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24 朝霧家の引越

 マサトさん、大阪転勤の内示が出ました。

 本社の開発部署の課長に昇進、めでたくご栄転です。


「ご主人様、おめでとうございます」

「あなた、ホントにおめでとう。マグカップもスニーカーも買い直しましょうね」

「ママ、自分でダメにしたことはなかったことにしてるよ」

「サトル様、それは大きな声でおっしゃってはダメですよ」

「うん。わかってる」

「お引越の準備で忙しくなりますね。わたくしもお手伝いいたします」

「ありがとう、めいとちゃん」

「めいとも一緒に行くんでしょ?」

「へ?」

「サトル、それはママが勝手に言ってただけだよ」

「パパだって、めいとが一緒なら毎日笑っていられるって言ってたじゃない」


 めいとさん、どうしますか?

 大阪に、ついてっちゃいます?


「わたくしには五月様がいらっしゃいますから」

「そうか……めいとは行かないのか……」



 お見合いのために実家へ帰っていたヒロシ、また五月家へ戻ってきました。


「で、お相手のかわいいお嬢さんとはどうだったんですか?」

「ん? 年下で、短大出たあと地元で仕事してて、今は花嫁修業してて、お兄さんがいて……」

「で?」

「ガーデニングとか、お料理とかが好きで、農家の嫁でもいいって言ってて……」

「そういうことではなくて、ヒロシはどう思ったんですかってことです!」

「ん? 俺?」

「ヒロシの、彼女に対する気持ちです!」

「ん? 一回会っただけじゃわかんないよ」

「そりゃそうだ」

「それにしても、何で戻ってきたのですか?」

「ん? まだ学生さんたちいるから俺の居場所ないし、荷物もこっちに置きっぱだし」

「その学生さんたちがいなくなったら、実家に帰るつもりなのかい?」

「はい、先生」

「そうか。じゃあ、お嬢さんとはそれから本格的なお付き合いだな」

「はぁ、まぁ……」

「ヒロシもいなくなるのですね」

「も?」

「朝霧家の皆様は、大阪に引っ越されます」

「あ、マサトさん栄転決まったんだ」

「寂しくなるな……」

「ヒロシがいなくなったら、静かになりますです」


 めいとさん、いつもヒロシにはちょっと冷たいですね。


「ヒロシくん、あれは強がりだからな」

「わかってます」



 朝霧家では、引越の準備が進んでいます。

 めいとさんは連日、お手伝いに通っています。


「めいとも一緒ならいいのにな」

「申し訳ございません、サトル様。五月様をおひとりにはできませんから……」

「ぼく……パパたちには大丈夫って言ったけど、ホントは不安なんだ」

「不安でございますか?」

「うん。友達できるかどうか。大阪弁しゃべれないしさ、いじめられないかなって……」

「サトル様……」


 サトルくん、小さい胸に、そんな思いを溜め込んでいたなんて……。

 めいとさんには、サトルくんの気持ちがよくわかります。

 初めて東京に出てきたとき、めいとさんも方言が笑われないかと心配でした。

 それを克服するために、変な敬語が身に付いてしまったのです。


「めいとが一緒に来てくれたら、ぼく頑張れる気がするんだ」

「サトル様……」

「そうだよね。ヒロシ兄ちゃんもいなくなっちゃうし、五月先生ひとりにはできないよね」

「え、ええ。そうですね……」

「五月先生って意外と大人げないとこあるしね」

「ま、まあ……」

「だから、ヒロシ兄ちゃんにも先越されちゃってさ」

「そ、そうですね……」

「めいとがいなくちゃ、いい小説も書けないだろうしね」

「それはどうでしょう? わたくしがいてもいなくてもそれは変わらない気がします」

「ぼく、頑張るよ。頑張って、友達たくさん作る。ときどき電話していい?」

「もちろんでございます!」

「メールもしていい?」

「待っています」

「うん」

「さ、ちゃちゃっとお片付けしてしまいましょう」

「うん」


 めいとさんと、健気なサトルくんの会話でした。

 ドアの外でこの会話を聞いていたカオルさん、うっすら涙を浮かべています。

 だけど、口元が微かににんまりしています。


「うふふ」


 出ました!

 カオルさんの意味深な『うふふ』です。

 この『うふふ』には、要注意なのです。

 カオルさん、何を企んでいるのですか!

 引越前に、またひと騒動起こりそうな予感です。


「五月様ったら、クリスマスツリーに靴下干すんですよ」

「サンタさん待ってるんじゃない?」

「物干替わりにして、引っ掛けて乾かすんです」

「へー」

「やめてくださいって何度言っても、言うこと聞かないんです」

「変なの」

「ホント、大人げないんですよ」


 めいとさんと、怪しげなカオルさんの会話でした。

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