14 ホームシック
サトルくんとヒロシ、ふたりで並んで寝ています。
深夜二時、ふとんの中でサトルくんがもじもじし始めました。
どうやらこれは、おトイレのようです。
「うーん、おトイレ行きたい……ママ、おしっ……」
おやおやサトルくん、寝ぼけているのでしょうか。
隣に寝ているのはヒロシですよ。
「ねえ、ママ、おしっ……」
「なんだよサトル、トイレくらいひとりで行けるだろ」
「んー」
「部屋出て左……」
言われるままに、サトルくんはふすまを開け、左……いえ、右に行っちゃいました。
「サトル様、おトイレはこちらです」
「ママぁ」
「奥様はいませんよ。ここは五月様のおうちです」
「んんー」
サトルくんを預けることが決まったとき、カオルさんはとても心配していました。
一度は、同窓会のお泊りを断ろうかとまで考えていました。
そして、めいとさんに言ったのです。
「もう四年生だというのに、夜寝ぼけたり、時々おねしょもしたりするの」
「そうなのですか?」
「ひとりっ子だから、甘やかしちゃったのね」
「はあ……」
「めいとちゃんがうちに来る前、子ども会で一泊旅行があったのね」
「はい」
「そのとき、ホームシックになったみたいで……」
「はあ……」
「一緒に行ってた保護者のお母さんが、一晩中付き添ってくれてたみたいなの」
「そんなにですか」
「めいとちゃんのところへ行ったら、五月先生にご迷惑かけちゃうかも」
「奥様、大丈夫です。わたくしもアポロさんもいますし、お泊りの練習いたしましょ」
と、めいとさんのこの言葉に、カオルさんは納得したのです。
ま、めいとさんも実家に帰ると、逆ホームシックになるのですけど。
意外にも、サトルくんがヒロシと意気投合して、一緒に寝ることになるとは。
結局めいとさんは、夜通しサトルくんを見張るはめになりました。
アポロくんも五月先生から取り上げ、先ほどトイレを済ませました。
そして案の定、寝ぼけたサトルくんがヒロシの部屋から出てきたのです。
「ママどこぉー?」
「今夜は同窓会でお出かけですよ。さ、まずおトイレ行きましょ」
「ん」
「おひとりで大丈夫ですか?」
「ん」
ジャー……。
フキフキ……。
パタン。
「終わった……。ママは?」
「ですから、奥……」
「めいとぉー」
おっと、サトルくん、泣き出しますか?
「サトル様、わたくしのお部屋に行きましょう」
「んんー」
「アポロさんも一緒に、みんなで寝れば寂しくないですよ」
「んー」
「ヒロシと一緒だと、蹴飛ばされてしまいます。あやつは寝相が悪いですから」
「ヒロシ兄ちゃん寝相悪いの?」
「そりゃあもう。足で蹴飛ばされるわ、お布団から追い出されるわ」
「ぼくは寝相悪くないよ。おとなしく寝れるよ」
「そうですよね。まったくヒロシったら、です」
「あはは、ヒロシ兄ちゃんたら」
グガー……グビー……。
自分が話題になってるなんて露知らず、ヒロシは吞気にいびきをかいています。
実際、そんなに寝相は悪くないんですけどね。
ま、ここはサトルくんのために、お許しを。
「さ、アポロさんを真ん中に寝かせて、ふたりで挟んで寝ましょ」
「アポロあったかい」
「そうですね」
めいとさん、やっと安眠できそうですね。
ゆっくりおやすみなされませ。
クゥ〜ン、キュ〜ン……。
「アポロさんどうしました? またおトイレですか?」
キュ〜ン、クゥ〜ン……。
「お布団入りましょ、って、ここ畳の上!」
スースー、スースー……。
「サトル様、思いっきり寝相悪いです……お布団のど真ん中で大の字」
ははは、これでよく、自分のベッドからは落ちないですね。
めいとさん、しかたなく居間で毛布にくるまりました。
「アポロさんがいてくれてよかったです。おやすみなさい」
クゥ〜ン……。




