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26話 憧憬:アコガレ

- 足柄山某所 -


 先程の現場から僅か三百m程の距離を歩いた場所に変死体が倒れていた。

 いや、変死体……というより変質者にしか見えない敗残者である。


「おーい、大丈夫かーーい?」


「……もう、ダメだ……俺の屍を、越えて いけ……」

 返事があるので屍ではなさそうだ。

 そしてそんなネタを仕込む余裕があるのでまだ大丈夫そうである。


 そんな敗残者を見下ろしつつ極自然な疑問を尋ねる双子の護衛アマゾネス(妹)。

「あの? あれからいくらも進んでないのですけど?」


「たしか、魔法の靴のおかげで歩きには自信があるとか言ってませんでしたっけ?」

 などと問いかけながら途切れ途切れの、息切れまじりの言葉を聞き取る為に

 倒れ込んだ梅夜に耳を寄せる双子の護衛アマゾン(女装兄)。

 

「えっ? 先程の岩の上からの登り下りで体力が尽きた?」


 それを聞いて呆れ返りながらも『もう、しょうがないな♡』 っと、梅夜の鼻先をチョンと突つく。

 このような無様な有様にも寛容に可憐な微笑を掛ける美少女がそこにいた。


 それを息がかかりそうな程の距離で受けて、

(きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ。男なんだぜ。それで。

 ……ああ、間違っているのは俺じゃない現実の方だ!)

 などと、とても戦闘を生業にしているとは思えない程綺麗な肌が見える鎖骨を眺めつつ、

 愚にもつかない事を取り留めもなくつらつらと考えてしまうのもしょうがないのであった。



   * * *



 一方武器商人一行はと言うと、街道を逸れ脇道から更に山中の抜け道へと抜けているのであった。



 そんな中、富士の御山を遠目に見ながら魔狼皇と呼ばれた青年はぽつりと呟いた。

「……やっぱり、あまりあの山には近づきたくなかったかな」


 その呟きを耳ざとく聞きつけ武器商人の主は擦り寄ってくる。

「済みませんね、なにしろ伝説の刀匠の住まいは彼の山奥深くの霊峰の近辺らしいので。

 いやあいつら(改竄忍者)の拠点もその近くだと言うのは知っているのですが」


 それにあわてて身を話しながらも弁明をしてくる魔狼王。

「いえ、そんな別に文句があるわけじゃありませんよ。こちらが無理を言って連れてきてもらっているのに」


 するとそれに合わせて更に距離をつめてきつつ、

「そんな無理だなんて、こちらからお誘いした以上迷惑だなんてことはありません」

 などといいながら左腕に腕を絡ませる。


 ちなみに幼いテュール王女は魔狼王の右腕にずっと抱えられながら運ばれてきているのだが、

 先程から何かにつけて魔狼王にちょっかいをかけてくる武器商人の女を無視していたのだが、

 そんな彼女の様子に不快感を示し、とうとうその小さな手で彼女をどかそうと押しやってくる。


 だが、その様子に気を良くしたのか更に武器商人の女主『ココ』は幼い少女にまで手を出そうと構ってくる。


 そんな様子を傍目に、重い荷を担ぎながら武器商人の一行は先を急いでいく。

 騒ぎを起こす自らの主に呆れながら努めて関わらないようにしていたが流石に気になったのか年若い部下が年長の部下に話しかけてくる。


 年長者は蛸坊主然とした筋肉の塊の大男でありグラサン黒ずくめの黒人風、まさしく全身真っ黒な大男。

 そんな彼に対し、如何にも東洋人風で更にはチンピラ風という若者が馴れ馴れしくも肩に手を掛け話しかけている。

「なあおっさん、どうしてボスはあの小僧にああも構ってるんだ?」


 そんな若者に呆れながらも

「お前なあ、いくら親戚でも気軽におっさん言うな。それに俺はまだまだ現役だ!」

 などと嗜めつつも……いやさ、おっさんは何気に邪見に扱いつつも律儀に問いかけに答えていく。

 

「まあそれはともかくとしてだな、ウォッホン。知らないのか?

 彼奴との付き合いなんて割と最近になって、って……そうかそういやお前はあの頃いなかったんだったな」

「年寄りの昔話は時間感覚が狂っているからやっかいだぜ」

「あのな、同じ人生の十分の一でもそれが五年と二年じゃ倍以上違うだろうが」

「……そりゃそうか」


「それでだ、お嬢はあの坊主に昔からかなり入れあげていてな、

 まあ、なんだ。つまりはあの坊主はお嬢のご贔屓って奴だよ」

「そりゃあの様子みりゃわかるよ。それで一体いつからつるんでるんだよ?」


「……言葉遣い!」

「けっ、それで一体いつからの付き合いなんです?」


「ん〜、そうさなぁ〜。ひ〜、ふ〜、みぃ〜……

 そういや彼奴と出会った頃からお嬢も老けなくなったんだったな」

「……それ本人の前で言なよ、少なくとも俺がいる前じゃな」

 若者は巻込まれては叶わんという態度で言い放つ。


「っと、そうか! あれから十年近くか……」

「おお、くわばらくわばら。聞いて無い聞いてませんよ〜」

 っと、わざとらしく耳をふさいで拒絶のポーズをとるチンピラ。


 そんな態度に呆れながらグラサンは問いかける。

「なんだ、お前から聞きたいと言いだしたんじゃないか」

「危険がなけりゃね。って、つまりはお嬢が二十歳前の頃ってことか?」


 しばし思案顔で大男はそれに答える。

「まあ、だいたいそのくらいかな?」

「って、あのガキがホントにガキだった頃じゃねーか! 一桁台?」


 そんな風におどろく若造をたしなめながらもあの小僧の凄さを指し示してみる、

「ああ、そしてあいつはそのころ既に魔狼皇の称号を得ていたよ」

だが、そんな気遣いなんて若造が聞く訳もなく、

「ちゃー、常々ヤバイ病気でも持ってるじゃねーかとは思っていたが、これ程深い闇を抱えてるとはねぇ〜……」


「お前もヤバい事言うんじゃねーよ」

 っと蛸坊主……いやさ、司馬は呆れ返る。




 などと、背後で従者たちが戯れていいる頃、

『そういや彼と出会ったのは王女と同じような年頃で、彼もあの頃の”僕”と同じくらいの歳になったのか……』

 と、思い出に浸り出したのであった。



   * * *



 そう、彼との出会い。それは十年程前の彼が狼王ロボの後を継ぎ魔狼皇となるその襲名式のことだった。

 周辺の有力者が一同に招かれ、その有力者と顔を繋ぐため父親に命じられ襲名式に出席したのだ。

 

 その頃の私は……いや、今でもそうなんだけど周囲に対し取り繕ってはいたが内心世界と己に絶望し、内心かなり荒れていたんだ。そう、あの頃の私を色々な意味で救ってくれた彼との出会いは私にとって祝福であった。



 会場にお偉方との顔つなぎだけしてさっさと会場の外へと引き下がった時の事だ。



(僕は兵器が嫌いだ! 人殺しの道具なんて大嫌いだ! ましてやそれを売りさばく家も自分も嫌いだった)

 常に愛想笑いを浮かべているハタで、そう内心で言い募っていた僕は普段なら護衛がいないと散歩すらできない臆病者であったが警備されている会場という事ですっかり油断していて人気のない会場裏に一人抜け出していた。


 だが、そんな油断を僕の過酷な人生は許してくれなかった。


 一人黄昏ていると気づけば周囲にいつの間には巨大な蟲達が湧いてでたのだ。

 ”襲撃”自然とそんな言葉が脳裏に沸いて出た。

 ああ、大きな式典などに希によくある事態だというのにまるで他人事のような気がしていた。


 嫌がらせに虫を送りつける事などよくあることじゃないか!

 たまたま今まで経験したことが無かったのでまるで実感がもてなかったが、この過酷な業界では当たり前の事態だ。


 実際暗殺自体は割と頻繁に経験してきたが、だからと言ってなれるものでは無く僕は恐怖に引き攣り一歩も動けなかった。


 その巨大な魔獣”鎌ドーマ”達は理性のないまさに虫であり獣であったが、いやだからこそ無慈悲に、いやだからこそ……いや、イヤ、嫌、否、誰か……助けてーーーー!


 そしてその時僕は出会ったんだ!

 そう! それはまさに地上に舞い降りた告死天使アズライール!! 


 僕にまさに襲いかからんとしていた蟲達が一斉に静止し、そのまま幻のように粉みじんになっていった。

 訳のわからないまま僕が呆然としていると天から彼が降ってきた。

 年の頃はまだ年端も行かない少年十代前か!?

 一見無表情ななかに僅かに年頃の男の子らしい愛らしさを垣間見せる。


 ああ、思えば彼に初めて出会ったこの時点で、彼のその目を見た瞬間「命を否定も肯定もしない目だ」と気付かされた、それはまさしく“殺人聖者”だとわかったんだ。

 そしてその時には「人間の弱さを持たない、矛盾のない聖人のような目をしている」と心奪われていた。


 まさに地獄ヘルから天国ヘブン! 生まれいづる信仰心!!

 

 そんな風に呆然としている僕に彼は無造作に近寄ってくると

「不心得モノが式典を狙っているから事前に会場周辺を鋼糸の結界で警戒しておけって言う師匠の忠告道りだったね」

 などと、誰に言うでもない呟きが聞こえてきた。


 そして彼は僕に無造作に近づくと僕がへたり込んでいるのをいい事に、そしてちょうど彼の背でも僕の頬に届くので、

「お姉さんほっぺに返り血がついてるよ?」

 ペロリ、ペッ!  

 まさに狼が仲間の毛繕いでもするようにその頬の返り血を舐めとっていき、その血を地に吐き飛ばす。


 すると、どちらかといえばコレまで無表情に近かった彼は少し得意げな顔で、

「血は布で拭うより舌で拭った方が布が汚ず物証も出なくて都合がいいんだよ……って師匠が……

 あれ? お姉ちゃん、お鼻から血が出てるよ? 怪我しちゃったの!」


「大丈夫、これは持病の発作だから」

「お姉さん病気なの?」

「ええ、自覚はあるんですよ……自覚は」

(さて、自覚症状がある方が病が重いのやら、軽いのやら。

 ……どちらにしろ重傷のようですね……彼に)


 しかし、この時しおらしい顔で、

(毎月出血する場所があるのでそこも舐めとってくれませんか! と言ったらしてくれるかな?)

 など愚にもつかない事を考えていたのであった。



「僕の字名あざなは曹操(Cáo Cāo)と言います」

「そうそう?」

「……ツァオ・ツァオ」

「……コウコウ?」

「……言いにくければ”ココ”でいいです」


 そしてこの紹介で彼が魔狼王その人であると知った。

 ……僕は式典途中で抜け出して来たから。



誰が年明けは暇だと言ったのか?

会社は安い仕事を押し込むのを止めて欲しい……手間ばかりかかって割に合わない。

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