表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

門脇 体育祭

門脇(かどわき)、次の競技の機材運ぶの手伝ってくれねーか?」


「ねぇ!赤組がまた喧嘩してんだけど!」


「門脇先輩ー!

会長がパン食い競争したいって無茶苦茶言ってるんですよぉ…」


体育祭の総指揮をとるのは、本来生徒会会長の(さかき)

だが彼は競技に参加して自分の部隊を優勝させて、天下を獲るんだ!と相変わらずやりたい放題。

頼みの副会長の雨宮(あまみや)は、臨時で放送の総指揮をとっている。

なので、榊の無茶苦茶をなんとかするのは門脇の役回りだった。

会計兼イベント委員の彼が一番面倒な裏方を担当している。


「わかった!すぐ行く!」


当の本人は全く嫌がる素振りも見せず、むしろ精力的に飛び回っていた。

彼は誰かが困っているのを黙って見過ごせないのだ。自分のことよりも、第一に誰かのために動く。


「あ、門脇くん。

体育倉庫からフラッグ探してきてくれない?

たぶん一箱あったと思うから」


「わかりました!」


先生に言われ、体育館の横にあるプレハブに走る門脇。


「そーいえば、去年も同じことしてたなぁ」


門脇は部活動に属していないため(生徒会が忙しすぎて入れない)、この備品室であるプレハブに入ることはない。

だが、過去に入ったことがあることを思い出した。


初めての体育祭企画で、同じように奔走してた時。

備品室に野球ボールを取りに行ったことがあった。


初めて中に入り、電気をつけながら暗がりを進んでいくと、目当ての部屋の電気が付いていた。


――中を覗くと、誰かが棚に手を伸ばしている。

背を向けているので、良く分からない。

見ると、使わなくなった木箱に乗って、棚の上にあるストップウォッチの箱を取ろうとしている。

しかし木箱から、きしむ音がした。


「っ、あぶない!」


門脇は慌てて駆け寄った。同時に木箱が壊れ、彼女はバランスを崩した。


「きゃあっ」


あと一瞬遅ければ、落ちてきたストップウォッチの箱に当たっていただろう。


「いつつ……大丈夫か?」


女生徒を庇い、身を挺して盾になった門脇は背中をさする。


「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?!」


彼女の顔を見て、記憶を手繰る。

見たことのある顔…すぐにイベント委員と気付いた。


「いや、平気だよ、たいしたことない。

無事で良かった」


心底安心したように笑顔を向ける。彼女もつられて笑ってしまう。


「はい、ストップウォッチ。

えっと、確かイベント委員のミナミさんだったよね?

合ってる?」


「え?……あ、うん。

でも、あたしの名前、なんで知ってるの?」


がさがさと倉庫を探し周りながら、当然でしょーと言う。


「これでも生徒会役員だから!

って言いたいとこだけど、会議の時に出席してたっしょ?

名簿で見たけど、ミナミって名前珍しいよなー」


彼女は口を開けて驚いていた。

なんてことないように言っているが、体育祭の時に挨拶したのはイベント委員だけではない。

三十人は超える人数の中で会議は行われた。

名簿で見たと言うが、さらりと見ただけではとても覚えきれない。


この能力ゆえに、門脇は生徒会で役員を任されているのだ。


「あ、あたしも…知ってるわ。

門脇くん、だったよね?

生徒会役員の…」


彼女の頬がほんのり紅くなる。

が、門脇は彼女を背にしているので、その事に気付かない。


「お、嬉しいなぁ、覚えてくれてたんだ!

いや、会長の榊とか雨宮とかは、目立つから俺が霞んじゃうんだけどねー。

……んー、どこだ野球ボール…?」


「あ、あたしも探すよ!

備品整理は生徒会じゃなくて、イベント委員の役割でもあるし…」


「いいんだよ、俺が頼まれたんだし」


彼の笑顔は屈託ない。

嫌な仕事だとか、面倒だとか、全く思ってないのだ。

イベント委員は生徒会と共同で組むが、決定権がないので言ってしまえば生徒会の雑用係のようなものだ。

だから、そんな些末な仕事を本来であれば彼が請け負うことはない。


「でも…生徒会の仕事もあるのに…なにも門脇くんがやることないじゃない」


断ればいい。

会計の彼にはもともと仕事が山積み。

そこへ飛び込んでくる新たな仕事を、門脇は決して断らない。


…それでは彼が一番疲れてしまう。



「えー、だってさーみんな頑張ってんじゃん。


俺が頑張ってるの手伝えば、体育祭楽しくなるの手伝えるっしょ?

だから全力で頑張らないわけ、いかないでしょ!」


必至で真剣で、優しい。

彼の瞳は真っ直ぐだった。


ミナミは息を呑んだ。

彼がかっこよかったからではない。

自分が、先程まで面倒だとか迷惑だとか——『そう』思っていたから…。



「あたし、脚立、持ってくるね!」


「え?いいの?」


ミナミは笑う。先程の門脇の笑顔のように、真っ直ぐな瞳で。


「いいの!

あなたが頑張るの、あたしも手伝いたいから!」


彼女の直球な言葉に、一瞬驚くが苦笑する門脇だった。



彼がミナミと話したのは、これが初めて。

あれから一年、精力的に奔走する彼をミナミは先読みして手助けをしてくれた。

今では、彼にとって一番に頼れる……


「あ、やっぱりここにいたのね!

フラッグ頼まれたんでしょ?

そっちじゃなくて、こっちの部屋にあるわよ!

あたしも運ぶから手伝って!」


「お、ミナミ、せんきゅー」


いつの間に来ていたのか、かけられたミナミの声に門脇は嬉しそうにはにかんだ。


「なんつーか、女房役的…な感じ?」


誰にも聞こえないように呟いて、必至に走るミナミを追いかけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ