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1 新しい仕事先

 作家の五月ごがつ先生とメイドの愛糸めいとさん、ふたりで歩いております。

 どこへ行くのでしょう? 

 お散歩でしょうか?

 それとも、お買い物でしょうか?

 どちらにしてもこの道、普段は歩かない道です。


 おや、立ち止まりましたよ。


 ピンポーン……。


 インターホンを押して、どうやらこのお宅に用があるようです。

 白い壁の二階建て、表札は朝霧さんです。



「はーい。五月先生いらっしゃい。めいとちゃんも」

「こんにちは、朝霧さん」

「さあさ、中へどうぞ」

「奥様、お邪魔いたします」

「五月先生、本当にめいとちゃんお借りしていいのかしら?」

「どうぞ。使ってやってください」


 おや、めいとさん、なんかふてくされてるご様子です。

 ちょっとちょっとめいとさん、どうされたのですか?


〈だってこのおふたり借りるだの使うだの、わたくしを物のようにおっしゃって。確かにわたくし、うさぎさんやお人形さんのようにちっこくて…って誰がちっこいねん!〉


 ほよ?

 めいとさん、ひとりでノリツッコミしましたよ。


「メイド、何ブツブツ言ってるんだ?」

「いえ、何でもございません」


 朝霧の奥様がハーブティをいれています。

 ほんのり、いい香りです。

 テーブルには手作りのクッキーも用意されています。


「朝霧さんの料理は美味しいと評判ですね」

「あらやだ、五月先生。めいとちゃんには敵わないですわ」

「そんなことございません。わたくし洋食やお菓子はさっぱりでございます」


 そう、めいとさんはとかく純和風、五月先生の家とおんなじです。


「めいとちゃん、今日からお願いしてもいいのかしら?」

「はい、奥様。何なりと」

「でね、近いとはいえ、うちでの仕事が終わってから五月先生のお宅に帰るのはたいへんじゃないかしら?」

「そんなことはないですが……」

「空いてるお部屋があるの。めいとちゃんに使ってもらいたいって思ってるんだけど……どうかしら?」

「いえ、それは……」


 めいとさんはちらりと五月先生の顔を見ました。

 五月先生は奥さんと同じくらいの笑顔で言いました。


「それはありがたいことです。メイド、そうさせてもらえ」

「でも……」


 めいとさん、なかなか返事をしませんね。

 ちょっとちょっとめいとさん、どうされたのですか?


〈だって五月様、わたくしのいない間に悪さをするおつもりです。この笑顔は絶対何かを企んでいるのです……ヒロシにそそのかされてしまいます!〉


 へっ?

 ヒロシって、そんな悪いやつでしたっけ?


「男二人の家にずっとじゃかわいそ過ぎます。奥さんと女同士の話ができれば少しは気が楽になるでしょうし、いろいろ教えてやってください。よろしくお願いします」


〈そうでしたか。五月様ったら、わたくしのことちゃんとお考えくださっていたのですね。嬉しいです〉


 おや、ころっと変わりましたね。

 めいとさん、大丈夫ですか?

 五月先生にしてやられてないですか?


「奥様、どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくね、めいとちゃん」



 玄関でのお別れのシーンです。

 めいとさんは少し寂しそうです。


「では五月様、何かあったらすぐに連絡くださいましね」

「ん、わかった。じゃあな」

「五月先生、お気をつけて」

「失礼いたします」


 パタン……。


〈今までも、何度となく五月様の後ろ姿は拝見してきましたが、今ほど不安な気持ちになったことはございません。五月様、ヒロシと悪さをして、どうかお部屋を汚さないでくださいね……お掃除たいへんなのでございますからね!〉


 奥様はずーっとにこにこでした。

 見ようによっては、このお顔こそ何かを企んでいるような……。


 かくしてめいとさん、五月家と朝霧家の二重生活が始まることになりました。


 それでは、初回はこのへんで。

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