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今でも忘れられない。あのブレーキ音に、誰かの絶叫。激痛。一生私はこの記憶を忘れられない。それでもわたしは生きなくてはならないのだ。


「かわいそうってなによ!確かに私には足がない。だから何だっていうの!同情なんていらない!ふざけないでよ!!!」


目の前がかっと赤くなる。私の脚に同情した人間全員をにらみつける。怒りで体が沸騰しそうだ。

こちらに聞こえるように、最初からずっとこちらを見ながら噂話をしていた年嵩の女性を音がなるほどにらみつける。彼女は怯えたように数歩後ずさった。


「気分が悪いので、失礼致します。ごきげんよう!!!」


こんな小娘一人に怯える位なら最初から手を出すな!!!

ルインは怒りのまま飛び出し、遮蔽物の無い城内で思い切り車椅子のレバーを回す。

には両足が無い。生まれつきではなく、十歳のころ父と馬車の事故に巻き込まれて切り落とすしかなかったのだ。父は即死だったが、父に守られた私はどうにか生きていた。女の子なのにかわいそう、とか一生歩けないのなんてかわいそう、とか。そんなことばっかり言われる。その裏に、自分はそうならなくてよかった。そんな声が聞こえるようになったのはいつからだったんだろう。同情の声に、悲しみよりもどうしようもない怒りがこみ上げるのはいつからだったんだろう。

気がついた時には、すでにかんしゃく持ちの苛烈姫、と呼ばれていた。


「今回も見事な怒りっぷりだったね、ルイン!」


お茶会の場所を勢い良く飛び出し、苛立ちのままに車椅子を走らせる私に軽々と追いつきそのまま喋り続ける男は従者で幼馴染でもあるムーメイだ。


「うるさいわよ。私はもう帰るの。早く馬車の準備しなさいよ。」

「抜かりなく。そろそろお嬢様のボルテージが限界だと思いましたので、すでに用意させています。」


まったく嫌味なほど有能な従者だ。どうして好き好んで私に仕えるのかまったくもって意味不明だ。


「で?アンタはいつまで私に車椅子を動かさせるつもりなの?」

「ストレス発散にちょうどいいでしょう?」

「・・・・・・・・・。」


本当に嫌なほど有能な従者だ。


「さぁルイン、手をこちらに。」

馬車に乗るときはいつも抱き上げてもらう。そうしなければ私は動けない。


「きちんと座った?じゃあ出発しようか。」


私がしっかりと内部に取り付けられたベルトを締めたのを確認し、ムーメイは御者に合図を出した。

ゆっくりと馬車が動き出す。だが決して速くはない。馬車で事故にあい、一時は恐怖で馬車に乗れなかったほどだったが、馬車を小型にし、引く馬は老馬だけ。とてもゆっくりと走らせてもらうことでどうにか乗れるようになった。


「今回は特にひどかったですねぇ・・・」

「思い出すだけでイライラするわ!」


かんしゃく持ちの足無し令嬢、とうわさされる程だ。普通は、というか常識的な人間であれば避けるだろう話題を、都の貴族共は心底楽しそうに話す。性格が悪いったらありゃしない!

不機嫌そうに豊かな朱金色の髪を搔きあげ、鼻を鳴らす。


「さっさと家に帰りましょ。・・・お母様達が待ってるわ。」

「・・・そうですね。」


ルインは不機嫌そうに目を瞑った。少しでも体を休めるために。

その顔を心配そうにムーメイが見ているとも知らずに。


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