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プロローグ 異世界の騎士姫

 ?「あいつってこの世界の、この時代にいるんだよな。よし、仕方ないから探すか」

シピンの町


 「ここね」

 かつて賑わった商店街のアーケードは今、崩れかけの建物が連なる廃墟と化していた。まだ昼間なのに、どこか暗ぼったい。大型店舗の台頭で、小さな店舗は苦境に立たされていた。石造りの建物には蔦が絡まり、苔が生していた。

閉店した武具屋の前に、一人の少女がいた。オレンジの髪を伸ばした、顔立ちの整った美少女であった。暗いこの空間で唯一、その髪だけが光を放っていた。ドレスの様な鎧も相まって、高貴な身分ではないかと予想される。手にした槍も、輝きを放ち、特別な武器であると存在感を示す。騎士もする姫だろうか。

青い瞳で見つめるのは、武具屋の大きなガラス窓。中の様子がよく見える窓だが、中身は散らかっている。

「よっ、と」

少女はその店に入っていく。扉は立て付けが悪く、開け閉めに手間取る。その奥になんと、何者かが掘ったのか穴があるではないか。木の床をぶち抜いて、下に穴が彫られている。

穴は縦穴ではなく、下に向かって坂道になっていた。当然、明かりはない。

「エルス!」

少女が何かを唱えると、彼女の差し出した左手から光の玉が出る。その玉は少女の付近を漂い、彼女の歩みに合わせて動く。

洞窟の奥へ進むと、分かれ道があった。右の道を選んで歩くと、行き止まりだった。が、洞窟を広げんと働く何かがそこにいた。背の低い、犬の様な頭を持つ人型のモンスターだ。ランタンや弁当を置いて仕事に励んでいた。

「出たね。コボルト!」

コボルトは二匹。ツルハシやスコップを手に、少女へ飛びかかってきた。だが、少女は動じない。先に飛んで来たコボルトに向かって槍を突き出し、空中で串刺しにする。

「訓練が甘いよ、犬」

鋭い槍捌きで串刺しにしたコボルトを空中で槍から離す。心臓を突かれたコボルトは即死だ。相方の死を確認した残りのコボルトは少女の傍を通り抜けて逃げようとするので、そこを背中から刺された。

アッと言う間にコボルトは全滅した。彼女にとってはこの程度、何ということも無い。

「あれ? なにこれ?」

少女はコボルトが掘っていた場所を観察する。壁だと思っていた場所の向こうが、空洞のようだ。この目の前にある壁を壊せば、空洞の場所に行けるようだ。

コボルトの鼻は正確。少女は壁の奥に金から何かでもあるのかと思って、ウキウキとツルハシで壁を壊した。高貴な身分なのに随分俗っぽい部分だと幻滅することなかれ、大事なのはお宝の価値ではない。お宝を見つけたという事実だ。

ようやく砕いた壁の向こうから、獣臭い匂いが漂っていた。すえた匂いと、鉄の様な匂いの両方だ。お宝など初めからない。コボルトは臭いがした場所を掘っているだけなのだ。

「っ……。なんてもの掘ってんの?」

壁の奥にいたのは大量の牛や羊の死骸。そして人間ほど大きなジャガイモ。ジャガイモには目や口ばかりか手足さえあり、その手には自らのものと思わしき、剣の様な葉っぱが握られていた。

土から根らしきものが這い出して、正体を現す。

「さつじんポテト? 外来種がなんで単体で?」

植物の下には下手な家畜より巨大なジャガイモが潜んでいた。散らばる同種の死骸より、そして家畜のどれよりも大きい。そのさつじんポテトは鉄の剣を持っていた。

「しかも剣が……誰かの忘れ物?」

外来種とはいえ環境に広く適応できる種。少女も出現に備えて生態を学んでいた。さつじんポテトは自らの葉を剣として使い、人の家畜や行商の積荷を狙う山賊みたいなモンスターだ。集団で行動し、分け合うと少ない獲物でも生きられる、戦闘力以上に生命力の強いモンスターだ。

さつじんポテトが剣で少女に斬り込む。槍で防ぐも、想像以上にポテトの力が強い。そもそも、ポテトから相手の力を想像するのが困難なのだ。

 ポテトに弾き飛ばされ、少女は転んでしまう。

「あぁっ……! しまった!」

 さつじんポテトは転倒した少女に対し、上から剣を振り下ろす。幸い、尻餅を付く形で転倒したため、槍で攻撃を防げた。だが、重い剣を上から押し付けられては槍を支える肩が持たない

「う、ぐぅ……力が入らない?」

 彼女は自身に起きた異変を察知する。普段以上に力が入らないのだ。どこかを負傷したわけでもないのに、なにが起きたのか。

 「エルス!」

 少女は明かりの呪文を唱えた。彼女の両手から光が迸り、ポテトは剣を下ろして後退する。土に潜むさつじんポテトは日中の活動にこそ問題は無いが、突然の眩い光には弱いのだ。

 「ソルバルサ!」

 少女は槍の切っ先で後退したポテトを指すと、別の呪文を唱えた。すると、炎の帯が伸びてポテトを焼く。だが、ポテトの火はすぐに消えてしまう。生木は燃えにくいという話はあるだろうが、植物に炎系の呪文は効果的なはずだ。呪文さえも弱体化していることに少女は気づいた。

 「おかしな所が多い、ここは帰還しよう」

 撤退の判断を下せるのは本当に優秀な人間の証だ。情報を持ち帰るため、少女はポテトが光や炎で目を潰されている隙に逃げ出した。


 この日、バラペラ城に在籍する女騎士、エディ・ソルヘイズが体験した出来事はこの世界を揺るがす物語の始まりに過ぎなかった。

 異世界名鑑

 エディ・ソルヘイズ

 バラペラム帝国に仕える女騎士。国では一番の実力を持ち、冷静な判断で臣民の安全を守る少女。その腕前、生格、容姿により臣民からの信頼も厚い。

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