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7 五月家の内情

 ヒロシが五月家にやってきてひと月。

 一応たくましい男手ですから、何かと役に立っています。

 ちょっとガサツなヒロシですが、細かいめいとさんの指導の賜物です。

 家事に、五月先生の助手にと、おおむねこなせるようになりました。


「ヒロシくん、よくやってくれてるよな」

「はい」

「最近、お前の調子も良いようだ」

「ええ、もう慣れました」


 そう、最初の一週間はたいへんでありました。

 食器の洗い物は泡が残ったまま、お皿の裏の油が取れてない。

 はじが丸まったまま干したバスタオルは固くなり、Tシャツの首もとはダルダル。

 庭の木の枝は勝手に切り落とし、屋根のといを壊す始末。

 度々のことで、めいとさんに変な熱を出させました。

 まだ一つ、大きな問題があるのですがね。


「で、ヒロシはどこですか?」

「ああ、原稿用紙買いに行ってもらった」

「ご、五月様、なぜ一人で行かせたのですか!」

「い、いけなかったの?」

「はぁーあ」

「文房具屋くらい一人で行けるだろ」

「そうではございません。お金は?」

「財布渡した」

「はぁーあ」


 めいとさんのこの大きなため息、まさにこれが心配の種です。

 あ、もちろん、迷子になることではないですよ。


「あやつにお財布を渡すと、余計な物まで買ってくるんです」

「余計な物?」

「スーパーにおつかい頼んだら、お菓子をどっさり」

「ああ、ポテトチップスがやたらあったな……」

「豚の細切れ頼んだら、スペアリブまで買ってきて」

「うんうん、やたら豪勢な夕飯あったな」

「薬局屋さんに行かせたら、ダイエット食品を山ほど」

「それは……別にいいんじゃないか?」

「ええ、まあ……五月様っ!」

「ご、ごめんなさい……」


 ま、ヒロシの気持ちもわかりますよね。

 棚にずらりと並んだ商品見ていたら、つい欲しくなってしまいます。


「とにかく、うちは無駄遣いは厳禁なんですっ!」

「はい……」


 ガチャ、パタン……。


 おや、ヒロシが帰ってきたようです。

 袋の中身は……。


「五月先生、買ってきましたよ。原稿用紙」

「え? これだけ?」

「え? 他にも何か頼まれてました?」

「いや、これだけでいいんだ。はは……」


 ヒロシの興味は、食べ物だけのようです。

 このひと月で、五月家のエンゲル係数はぐーんと上がってしましました。

 つまり、食いしん坊がまた一人増えたということです。



「五月様、わたくしアルバイトをしようかと思います」

「お、ア◯バのメイド喫茶か?」

「違いますです」

「なんだ、つまらん。でもなんで?」


〈五月様の原稿料だけでは『家計が火の車だからでございます』って言ってもよろしいでしょうか……この場合〉


「八百屋さんが、お手伝いを探しているお宅があるとおっしゃってたんです」

「ふーん、なんて家?」

「朝霧さんというお宅です」

「ああ、美人の奥さんの……」

「ご存知なんですか?」

「ネタ探しに行った犬の集まる公園で、何度か話したことがある」

「アポロだったかな。取材もさせてもらった」

「ホントに犬の取材ですか?」

「断固、下心はない!」


 というわけで、八百屋さんに取り持っていただきました。

 で、めでたく(?)めいとさんは朝霧家で働くことになったのです。



「めいと、おかわり」

「ねぇ、ヒロシ?」

「ん?」

「居候、三杯目にはそっと出しって言葉知ってますか?」

「んー、知らない」


 ガツガツガツ……。

 ムシャムシャムシャ……。


「・・・」

「・・・」

「五月様ぁ……」

「う、うん。わかってる」


 こやつを放置しておくのは不安ですよね。

 かと言って、追い出すわけにもいきません。

 めいとさん、ガンバ!

 五月先生も、執筆ガンバ!

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