バスに巻き込まれた俺の話
これは短編「私と兄と乙女ゲーの世界」に巻き込まれた男子高校生視点です。意味が解らないという方は、ごめんなさい。
バスが崖から落ちていく。
その中に、何人もの乗客を乗せたまま。
俺も一緒に、乗せたまま。
冗談じゃねぇ。
まだ俺は十代なのに、なんでこんなに早く死ななきゃならねぇんだ。
まだまだ、死ぬ気なんてなかった。
生きていたかった。
明日はちゃんといつもと変わらず来ると、呑気に信じていたかった。
こんなバスに乗るんじゃなかった。
今日、なんで出かけようなんて思っちまったんだ。
ぐわっと押し寄せる浮遊感。
身体の感覚が、まるで身体から押し出された様に感じない。
やけにゆっくりと見える周囲の状況。
感覚という感覚が、まるで俺の周囲全方位に放たれてるみたいだ。
代わりに、自分の肉体の感覚が希薄になって。
自分という意識が、解けていきそうになる。
それは錯覚か?
だけど、このまま。
俺だって、頭では分かってんだ。
もう、死ぬしかないって。
そういう運命しか、この先にないって。
そしてそれは、もうすぐそこに迫っている。
せめて、死ぬ瞬間まで。
きっと物凄く痛ぇから。
意識の途切れるその瀬戸際まで。
この身体の感覚が、感じられないままでいればいい。
もう助からないのなら、せめてあまり苦しまずに済む様に。
出来る限り、楽に意識を手放したい。
足掻こうにも、死は圧倒的すぎて。
物凄い、恐いけど。
抵抗できない勢いで迫ってくるから。
俺、もうどうしたらいいか分からねぇんだ。
どうしたらってか、どうにもならないし、どうしようもねぇ。
それが分かってるから、無駄な抵抗しようにも、竦んで身体が動かねぇし。
情けねぇけどさ。
恐くて、恐くて、恐いけど。本当に恐いけど。
もう何もすることが見つけられなくて、俺は目を瞑って身体を丸める。
だけど目を閉じる刹那。
目に飛び込んで焼き付いた景色が………
……………。
これから死のうって時に、おかしいかも知れねぇけど。
焼き付いた景色が、ずっと消えなかった。
閉じた、瞼の裏で。
ずっとずっと繰り返される、永遠みたいに。
死に際に、変だよな。
なんでか、そんな風に思ったんだ。
死に際に見る最後の景色が。
自分の死を意識しなくなるくらい、忘れるくらい。
印象的に、脳に焼き付いた。
それも、来世まで。
生まれ変わった先の、変な世界。
何処だろうな、やっぱり変な世界。
何だかファンタジーで、まるでゲームの世界みたいな。
そんな先の先の未来まで。
何でか、その光景を引きずっちまったんだ。
ああ、ほら。
今だって目を閉じたら、浮かんでくるんだ。
俺はもう、別の人間なのに。
あのバスで死んだのとは違う人間なのに。
頭に目に焼き付いて、ふとした時に浮かんでは、消えない。
俺が最期に見たモノ。
俺と同じバスの事故、俺と同じ乗客。
だけどたった一人ぼっちだった俺とは違う、その男女。
互いに庇い合う様にして、抱き合って身を寄せ合っていた。
やけに小綺麗な顔をした背の高い男と、男に面立ちの似た小柄な少女。
互いに庇おうとする美談っぽい光景に、感動した訳でも憧れた訳でもない。
だけど何でか、印象に残った。
その時に、それを目にした時に何を感じたのか、自分でも分からない。
何かを感じる余裕なんて、無かった。
ただ目に飛び込んで、何かを思う前に焼き付いた。
そうして今も、脳裏から消えない。
なんでだか、それが意味あるモノの様に思えて。
俺にとって、重要なモノの様な気がして。
俺の前世。
最期に焼き付いた光景は、今でも消えない。
生まれ変わってから、既に20年近く。
それだけの時間が経っても、未だに消えないまま。
そうして俺は知らない世界、不思議な世界で下級貴族なんて家に生まれて。
両親と周りに望まれるまま、進路を選んで。
自分でも疑問を挟めないくらいの勢いで、騎士様、なんてものになって。
自分でどうしてこうなった? なんて考えていた頃に。
俺は俺の意識をどうしようもなく引っ張り、気になる存在と出会うことになる。
それが、前世で最後に焼き付いた姿。
互いをかばい合って死んだ二人に、深く関わる存在なんて、これっぽっちも思わずに。
彼は知らない。
自分が、乙女ゲームの攻略対象として転生したと言うことを(笑)