうな題材から出た核地雷引き当てるとかどんだけ不運なんだあの人! しかもかなり追加でフュギュア買ってんじゃん! 見ろよこのカタログ! ファイズの所にめっちゃマーキングしてんのにファイズのフィギュア無ぇ! 生きてる間に買えなかったのか?」

 ?「秋人さん、あなたのたどり着けなかったエンディングは遊人が達成するからね。ドライブだけで」

 ?「無理! おい待て、なんか俺の足元にライドゲート的なものが……、お、落ちる!」

 「どうやら第一号達が降り立った様だな」

 暗闇で威厳に満ちた声が呟く。夙夜に『龍の翼』を使わせた張本人は、水晶玉に映る景色を見て考える。

「次はどいつらにするか。自分の世界に不満がある奴はいくらでもいる。が、第二号だ。毛色を変えてもよかろう」

 その人物が目をやった水晶玉には、友人と話す大学生くらいの青年が映る。

『就活か。どうしたものかな』

『朝凪は旅行のガイドブックでも作れば?』

「朝凪一機。よし、『人の名』は背負ってないな。奴にしよう」

暗闇に潜む黒幕は、次なるターゲットを見つけた。それが破滅への道とも知らずに。


パラペラ城 医務室


 何とかエディを助け出し、城にたどり着いた夙夜は医者にエディを預けていた。医務室にはいくつかベッドがあるが、今はエディ以外に使っている気配は無い。大量の兵士を救護する想定なのか、広い部屋である。

夙夜の予想通り、エディが案内しようとしていた城はファンタジーかRPGの世界にありがちな石造りの城だった。門番もいたが、夙夜が城の近くの町に来た辺りで兵士に出会い、エディを見た兵士が案内してくれたのだ。医務室も石の建物だとわかる壁になっており、夙夜には靴を履いたまま上がる建物が新鮮だった。

 「なるほど、ポイズンスライムの毒ね」

医務室に詰めている医者は栗色の髪をした女性だった。医者という割には黒い革のナース服を着ており、なんで素材だけ違うのに形状だけ自分の知っているものなのか、夙夜は気になった。

森で会った少女が言った様に、この医者は薬を見ると行うべき治療を理解した。あの薬はこの地域だと有名なのか。

「でもなんであいつ、俺が城にいくこともポイズンスライムに襲われたこともわかったんだ?」

「さぁね。でも君凄いじゃない。戦闘初体験でポイズンスライムを、しかも中に取り込まれた人を助けて倒すなんて。中々出来ないよ」

「そうですか?」

「見たことない服だけど、どこの国から来たの?」

美人な医者に褒められて悪い気はしないので、夙夜はついつい話しをしてしまう。

「信じられないかもしれないですけど、俺はこことは違う世界から来たみたいなんです」

「違う世界?」

「コンビニのトイレに入ったらいきなりここで」

「コンビニね……。得体の知れない武器を使うくらいだし、有り得るかも」

医者はその話をあっさり信じた。夙夜にとっては意外過ぎるほどにだ。コンビニについても言及はしなかった。

「そうだね、そこに戻ることが目的なら、まずは長期滞在を見越してこの国で住居を確保するんだね」

医者のアドバイスは気の長いものだったが、ここにどれくらいいることになるかわからない限り、確かに必要だ。

「私はイヴ。この国で兵士を専門に見ている雇われの医者よ。君は?」

「俺は穿池夙夜」

自己紹介をしていると、バタバタという足音が聞こえた。夙夜にとって、それは聞き覚えのある忙しい足音だった。

「エディ! 無事か!」

「あら、ジョンさん。エディなら無事ですよ」

医務室に入ってきたのは、茶髪の男性だった。歳は夙夜と同じくらいか。足音は数人を連想させたが、あまり姿は似ていない。

「よかった、あいつが怪我なんて珍しいからさ。慌てちまったよ」

ジョンと呼ばれた男性は息を切らしていた。この人は一体何なのか、夙夜は様子を見ることにした。着ているローブの装飾から、ある程度高い位なのは想像がつく。

「この人は城の学者のジョン・アロウズ。皇帝御付きの学者なんだよね」

イヴによると、ジョンはそれなりの地位にいる学者の様だ。夙夜は本能的に胡散臭さを感じた。ファンタジーものだと、こういう立場の人間が王族にいろいろ吹き込んで戦争になるのだ。

「君が、エディを助けてくれたのか。彼女で勝てないモンスターを倒すとは、なかなかやるな。例を言うぞ」

彼らの発言から、夙夜はエディが腕の立つ戦士だと知る。そんなエディにすら倒せなかったモンスターを倒せる『龍の翼』とは、恐ろしい性能を秘めた武器なのだとも。それは今、姿を消している。先程試したが、龍の翼は呼べばどこからともなく現れるものみたいだ。

「そうだ、この国の騎士団長さんが呼んでたから、行ってみるといいよ」

「そうですか」

ジョンに促され、夙夜は医務室を出て慌ただしく働く兵士達の所へ向かった。騎士達が詰めているのは城の中庭。石造りの建造物に囲まれていると圧迫感を感じるが、植えられた花がそれを緩和する。

 騎士団長と思わしき人物は鎧を着た大男だ。となりには部下らしき兵士もいるが、よくある顔を覆う兜をしているので顔は見えない。

「すみません。用ですか?」

「うむ」

第一印象からして寡黙で真面目そうだ。相対すれば威圧感を感じるだろうが、それを無闇に向けて来ることはない。

「私の部下が助けられた様だな。例を言う。奴に倒せないモンスターを倒すとは、期待出来そうだな」

騎士団長に思わぬ期待をかけられ、やれやれと夙夜は思う。帰る方法を探しているのに、厄介な話に巻き込まれそうだ。

「俺は帰る方法を探しているだけです。あまり仕事の手伝いは……」

「そう言うな、異国の者よ。しばらくここにいるのだろう? 報酬なら出す、安心しろ」

夙夜が帰ろうとしたところ、騎士団長の部下が勝手に話を進めた。基本、部下が団長の代弁をするのだろう。団長とこの部下の信頼は厚いのか。

「ここで暮らすにしても、パラペラ城のことは知っておいて損はない。団長は無口だが気遣いが出来る人なんだ。付いてきたまえ」

気遣いが出来るなら放っておいてくれと夙夜は思った。どうしてこう、自称気遣いが出来る人は何処の国でも強引なのか。


パラペラ城というのは略称に過ぎず、国の名前は『パラベラム帝国』。帝国とあるが、別に侵略国家ではない。帝国といえば悪役で侵略国家と考えるのは日本人の悪い癖だ。この帝国は単に、議会を開けるほど政治家に人員を割けないという事情があるだけだ。国民の声を無視することもなく、皇帝への謁見は国民なら誰でも可能で、わざわざ謁見しなくても目安箱で意見を投書できる。

「学校もあるのか」

「楽市令の前から読み書き計算が出来ない国民が行商に騙される被害が相次いだので、義務教育になりました。優れた人材も拾えて一石二鳥です」

城下町の案内は騎士団長の隣にいた部下、シェード・レンノフ。城下町は石畳の道が敷かれ、建物も石造りのものがたまにある。石の建物は区画の境界に当たる部分に並んでいた。石を積んで建てられた大きな建物は学校だ。

 この国では臣民は6年ほど基本的な教育を受け、そこから専門的な教育を受けて兵士になったり学者になったりする。先々代の皇帝が各地で頻発する子供の集団失踪の原因を突き止めた結果、こうしたシステムになったらしい。それはシェードもよく知らなかった。

「石の家と木の家があるな」

「小さな建物なら木の方が居住性が高いのですが、それが密集していると火事の時に被害が大きいのです。そこで、一定区間に石の建物を挟んで火事を広げない対策をしたのです」

そんなことするなら石で外観を作って中を木にすればいいのに、と夙夜は思った。だが、木は気温で収縮するので木以外の建材と混合して使うのは困難なのだ。諸氏も家の扉が冬になると開き難くなったりした経験があるだろう。木は気温で膨張したりするので、硬い素材と混ぜて使うと膨張した木材が圧迫されて割れることもある。木だけで使えば全部一緒に膨張するし、そこまで圧迫されないので問題ないのだが。

夙夜の国でたまにあるコンクリートと木の建物は木材の変化を綿密に計算した、ハイテクノロジーの塊なのだ。

「なんだこれ?」

「また白の教団か……」

建物には時折、何かのチラシが貼られていた。チラシには、龍のマークと共に『ヨガセミナー開催』などと書かれている。シェードは苛立ちながら紙を剥がした。

「白の教団?」

「我々の領土で騒ぎを起こしている新興宗教だ」

何処の国にも似たような問題はあるんだな。夙夜は人間の業を感じずにはいられなかった。夙夜の生まれた前後の時期に新興宗教が大規模な事件を起こしており、毎年特番が組まれるので夙夜は嫌というほど事件について聞かされていた。

町を夙夜が見学していると、マントを着込んでフードを被った人影が目の前をフラフラと歩いていた。壁を見ると、白の教団のチラシを剥がしている。

「ん、お掃除かな?」

シェードが様子を見ると、その人影は倒れてしまう。一体何事か。部下と夙夜はそこへ駆けつけた。

「おい、大丈夫か?」

「う……」

フードを脱がせると、白い髪をした女の子であった。日の光を見ると同時に、顔を覆って叫んだ。

「た、太陽は……太陽だけは!」

「どうした?」

シェードは急いでフードを被せ直す。女の子の服装は肌を一切露出しないマントやコートによる重武装で、そんなに太陽が苦手なのか。

「そうか、アルビノか」

「アルビノ?」

シェードはあることに気づいた。この女の子はアルビノなのだ。アルビノとは色素が先天的に欠乏している状態である。色素が無いため紫外線への耐性が低いのだ。人によって差はあるが、彼女の場合は極端に耐性が低いのだろう。

「これだけ厚着だと熱射病になるな。日陰へ連れていこう」

シェードと夙夜は女の子を日陰となる裏路地に連れていく。石の建物に囲まれた裏路地は冷たくて暗いので、ここならフードも取れる。

女の子はフードを脱ぎ、シェードから差し出された木をくり抜いたコップで水を飲んでいた。顔が日に焼けたのか、少し赤い。

「ふぅ、すみません。助かりました」

女の子は端正な顔立ちで、白い髪も長かった。肌も白く、神秘的な可憐さがある。赤い瞳が部下と夙夜を交互に見る。

「アルビノなのか。この城下町ならアルビノ狩りが規制されてるし、夜も兵士が出歩いているから安心して暮らせるだろ」

「それは安心ですね」

この女の子は何故白の教団のチラシを剥がしていたのか。夙夜はそれが気になった。

「白の教団のビラを剥がしてたのは、掃除をしてたからなのか?」

「え? あ、はい、お掃除です。夜中だと手元見えないですし」

ということはこの辺りに住んでいるのか。糊の質が悪いのか、壁にはベッタリとチラシの痕が残っていた。

「名前は? 私はこの辺りを警備しているシェード・レンノフだ」

「私はハクアです。家名があるなんて、レンノフさんは高貴な方なのですね」

女の子はシェードに返して自己紹介をした。ハクアというらしい。シェードは勝手に夙夜も紹介した。

「こいつは新入りのウガチ・シュクヤだ。覚えてやってくれ。こいつの国では家名が頭に来るから、名前はシュクヤだな。公僕なんぞ名前で呼んでくれ」

気のいい人なのか謙虚なのか、シェードは呼び捨て希望だった。シェードはまた話を勝手に進める。

「困ったことがあったら近くの兵士に言うんだぞ。常に臣民を助けるよう、教育してある」

「わかりました。では、私はなかなか外に出られないのでこのチラシを見つけたら剥がして下さい。お願いできますか?」

「お安い御用。町の美化も我々の仕事ですから」

シェードがチラシを剥がしてくれるというので、ハクアは安心した様に笑った。

ハクアがもう大丈夫なことを確認して、夙夜とシェードは別の場所の見回りに向かった。その時、兵士の一人が慌ただしく走ってきた。町も妙に騒がしい。

「大変です! トロールが町に侵入しました!」

「なんだと? あのトロールが?」

話によると、トロールというものが侵入したらしい。騒ぎの中心に向かうと、青い肌をした3メートルほどのやけにフォーマルな服装の巨人が町で暴れていた。服の胸元にはチラシと同じ龍のマークが印されている。

「おーい、巫女様、どこだよぉ」

「トロールが話してる?」

「うろたえるな! どうせ人間の言葉を意味も分からず真似ているだけだ!」

兵士達の話によれば、トロールはそこまで知能の無いモンスターらしい。ただ、このトロールが違うのは夙夜が見れば一目瞭然だった。よく夙夜の住む日本、そしてこの国でイメージされるトロールはアホ面だが、このトロールは知的な表情をしている。

「意味はわかっとるだよ。それより巫女様知らねか? 白い髪の女の子だよ。今は日が出とるで、マントかなんか着込んどるはずだよ」

「知るか、ここから出ていけ!」

兵士が剣を手に斬りかかるが、素手のトロール相手でも兵士が軽く吹き飛ばされる。強いモンスターなのは見た目でわかる。

「ポイズンスライムなんか比にならんぞ、ここは我々が引き受ける!」

シェードが走っていくが、案の定というべきか腕の一振りでぶっ飛ばされた。夙夜は仕方ないので戦うことにした。

「やれやれ、面倒だがやるか」

夙夜は龍の翼を出した。本当に『出したい』と思っただけで手元に出現した。初めて出した時の様に、柄などの媒介も不要だ。

 そのまま走ってトロールへと向かう。このトロールが口にする話が気になる。探し人の特徴が逐一ハクアと被る。巫女などと言って、こちらを騙してアルビノ狩りの片棒を担がせる気なのかもしれない。

「ああ、お前異国の人だな。なら巫女様見なかったか?」

「見たぞ、さっきな。裏路地で別れた」

トロールに対峙した夙夜はアッサリとハクアのことを話した。これには兵士もビックリする。兵士やシェードは派手にぶっ飛ばされた割に、ダメージは少なそうだった。

ツッコミを入れる兵士に対し、シェードは冷静だった。

「いや、ここでキッパリ『知ってるが教えない』と立場を示した方が長期的にはいいかもしれん」

「いいから教えるど! 巫女様は身体が弱いから一刻も早く見つけなければならないだ!」

トロールは焦っている様だ。夙夜の作戦は成功と見える。

「だが断る! お前なんかに教えた方が面倒なことになりそうだ!」

夙夜は龍の翼を振りかざす。そのままトロールに剣を突き出すと、ドラゴンの咆哮と共に炎が迸る。それを受けたトロールは体勢を崩し、後ろへ仰け反った。

「今だ!」

それを隙とばかりに、夙夜はトロールの背後に周り込んで首根っこを掴む。そのまま仰け反った姿勢を利用してトロールを地面に倒す。

「おお!」

「只者ではありませんね、彼」

兵士達からも称賛の声が上がる。トロールは状況不利と感じて撤退する。

「イテテ、とにかく巫女様見つけたら教団に連絡するんだど! 巫女様のお身体に何かあってはなんね!」

この状況でも巫女とやらを気遣っているらしいが、所詮トロール。自分のついた嘘がいつの間にか脳内で本当の事になっている様だ。

ドタドタと逃げ出したトロールを見送り、夙夜は自分が面倒なことに巻き込まれていることに気づいていた。


パラペラ城の医務室では、ハクアがエディのベッドに座っていた。未だ、エディは眠りについている。その側には、ジョンがいる。

「来てくれるかな? 私達の家に」

エディは眠ったまま反応しない。それでも、ハクアは話し続けた。その穏やかな表情は、神聖な女神の様であった。

「竜の惑星から直江遊人を、墨炎をこの世界に呼んでほしいんだ。この世界を救うために」

そして、エディの閉ざされた唇に自分の唇を触れさせる。すると、エディの身体から光の様なものが放たれ、弾けた。

「そうか、これが……」

ジョンはその様子を見て、何かを理解した。

また物語が動きだそうとしていた。

 モンスター図鑑

 トロール

 青い肌をした三メートルほどの巨人。本来は知能が低いようだが、今回パラペラ城に現れた個体は様子がおかしい。人間の言葉を理解し、会話が出来ている。

 ポイズンスライムといい、夙夜の目の前にはイレギュラーなモンスターばかり現れているみたいだ。

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